第44話計算機
「そうなんですよねえ。神様がいる世界では、1月や1年で何かが周期的に動いているかと僕はにらんでいるんですが……しかし、悲しいかな今の僕にはそれを証明する手段がありませんからね。残念ながら」
証明する手段ねえ。本当にこの世界を作った神様なんて存在がいるんだとしたら、そんなのわたしやあんたがどうこうできるのかしら。わたしなんて、あの大魔王だけでいっぱいいっぱいだってのに。それにしても……
「ねえ、マッドドクターさんの話だと、大魔王様もその神様の手のひらの中ってことなの? 大魔王様が時間の測り方に『年だ月だ秒だ』なんて言ってるのは、神様がそうさせているからだって」
「さきほどの仮定が正しければの話ですけれど。それがどうかしましたか、マオウ課長さん?」
「いや、だって。あの大魔王様だって造物主である神様の手のひらの中なんだとしたら、わたしがこれから先どうなるかも決まっちゃっているのかなあって」
「ほう、運命論の話になってきましたね。いいでしょう。そのことについて話そうじゃありませんか」
しまった。これはまた話が長くなるな。
「マオウ課長さん、高校で物理やられましたか?」
「いいえ。わたし、生物選択だったから」
「となると、中学レベルで話さなければなりませんか……」
すいませんね。中学レベルの物理脳で。と言うよりも、あんた相手のレベルに合わせて話すことなんてできるの? てっきり、相手が誰だろうと自分が話したいようにやたら難しい話をして相手をドン引きさせるタイプだと思ってたのに。
「中学の時に、物を落とす実験やりませんでした? 物体がどんなスピードで落ちるかってやつ」
「やりましたけど」
「それなら、ある物体がどの位置にあって、その時の速さがいくつだから何秒後にはその物体はどこにあるかなんて問題を解いたことがありますか」
「ありますよ。この物体の10秒後の速さを求めよなんて問題でしょ」
「そうですそうです。その話を突き詰めるとですね、この世のすべての物質の位置と速さと質量、正確には運動量ですが、がわかれば、この世がそのあとどうなるか計算できるんじゃないかって話になるんです?」
やっぱりこいつ人に自分の話理解させる気ないな。運動量なんて言われても、生物選択のわたしにはさっぱりよ。でも……
「それ……計算できるんですか?」
「無理でしょうね。少なくとも僕一人では無理です。ですが、マオウ課長さんの部下のスライムさんならあるいはと、スライムさんの分裂の能力を見て思ったんですけどね」
「う、うちのスライムがですか? そんなものすごい計算ができるんですか?」
「例えばですね、1が光っているONの状態で、0を光っていないOFFの状態とします。二進数と10進数で、
10011 19
+11010 +26
101101 45
なんて本質的には同じ計算をしますがね、二進数の方は、0と0が入力されたら0、0と1か、1と0が入力されたら1、1と1が入力されたら、0と1のオーバーフローを出力させればいいんです。ただ、そのオーバーフローも考慮しなければなりませんから……」
「わかった、わかりました、マッドドクターさん」
「え? もうわかっちゃったんですか、さすがマオウ課長さんですね」
わたしには理解できない話だと言うことは理解しましたよ。で、こいつが言うんだから、多分それは正しい話なんだろうな。
「つまり、一人一人のスライムさんは複雑な計算をする必要はないんです。ですが、そのスライムさんがもう数え切れないほどたくさんいらっしゃれば、さきほど言ったような膨大な計算が可能になるかもしれないということです。とりあえず、スライムさんがどこまで分裂できるのか確認しておきたいんですが……」
「わかった。わかりました。次ここに来る時にまでに、わたしが確認しておきますから。今日のところはこのへんで。部下のスライムたちも疲れたようですし。そうだよな、お前たち。疲れてるよな。だったら、元の姿に戻りなさい」
「わかりました、マオウ課長! もうヘトヘトですよ。『どこのスライムが光れ』とか、『右のスライムに合わせろ』とか、注文が多いんですから」
「おおよしよし、ご苦労様だったね」
ふう。スライムがわたしの指示通り元の8人に戻ってくれた。マッドドクターのやつにどこまで分裂させるか確認なんてさせたら、無限に小さくされかねないからな。可愛い部下のスライムが消滅でもされたらかなわない。
「マオウ課長さんがそう言うのでしたら……それに、膨大な計算ができるようになっても、測定の精度の問題もありますし」
「そうよ。測定の精度の問題があるじゃない。そこのところも詰めておかないとダメなんじゃないの?」
「マオウ課長さんの言うとおりですね。突き詰めておきます」
正直な話、測定の精度とか言われてもピンとこないけれど……とりあえずここは部下の身の安全を優先させよう。
「それでは、また後日、マッドドクターさん」
「はい、さようなら、マオウ課長さん」
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