第6話 妹
咲良と長谷川は鍾乳洞を出て土産物をみて回り、彼の運転する車で待ち合わせをした駅の近くまで帰って来た。駅を通り過ぎてから10分程走ると、長谷川は閑静な住宅街の中にある喫茶店の駐車場に車を止めた。
店に入ると以前見掛けた、クリスマスツリーを長谷川と一緒に見ていた女が立っていた。
女は長谷川を見ると嬉しそうに笑顔で近づいてくる、その様に咲良の胸はズキンと痛んだ。
女が長谷川の前まで来ると、初めて長谷川の後ろにいる咲良に気づいたようで目を丸くされた。そして女が再び長谷川に視線を戻した時には笑みを深めていた。
「紹介してくれるんでしょう、お兄ちゃん」
え‥‥‥お兄ちゃん?
考えもしていなかった言葉に呆けている間に長谷川に紹介される。
「彼女は上條咲良、友達だ」
「友達ねえ」
クスクスと笑いながら咲良に「長谷川の妹の
楓から「空いてるへ席にどうぞ」と言われ、二人で奥のテーブル席へ座ると直ぐに彼女がお水を持って来た。二人とも日替わり定食を頼むと「ごゆっくり~」と戻っていく。彼女の後ろ姿を見ていると長谷川が話しかけてきた。
「この店、妹夫婦がやってるんだ」
「そうなんだ」
そう言って店内をぐるっと見回す。落ち着いた内装でアンティークなテーブルに椅子、雰囲気としては昭和レトロな感じがする店内は混雑していて、昼時だからだろう食事をしている人が多い。
「妹の旦那がコーヒーに凝っててな、趣味が高じてこの店を始めたんだ」
長谷川の言葉に「へえ~」と頷き、改めて見てみるとコーヒーを飲んでいる人が何人かいるのが見えた。
ちょうどそこに楓が日替わり定食を運んできた。
「後で良かったらコーヒーも飲んでいって下さいね」
そう言って戻っていく後ろ姿を見ていると、意識しないまま「妹だったんだ」と小声で呟いていた。
長谷川には、はっきりと聞こえなかったようで「ん?」と聞かれるが「なんでもない」と答える。
しかし、ようやく『妹』ということに実感が湧いてきて、ささくれだっていた心が鎮まっていく。
「やっと、元に戻ったな、……そうだ、咲良、クリスマスは空けとけよ」
そんな咲良の心が分かったのか、そう言った長谷川の声はやさしく、咲良も素直に頷いていた。ようやく笑顔を見せた咲良に長谷川もホッとした様子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます