第49話時間
「それではですね、シスさんにエビルさん。まずこのレーザー銃を固定します。そのレーザー銃の射線が中心になるようにスライムさんのディスプレイを設置します。スライムさん達。もう一回256人のディスプレイになってくれますか。床から垂直になれます? 前からも後ろからもスライムさんのディスプレイが確認できるように」
「わかりました、マッドドクターさん」
さてさて、何が始まるのかねえ。究極時間魔法の使い手であるシスと究極空間魔法の使い手であるエビルが実験に協力するというのだから、どんな大掛かりな実験がなされるなんて思っちゃったけれど、またスライム256人のディスプレイで何かするのか。この世界の真理を解明する実験にしては、なんだかこぢんまりとしていませんか、マッドドクターさん。
「この状態でレーザー銃からレーザーを発射したら、ディスプレイの真ん中のスライムさんが光りますね。では、レーザー発射! トリガーは引きっぱなしにしておきます」
ピカーーー
「左から16番目ので上から4番目、つまり7Fのスライムさんが光っていますね。ではエビルさん、少しばかり空間を上に歪めてもらえますか。レーザーが曲げられて射線が上になるように」
「す、少しばかりか? 俺、そういう繊細な作業って苦手なんだよなあ。学生野球では7色の変化球を自由自在に駆使する技巧派投手って評判だったけれど、俺、技巧はからきしなんだぜ。ただ、力いっぱいに思いっきり投げたストレートのど直球を空間を歪ませてグニャグニャ変化球にしてただけで……基本的にはテクニックじゃなくてパワータイプなんだけれど……」
「理屈はいいですから、とりあえずやってみてください、エビルさん。理屈なんてものは、実験結果を確かめてからいろいろ考えればいいんです。まずはやってみなくちゃわかりませんよ」
「マッドドクターがそう言うのならやってみるけどよ、あんまり期待しないでくれよな」
大魔王軍特殊部隊の期待のルーキーであるマオウエビルがの人間のマッドドクターにあれこれ指図されてる。ちょっと前までのわたしがこの光景を見たらどう思うかしらね。『人間だ。正義の勇者様がわたし達悪党モンスターを成敗しに来たのね。返り討ちにしてやるわ。善・即・斬!』かしら。人間なのにジュエルウエポン軍に所属して、この世界を消滅させかねないジュエルウエポンを目覚めさせようとしているマッドドクターを見ていると、善とか悪とかなんなんだろうって思っちゃうけれど。
それにしても、『やってみなくちゃわからない』かあ。マッドドクターのやつ、研究室でよくわからない数式とひたすらにらめっこしてる引きこもり気質だと思ってたけれど……結構アグレッシブなのね。シスとエビルの配色の確認のために大魔王城に入り込むくらいだし。理論よりも実験が好きなのかしら。
「それ、ディストーション」
「ああ、いけませんエビルさん。あっという間に光るスライムが5F、3F、1Fと上方になって、ディスプレイに光点がなくなってしまいました。エビルさんが空間を歪ませすぎたんです。もう少し穏やかに空間を歪められませんか」
「お、穏やかに空間を歪めるのか? そんなこと今までしたことねえからな……威力をセーブしてディースートーショーン……セーブなんて、毎試合先発完投の俺は気にしたこともなかったんだけれどな」
あたしもよ、エビル。なにせ、わたしの帝都大野球部にエビルのセーワダ大学やシスのケーオー大学の打線を抑えられそうなピッチャーはわたししかいませんでしたからね。6大学野球では全試合先発完投よ。抑えのピッチャーなんていないんだからセーブ数なんて気にもしていなかったわ。肩は消耗品? 選手の将来? そんなの気にしちゃいられないわよ。わたしは野球を出世の足がかりにしか思っちゃいないんだから。大学野球で野球人生終了にするつもりだったんだから。
「なにごちゃごちゃ言っているんですか、エビルさん。僕はこの実験データーを『セーブ』しなきゃあいけないんですから。もっとじゃんじゃん実験データーを作ってください」
実験データーを『セーブ』?
「ねえ、マッドドクター。データーを『セーブ』するってどういうこと?」
「え、実験データーをチェックして紙に記録しておくことを『セーブ』するって言いませんか、マオウ課長さん」
「少なくともわたしはそんな言い方初めて聞きましたよ。シスにエビルはどう?」
「ケーオー大学ではそんな言い方は教わりませんでしたね。『記録』とか、『チェック』ですかね。『プロット』なんて言い方もありますけど」
「俺もだぜ。セーブなんて言葉、『エビル、初回から飛ばし過ぎるなよ。セーブしていけ』なんていう使い方でしか聞いたことねえぜ。データーをセーブするなんて、今まで聞いたこともねえや」
「そうなんですか。僕は今まで実験で『今回は3G、93、D1か。この数値をセーブしておこう』なんて当たり前に使ってましたんですけどねえ」
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