第48話時空

 で、マッドドクターがわたしの部下のスライムを質問攻めしている間にシスとエビルは銃のおもちゃの奪い合いをしていると。まるでここは幼稚園だな。


「エビルがそのつもりなら、こっちも実力行使に出ざるを得ませんね。時間魔法スロウリー!」


「ああ、なにするんだよ、シス。お前が時間の流れをゆっくりにする魔法を使ったから、俺が銃でレーザーを発射してもスライムが光るまでタイムラグができちまってるじゃねえか。これだとなんだかイライラする。面白くない」


「エビルがいつまでも銃のおもちゃを独り占めしてることがいけないんですよ。ほら、わたしにも遊ばせなさい」


 お、シスがエビルから銃のおもちゃを奪い取った。


「ふふふ、これでわたしの番ですね。さあ、スライムさん達。たっぷりこのマオウシスターのエレガントブリットを味わわせてあげますからね」


 こら、シス。おもちゃの銃で何をそんなに格好つけてるんだ。そのおもちゃの銃からはエレガントブリットなんてものは出ては来ないぞ。


「あ、くそ、シス。時間魔法を使うなんて卑怯だぞ。そっちがその気ならこっちだって考えがあるぞ。空間魔法ディストーションだ」


「エビル! 空間魔法なんて使わないでください。銃口をスライムさんに向けているはずなのに、レーザーをスライムさんに撃っているはずなのにスライムさんが光ってくれないじゃありませんか。エビルが空間を歪めているんですね」


「うるさい。先の魔法を使ったのはシスの方じゃないか」


 時間魔法に空間魔法。ともに高位の魔法なのに、それが使われる理由がおもちゃの銃の奪い合いとは泣けてくるわね。シスにエビル。あんた達が使ってる魔法はこの世界ではそうそう使えるものがいない特別な呪文なのよ。わたしだって使えないのに。そんな高位呪文であんた達はなに子供の喧嘩してるのよ。


 シス。あんたの時間魔法打法に大学野球でピッチャーのわたしがどれだけ苦しめられたと思っているの? 『ボールが止まって見える』なんてのはよく聞く表現だけれど、あんたの場合本当に時を止めてホームランを量産するからタチが悪いのよね。


 エビル。あんたの空間魔法投法に大学野球でバッターのわたしがどれだけ苦しめられたと思っているの? 『ホップアップするストレート』なんてのはよく聞く表現だけれど、あんたの場合本当に空間を歪めてボールをライジングさせるからタチが悪いのよね。


「もう許しませんよ、エビル。喰らいなさい。我が究極時間魔法エターナリゼーションをお見舞いしてあげます」


「何を、シス。そっちがその気ならこっちも究極空間魔法を炸裂させてやる。ビッグクランチだ」


 あ、まずい。このままではわたしの職場で究極時間魔法と究極空間魔法が放たれてしまう。なんとかしないと……


「シスさん! あなた時間魔法が使えるんですか? レーザーのスピードをゆっくりにさせていたご様子でしたけれど」


「え、ええ。使えますけれど、マッドドクターさん」


 お、マッドドクターに質問されてシスがエターナリゼーションとやらを発動させるのを辞めた。まずは一安心。で、マッドドクターの好奇心は時間魔法を操るシスだけにとどまらないだろうな。


「エビルさん! あなた空間魔法が使えるんですか? 空間を歪ませてレーザーが曲がるように見せていましたけれど」


「お、おう。使えるぜ、マッドドクター」


 エビルもマッドドクターの問いかけでビッグクランチとやらを炸裂するのを思いとどまったな。これで二安心だ。わたしはともかく、究極時間魔法に究極空間魔法の巻き添えを食らっては部下のスライムが無事ではすまないだろうからな。


「なんてことだ。シスさんにエビルさんが時間魔法に空間魔法の使い手だったなんて。マオウ課長さんとのカラーコーディネートの比較で光の三原色がどうなっているかを確かめられるだけでなく、時間魔法と空間魔法を実験できるお二人だったなんて」


 マッドドクターのやつ。時間魔法と空間魔法を目にして、スライムが綺麗なグラフィックを表示できることへの好奇心はどこかへ吹っ飛んでしまったみたいだな。


「シスさん、エビルさん。お願いします。このマッドドクターの実験に協力してください。そんな究極魔法なんてたいそうなものを使わなくて結構ですから。とりあえず、時間魔法と空間魔法の基本から実験させてください」


「わ、わたしはマッドドクターさんがそこまで言われるのでしたら協力しますけれど。マッドドクターさんには大魔王様におもちゃの銃をプレゼントしてもらって秘書課の皆様も感謝していらっしゃいますし。エビルはどうなされますか」


「お、俺もマッドドクターが言うんだったら協力するぜ。こんなに面白いゲームを作ってくれたんだからな。マオウ課長もそれでいいよな」


 どうぞどうぞご自由に。わたしの職場で究極時間魔法や究極空間魔法を発動されるよりはよっぽどましですから。


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