第45話射撃

「スライムさんたち、すごいじゃないですか。いつのまにこんなことができるようになったんですか? わたし、こんな面白いゲーム産まれて初めてですよ。エビルはどうですか? こんな体験したことありますか?」


「俺もこんなの初めてだぜ、シス。しかし、マオウのやつはすごいな。部下のスライムにこんな芸当させちまうんだから。悔しいけれど、あいつの上司としての器は認めざるを得ないな。野球選手としてはともかく、指導者としては今のところ完敗だぜ」


 頭が痛くなってきた。マッドドクターに言われて、柄にもなく真理の探究なんてものに頭を悩ませてみるのもいいかなと思った先に、職場に来てみればこれだ。シスとエビルのやつが、マッドドクターのやつが発明したスライム画面で、何かに興じてやがる。お前ら、わたしの帝都大に一段落ちるとは言え、一応ケーオー大学とセーワダ大学卒業のエリートだろう。そんな高学歴の大人が、そんな子供のおもちゃによくもまあはしゃいじゃって。


「シス、エビル、何か用?」


「やあ、マオウ課長。エビル君といっしょに少し顔を出しに来たんだけれどね、君の部下のスライムが、何やら何体にも分裂してモザイクアートを作っているものだからね。すっかりいっしょになって楽しんでしまったよ」


「そういうことだ、マオウ課長。しかし水臭いじゃないか。俺たちは、お前の部下のスライム君といっしょに大魔王様を楽しませた仲だってのに。そのスライム君がこんなことができるようになったって言うのなら教えてくれたっていいじゃないか」


「それはすまなかったね、シス、エビル。それにしても、いったい何をしてたんだい?」


 見たところ、シスとエビルの二人が、横長のスライム画面を立ち上げてディスプレイして、その画面を見ながら騒いでいたようだが……スライム画面に文字や絵を表示させてそんなことになるかな?


「それはだね、マオウ課長。横32人で縦8人のスライムさんたちがどういう風にナンバリングされてるかはスライムさんたちに教えてもらって理解したんだけれどね。16進数か。そんな数え方があるなんて初めて知ったよ。いい勉強になった。マオウ課長にスライムさん達、どうもありがとうございます」


 それはどうも。わたしの部下のスライムも褒めていただいて。それにしても……シスも16進数を理解できたのか。けっこうややこしい話だと思ったのに。ケーオーの幼稚舎からのエスカレーター組のシスなんて、お受験しかしていない親のコネだけでケーオー大卒のブランドを手に入れた上級モンスターでわたしとは違うと思ってたのに。ちゃんとした論理的思考もできるんだな。 


「で、俺思っちゃったんだ。このたくさんスライムがいる画面で、この前大魔王様がやったみたいな射撃ゲームをやったら面白いんじゃないかって。とりあえず『A3のスライム光れ』なんてやってみたんだ。最初はうまくいかなかったけれど、すぐにできるようになったぜ。マオウ課長のところのスライム はホント優秀だな。いや、上司のお前が優秀だからかな。ちえっ。一歩先を行かれたぜ」


 シスとエビルはそう言いながらもスライム画面上の1点を光らせる遊びを辞めようとしない。シスが『1E』とか、エビルが『93』とか言ってはそのナンバリングに対応した1点のスライムを光らせてる。そういえば、マッドドクターとモザイクアートで遊んでた時は1点を光らせるだけじゃあなかったな。


「なあ、1点を光らせるだけじゃなく、指示した場所の周りもスライムに光らせてなにか模様を作った方が見た目が派手になって面白くなるんじゃあないかな、シス」


「なるほど、さすがマオウ課長。たしかに1点だけを光らせるよりもそっちの方が見た目にインパクトがあって指示した時に楽しくなるでしょうね。どんな模様にしましょうか、エビル」


「こんなのはどうだ、マオウ課長、シス。そことここと……のスライム光ってくれ」


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「なるほど。上下左右斜めの8方向に線を延ばすわけね、エビル。いいデザインじゃない」


「マオウ課長の言う通りですよ。エビルにこんなアートの才能があったとは意外でしたね」


「よせやい、そんなに褒めるなよ。これでもベンチ入りもできなかった時は、スタンド応援席での人文字作りに精を出していたからな。これくらいはお茶の子さいさいだぜ」


 そういえば、エビルのセーワダ大学や付属高校のスタンド応援では何種類もの色の紙を使って人文字を作るのが名物になってたな。何枚もの四角形の紙でWの文字を作るのはスライムのモザイクアートに通じるものがあるもんな。


「リトルにシニアでずっとレギュラーだった俺だけど、高校時代にはスランプになってベンチ入りメンバーからも外されてスタンド応援組になったことがあってな……最初は腐ってたんだけど、人文字作りをやっていくうちにリトルやシニアのワンマンチームのお山の大将だった俺がチームってものを意識するきっかけになってな。今ではあの時があって良かったと思ってるよ」


 エビルにそんな過去があったのか。

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