第46話グラフィック
「これはわたしもエビルに負けて入られませんね。こう言うのはどうですか、マオウ課長。そことここと……のスライムさん、光ってください」
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ほほう。同心円のデザインときたか。いや、同心円じゃなくて同心長方形と言うべきか。
「おっ、シスもいいデザインするじゃねえか。俺のデザインもいいけれど、シスのデザインもいい感じだな」
「本当ね。そのデザインセンスはケーオー大学仕込みなのかしら」
あ! しまった。なんだかケーオー大卒を馬鹿にする言い方になっちゃったかも。シスに『お受験しか経験していないエスカレーター組は、受験戦争を経験していないから学生時代は楽しかったでしょうねえ』なんて嫌味なニュアンスに解釈されちゃうかも。
「その通りですよ、マオウ課長。わたしの母校のケーオーでは、野球や勉強だけでなく、様々なことを学ばさせていただきました。デザインもその一つです」
あら。シスったらあっけらかんとして答えるじゃない。わたしがお受験だのエスカレーターだの内心でネチネチ思っていたのなんてまるで気にしてないみたいで……しかも、それが嫌味ったらしくなく爽やかに答えちゃうんだから。こういうのをお嬢様育ちの人の良さって言うのかしら。
小さい頃から周りの人間に優しく親切にされて育つと、こんな感じの人の言葉を悪い風に解釈したりしない爽やかちゃんになるのかねえ。わたしは貧乏育ちでモンスターの嫌な部分もいっぱい見てきたから、ついひねくれて物を考えちゃうけれど……シスみたいなお嬢様育ちだと真っ直ぐに育つものなのかなあ。だとしたら、財閥令嬢のシスに劣等感を持っていたわたしがおバカさんみたいだけれど。
「いい機会だからディープな自己紹介と行きませんか。わたしとマオウ課長にエビルの3人は大学野球ではライバルだの三つ巴だのマスコミに騒がれましたが、この3人でじっくり話す機会はありませんでしたしね。大魔王軍に入っても、研修時は鬼軍曹にしごかれて身の上話どころではありませんでしたし。研修が終わったら、それぞれ違う舞台に配属されてしまいましたしね」
身の上話かあ。わたしの貧乏話なんかしてもなあ。おや、エビルが何か言い出し始めたぞ。
「そんなの今する話じゃないだろう、シス。今はマオウ課長のスライムのディスプレイで遊ぶ時間じゃあないか。せっかくあんな楽しそうなグラフィックができたんだ。早くそいつで遊ぼうぜ」
「しょうのないお人ですね、エビルは。まあ、この射撃ゲームで遊びたいのはわたしも同じですが……それでいいですか、マオウ課長」
「そうだね、遊ぼうか、シス、エビル」
わたしが軍のそう多くない給料からいまだに奨学金を返済し続けているなんて話をするよりも、射撃ゲームで遊んだ方がよっぽど盛り上がりそうだし。
「そうなってくると、俺は大魔王様が持って行ってしまった銃のおもちゃで遊びたいなあ。やっぱり口で『A7』とか、『3B』とか言ってスライムを光らせるよりも銃をバンバン撃って遊びたいぜ」
「そうですか、エビルさん。僕の銃のおもちゃをそんなに気に入っていただけるとは、こちらも開発した甲斐がありましたよ。はい、どうぞ」
「おお、これはナイスタイミングだ。それ、バーン、バーン」
「へえ、面白い模様をスライムさん達のディスプレイが出してますね。別に光ってるスライムさん全てにレーザーを当ててるわけでもないみたいですし……いったいどんな魔法を使ったんですか?」
「それは……うわっ、マッドドクターじゃねえか。なんだよ、いきなり大魔王城のど真ん中に人間であるお前さんがあらわれて。びっくりするじゃねえか」
エビルの言うとおりよ。突然話に割ってくるんじゃありません。
「驚かせてしまったみたいですね。この前にそちらの大魔王様が持っていった銃と同じものを作ったので持ってきたんですが。なにせ、シスさんがおっしゃられた通りここまで顔パスだったものですから」
「そうですか、マッドドクターさん。このシスがお役に立てたのなら良かったです。なにせ、あの射撃ゲームをプレイして以来、大魔王様は上機嫌でしてね。あの銃のおもちゃで『バーン』なんてわたしのような秘書課の面々を撃つ真似をしてはキャッキャ喜んでるんですよ。わたしたちは、『ううっ、やられたー』なんて撃たれたふりをして倒れ込めばいいんですから楽なものです。今までの『マオウシスターちゃん、ちょっとこっち来て』なんて言われて、わたしには使うことができない最高位の攻撃呪文やブレスをされることに比べたら天国みたいになりましたよ。なにせ、こちらは痛くて痛くてたまらないのに、大魔王様が喜ぶようなリアクションをとらなければならないんですからね。軍の秘書課の仕事が人間のリアクション芸人の研究になるとは思ってもいませんでした」
大魔王のやつ、秘書課の部下相手にそんなことしてたのか。シスも大変だな。大魔王相手に『撃たないでくださいよ。絶対に撃たないでくださいよ』なんてやってたのかね。
「本当か、マッドドクター。俺、あの銃のおもちゃが欲しくて欲しくてたまらなかったんだ。シスに頼んでも、『なにせ大魔王様があの銃のおもちゃを気に入って手放さないからね』なんてつれないんだ。俺だって、あの射的ゲームやりてえってのによ。しょうがないから、部隊の隊員同士で『バーン』『バーン』なんて鉄砲ごっこして遊んでるんだ。なにせ、特殊部隊って言っても、そんな特殊部隊が出動するような事態なんて今までなかったからよ。この大魔王軍本部に人間が攻めてきたことなんてないからな。こちとら暇で暇でしょうがねえんだ。平和なのはいいんだけれどよ。退屈で死にそうだぜ」
特殊部隊がすることがないか。まあ、そもそも人間の住む地上では大魔王の四天王の一人がモンスターを従えて人間を襲いかかってるからな。そうそうこの魔界まで人間も来れないだろうし、特殊部隊なんて案外退屈なのかもね。それにひきかえ地上を支配する大魔王の四天王……最前線の過労死待ったなしの激務であることが容易に想像できるわね。何をしでかしたらそんな左遷をされるのかしら。
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