竜装騎士、土地を買うために宝石を出し過ぎてしまう

 エルムは普通の旅人として、村人たちに紹介された。


「え、えーっと、こちらが森の中で偶然出会った、ただの旅人・・・・・のエルムさんです」


 説明しているのはウリコなのだが、エルムの実力を隠すために助けられたことは言わないようにしている。

 そのあまりのすごさを知った直後なので緊張で冷や汗がタラリと流れる。


「宜しく頼む。俺は旅人のエルムだ。この村に住みたいと思っている」


「あぁん!? 村に住むだぁ!? いきなりなんだ、このよそ者は!!」


「ダメに決まってんだろ!」


「あたしも反対だね」


 田舎の村なので、外部の者への反発が強い。

 村人たちはウリコを除いて、似たり寄ったりの拒否反応だ。


「い、いや、その……エルムさんは、こんな白銀の鎧の派手な外見ですが、良い人なんです」


「ケッ、こんな派手な格好の都会もんはロクな奴がいねぇに違ぇねぇ」


「そーだ、そーだ!!」


 必死にフォローしようとするウリコの奮闘も虚しく、エルムは歓迎されていない。

 ──と、そこへ一人の眼光鋭い初老の男がやってきた。


「待つのだ、そやつは拙者の恩人……」


「あ、あんたは!? 石化病にかかっていたはずのショーグン!?」


 それはエルムが簡易エリクサーで助けた村人、通称──ショーグンだった。

 漆塗りの東洋甲冑を着ていて、肩幅広く、白髪を後ろでギュッと結び、片眼を眼帯で隠している。


「ショーグン、どうして身体が治って!? それに、落ち武者みたいなハゲだったのに……」


「ククク……戦場で血を浴びていた若い頃に戻ったようだわい……」


 ショーグンはエルムに近づき、ニヤリと老齢なシワだらけの笑みを浮かべた。


「小僧、ついてこい。返しきれぬ恩だが、老い先短いジジイが微力ながら力になろう」


「……あ、あのショーグンに気に入られている」


 ざわめく村人たち。

 状況がわからないエルムは、ウリコから説明をされる。


「エルムさん、すごいですね! ショーグンさんから好意を持たれるなんて!」


「……そうなのか?」


「あの方は村をずっと守ってきた方で、みんなから敬意を持たれているのです!

 都会の武術大会でも一位を取っていたとか、そりゃもう凄い方です!」


 ショーグンに気に入られたことにより、村人たちは何か言いたげながらも口を閉ざした。


「さて、村に住むのなら家を買うといい。案内してやろう」


「ありがとうショーグン、助かる」


「ふっ……特に対価を要求してこない謙虚さに惚れたのだよ、小僧」


 そのままショーグンに案内されて、ある建物まで移動した。

 そこは貴族が管理する村の土地を、貸し出すための許可する場所。

 ようするに不動産屋である。

 中にはカウンター越しに店主が一人。

 道具屋と兼業なのか、雑貨なども売っている。


「家一件分の土地を買いたい」


 エルムはカウンターにドカッと革袋を置いた。


「えーっと、ちょっと待ってねー……、勘違いしているようだけど~……」


 店主はエルムの土地を“買いたい”という言葉を訂正しようと、苦い顔をして止めに入った。

 あくまでも貸し出しであって、土地の購入ではないのだ。


「む、革袋いっぱいの金貨で足りなかったか……」


「は……金貨? 袋いっぱい?」


 よくみると金貨が入った袋を置いたエルムに、店主は唖然としていた。

 エルムは勘違いしていたのだ。

 この値段では安すぎるのか? ……そうか、貨幣価値は大陸によって違うのか、──と。

 用意してあったもう一つの袋を取り出し、カウンターの上にゴロゴロと中身を広げていった。


「追加で──竜の里で採れる大宝石に、純度百パーセントのミスリル塊だ。

 世間知らずで本当にすまなかった……」


「え……なんですか、これ、え、えぇぇぇ……!?」


 それは軽く城を購入できるような希少価値の高い物だった。


 過去、エルムは王国で様々なことを考えて資産を隠していたのだ。

 無責任なSSS依頼で犠牲になる弱者の救済資金、それを王侯貴族に感付かれないように資産隠蔽といった具合に。

 だが、本当はこの程度のものなどいくらでも手に入る。


「まだ……用意した方がいいだろうか?」


「い、いえいえいえ!! めっそうも御座いません! ははは! ありがたく料金として──」


 店主はカウンターの上に載っていた莫大な財産を両手でごっそり引き寄せようとしたのだが、エルムの後ろで控えていたショーグンが眼を光らせる。

 ビクッとした店主は、残念そうな顔で手を止めた。


「はぁ、ショーグンさんの知り合いか……。

 普段から世話になってるからなぁ……。

 ええと……土地だけなら金貨数枚で……、家が必要な場合はオプションで──」


「いや、家は作るからいらない。

 店主さん、適正価格を教えてくれて感謝する。

 良い買い物をさせてもらったよ! ここの村人は根は親切で、心優しいのだな!」


 エルムの屈託の無い笑顔。

 店主はそれを見て、自ら行おうとしていたボッタクリを恥じた。


「……まったく、あんたみたいな善人は初めて見たよ。

 家を大工に作らせるのなら、良い奴を紹介してやるぜ。

 うーんと値引きさせてな」


「大丈夫だ。それに必要以上の値引きはアナタに悪い」


 紳士的な態度を取られて、むずがゆそうな表情の店主。

 エルムは土地の使用許可証を手に入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る