伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~
タック
第一章 人類最強の男、辺境の田舎で村人になりたい
竜装騎士、辺境へ
前書き。
※コミカライズから読みに来てくれた方への注意書きです。
コミカライズの原作は、このWEB版竜装騎士ではなく、書籍版竜装騎士です。
WEB版と書籍版何が違うかというと、書籍版は5割ほど新規書き下ろしシーンを加筆して、それ以外にもほぼ全ページ修正を入れています。
もはや別物、キャラがいたりいなかったりのパラレルワールドのようになっているので、コミカライズから興味をお持ちの方は書籍版のご購入をお勧め致します。
――――――――
最強の竜装騎士エルム。
彼に家族はいない。
物心ついたときから、ひとりぼっちの孤児だった。
その日のパンを与えてくれる親もなく、ミジメに野良犬のように暮らしていた。
生きるために必死だった。
徒党を組み、食料を盗み、そして裏切られ、結局ひとりぼっち。
野良犬以下の幼少期だった。
そんな中、一匹の子竜を拾って育てることになった。
金のために売り払ってしまってもよかった。
だが、コイツもひとりぼっちの孤児なんだなと思うと……情が移ってしまった。
初めて、自分より弱い者を守るという意識を持った。
エルムは子竜を認め、子竜もエルムを認めた。
人と竜は主従契約を交わす。
子竜の名はバハムート十三世。
──最強の邪竜だった。
そこからエルムの人生が変わった。
一人と一匹だけでダンジョンを攻略したり、災害級のモンスターを倒したり、6体の魔王を封印したり、神と謁見して伝説装備を複数下賜されたり。
何度も世界を救い、疑いようのない人類最強の竜装騎士へと至ったのであった。
物語であれば幸せなエンディングだろう。
だが──現実は続く。
装備効果で不老不死となっていたエルムは、その後も王国のために働き続けた。
圧政による民衆の反乱、王の跡目争い、他種族への侵攻。
醜い人と人との争い……そこに正義はなかった。
野良犬のような生活の方がマシだったかもしれないと自覚しながら、数百年もの間、王国の竜装騎士として働き続けた。
そして最近は、休み無しで二十四時間働き続けている。
今のエルムの表情は疲れ果てていた。
それを白銀の美しい竜が、心配そうに覗き込む。
「ねぇ、エルム?
ボク思うんだ、こんなブラックな待遇なら逃げちゃってもいいんじゃないかなって?」
「バハさん、お仕事というのは大切なんだ、人間はお仕事のために生きているんだ、お仕事がすべてなんだ……ハハハハ」
「……ダメだ、エルムの精神が働き過ぎてぶっ壊れてる」
この激務には理由があった。
近年、冒険者ギルドにできたランク制度である。
最初はAランクまでだったのだが、
『俺はもっと強いぞ!』
……と主張する者が出てきてSランクを作り、
『俺はもっともっと強いぞ!』
という者がSSランクを主張し、
『俺はもっともっともっと強いぞ!』
となって結果的にSSSランクが誕生した。
実際に強ければ何も問題はなかったのだが、その称号にだけ価値を見いだした王侯貴族が問題なのである。
箔を付けたい。ただそれだけで、多額の賄賂を使って分不相応なSSSランクを手に入れた。
結果的にどうなったかというと──しわ寄せがすべてエルムにきた。
つまり、SSSランクの数が多いと、難しい依頼もそれなりのハイペースでくるわけなのだ。
だが、名前だけのSSSランクでは、どうすることもできない。
そこで王侯貴族はコネを使って、正体を隠させたエルムを下請けとして働かせるのである。
実質、現在の数百人分のSSSランクの働きは、すべてエルムである。
休息を一切取らず、24時間働き続け、それでもまだSSSランク依頼が残った状態だ。
「24時間残業をすれば……どうにかなる……」
「エルム、この先……年単位のスケジュールが詰まってるよ?」
「働けば幸せになって、働けばのんびり暮らせて、働けばお金が手に入って立派な家も買えて……」
「エルム、もう現実逃避はやめよう。
どう見ても不幸せだし、のんびり出来る時間も永遠にこないだろうし、お金も中抜きされて、今いる自宅はほったて小屋だよ」
SSSランクを名乗る王侯貴族たちは、エルムが働き者なのをいいことに中抜きしまくって、下請けに回していたのである。
陰での呼ばれ方は“下請けの竜装騎士”だ。
そろそろエルムも限界に近づいていた。
「エルム……別の大陸に逃げちゃおうよ」
白銀の竜の泣きそうな瞳に、エルムは決心した。
「……そうだな、バハさん。
辺境の田舎で、ただの村人としてのんびり暮らすのもいいかもしれない」
「それがいいよ……エルム。引き継ぎ先は
その日のうちに、エルムは泳いで
……最強の竜装騎士に頼りすぎていた王国は、崩壊の一途を辿る事となった。
* * * * * * * *
──ノガード大陸。
エルムは鬱蒼と生い茂る森の中を歩いていた。
その身に纏う白銀の鎧は“万象神凱ウィルムメイル”といって、SSS防具より上の神造された伝説防具である。
SSランク以下の物理攻撃、魔術攻撃、状態異常をカット。
オート回復、対不浄、対飢餓、モードチェンジで白灰緑青紫赤黒の七つの特殊性能。
先ほども、その“青”で大陸間の海を軽く泳いできた。
とにかく人知を越えたメチャクチャな伝説装備である。
弱点としては竜に乗らないと空を飛べない事と、呪いで脱げない事だろうか。
「キャーッ!? 助けてーッ!!」
「む、少女の声が……」
森に響き渡る、絹を引き裂いたような悲鳴。
エルムは人間不信で疲れていたのだが、それでも目の前の緊急事態は見逃せない。
手に持っている槍で木々を軽々と切り裂きながら、一直線で少女のピンチに駆け付ける。
腰を抜かして動けない少女の前にいたのは、人間よりも大きなダンゴムシ──隕鉄蟲だった。
それはノガード大陸特有のSSS級モンスターで、防御が非常に頑強だといわれている。
SSS級の戦士が相手でも、そのミスリルより硬い装甲は壊せない。
だが──。
「貫け──! 零式神槍グングニル!」
伝説装備の一つである神槍は、いともたやすく装甲を穿った。
まるで脆いウェハースを指で押し込むかのように、パリパリと砕ける装甲。
隕鉄蟲は秒殺された。
「大丈夫か?」
エルムは神槍を片手で引き抜きながら、倒れている少女に手を差し出した。
少女は手を取り、立ち上がり、密着状態になったエルムをジッと見つめる。
「あ、ありがとうございます……。
あの! お名前をうかがってもよろしいでしょうか!?」
「俺か? 俺は──
「竜装……騎士……!?」
少女はエルムの鎧と槍をマジマジと観察する。
そして、パァッと表情を明るくして。
「すごいオリジナル職設定と、無駄に派手な装備! よくできたコスプレですね!」
「……こ、こすぷれ?」
「私! 近くの村の防具屋の娘で、鑑定眼を持っているんです!
ランクがつかない装備に見えるので、きっと丹精込めた手作りだろうなって!」
SSSランクより上の
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