竜装騎士、緑の伝説装備で雑草からエリクサーを精製する
エルムが助けた少女の話では、近くに村があるらしいので、そこに案内してもらうことにした。
エルムと少女は森の中を並んで進む。
「あ、自己紹介が遅れました! 私はボリス村の防具屋の娘──ウリコ。
ウリコ・ボグヤです!」
「……い、良い名前だな。俺はエルムだ。名字は無い」
そのまんまの名前じゃないか、とエルムは突っ込もうとしたが、田舎の村では職業が名前になるなど日常茶飯事かもしれないと思いとどまった。
「よろしくお願いしますね! エルムさん!」
「ああ、村までだが宜しく頼む」
少女ウリコは村娘らしい素朴で元気な笑顔。
背の高いエルムから見ると、ウリコはかなり小さいが、15歳くらいだろうか。
服は茶色い地味な店員用革ドレス、頭には三角きん。
エルムが観察していると、ウリコは見上げながら興味津々で眼を光らせてきた。
「ところでエルムさん、竜装騎士ってなんなんですか? 私、気になります!」
「竜装騎士か……。
簡単に説明すると、“竜騎士”というのが竜の加護を受けて戦う近接職のことで、“竜装騎士”ってのはその加護を装備にも付与している者……という感じだ」
「へ~、装備もすごいってことなんですねー」
「俺のウィルムメイルは神から贈られたもので、様々な効果があるのだが、特徴的なのは“七つのモード”に変化するということだな」
「モードチェンジ! カッコイイですね!」
「今が通常モードの“白の万象神凱ウィルムメイル”だ。あとは、“緑の創作業着クラフトモード”とか──」
「うんうん、コスプレ設定に愛を感じます! やっぱり都会の人はすごいなー! 向こうじゃ流行ってるって聞きました!」
「こ、コスプレ……」
このウリコは伝説装備を鑑定眼で見極められないため、ランク最下級にすら満たない手作り防具だと思い込んでいるのだ。
だが、それもエルムにとっては都合がいいかもしれない。
もし、今から行く村が居心地よさそうで移住する場合、一般人だと思われた方がまぎれこみやすいからだ。
「あ、でもエルムさんって、身体を鍛えてますよね? 装備補正なしで、クマと同じくらい強そうな、見たことのないアルマジロを倒しちゃうんですもの」
「いや、あれはアルマジロじゃなくて、もっと恐ろしいSSS級のモンスターで……」
「ああ、なるほど! そういう設定なんですね! 徹底していますね!
防具を扱う者としてリスペクトしちゃいます!」
せめてモンスターの危険性を伝えたかったが、まともに話を聞いてくれないらしい。まぁ、普段から現れないのなら別にいいかと思う事にした。
「着きました! ここがボリス村です!」
「お、おぉ……」
森を切り拓いて作られたであろう、そこまで大きくない村面積。
木造建築の家々、走り回る子供たち。
あるのは畑と畑と畑と、それから畑。
見事なド田舎である。
「ナイス、ド田舎!」
「エルムさん、良い笑顔で言いますね……」
「褒めてるからな!」
ここなら仕事を忘れてのんびり暮らせそうだと、思わず頬を緩めてしまうエルム。
厄介ごとは何も起きない、楽しい田舎ライフの予感がしていた。
しかしそこに──。
「か、帰ってきたかウリコ! どうだ、例の薬草は見つかったか!?」
「いえ、村長さん……すみません……」
ウリコを見つけて近寄ってきた老人──村の村長はガックリと肩を落とした。
なにやら事情があるらしい。
たしかに年端もいかない少女が一人で森にいたというのもおかしな話だ。
「ウリコ、どうしたんだ?」
「……エルムさん、実は村人が石化病にかかってしまっていて……。
さっきは特効薬となる薬草を探しに森に入っていたのですが……見つからなくて……」
「石化病か……」
その病の歴史は古い。
身体を石に変化させる、恐ろしい病気。
数百年前に魔王の一体が生み出したのだが、エルムによって根絶されたはずなのだ。
元いた王国でも特効薬が出回り、石化病は恐れられるものではなくなっていた。
だが、このノガード大陸の田舎には治療手段がなかった。
「わかった、手持ちに薬があったはずだ。探してみる」
「え、エルムさん!? 本当ですか!?」
「ああ……ただ、薬を荷物から探すところを見ないでくれ。プライベートなんでな」
「わ、わかりました」
もちろん薬など持ち歩いてはいない。
エルムはこそこそと物陰に移動。
そして、手荷物ゼロの状態から、薬を作り出すことにした。
ウィルムメイルに魔力を通して、モードチェンジを行う。
白銀の鎧は一瞬にして、布の服と緑色のエプロンに早変わり。
竜装騎士というか、日曜大工をおこなう好青年のようになった。
──“緑の創作業着クラフトモード”。
神凱七変化の一つで、戦闘には不向きなモードだ。
だが、物作りに関することなら大体を神の領域でこなせるようになる。
料理から、建築、薬品調合まで幅広く。
「さて、あとは材料だな……。
ただの石化病じゃないかもしれないから、簡単にエリクサー辺りを作っておくか」
そこらへんに生えている雑草をブチブチと引き抜いて、調合を開始した。
一歩間違うと、不老不死効果があるアンブロシアができてしまうので注意だ。
雑草の成分を分析、再構成、粉末化。
エリクサー粉薬が完成した。
それを葉っぱに包む。
「ふー、たぶんやり過ぎてはいないだろう……って、おぉ!? ウリコお前いつからそこに!?」
「あ、すみません……気になって見に来ちゃいました……」
いつの間にか背後にウリコがいた。
敵意があれば一瞬で気付くのだが、ただの興味本位で近づいてきたために察知できなかったのだ。
「手荷物がないのに、どこに薬があるのかなーって思っちゃって……」
「う、慣れない嘘は吐くもんじゃなかったか」
基本的にエルムの荷物は、伝説装備の一つである神槍の召喚効果で呼び出している。俗にいうマジックボックスと同じ効果だ。
神槍自体も普段は透明にして隠したりと、そのためにいつも手ぶらのようなものである。
「そ、それじゃあエルムさん……まさか、私がコスプレ設定と思っていたものもすべて本当で……」
「ああ、本当のことだ」
「あのアルマジロも実際はすごく強くて……」
「アルマジロじゃなくて、隕鉄蟲だけどな」
「す、すみません! 私、すごい方に、すごく失礼なことを!
ごめんなさい!! ごめんなさい!!」
「いや、気にするな。
むしろ、元のノリで正体はヒミツにしておいてくれると助かる。
俺はのんびり暮らしたいんだ」
ぺこぺこと頭を下げるウリコに対して、エルムは苦笑いをしていた。
そして、ウリコの手を握りしめる。
「ひゃっ!? え、エルムさん!?」
「これを持っていってやれ。たぶん石化病が治る」
「あ、薬ですね……ドキドキしちゃいました」
「ドキドキ?」
「な、なんでもないです! すぐに薬を届けます!」
顔を赤らめるウリコは、脱兎のごとく走り去ってしまった。
エルムは意味がわからなかった。
──その後、無事に薬が届けられて、石化病の患者は完治した。
「うおぉ!? なんか石化病になる前より身体の調子がよくなってやがる!
肩こりが、いや、全身の関節痛が消えている!
おまけに髪の毛もフサフサだぞ! 信じられない!」
その患者の様子を見て、エルムはやりすぎてしまったかもしれないと思った。
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