第42話未知数X

「だって、クリスマスってChristmasでしょ。それをXを使って略しちゃうなんて。たしかにXはクリスと読めなくもないけど。Xって未知数を示すことにも使ったりするじゃない。そんなXを、神様のChristの略に使っちゃうなんて……神様はいるかいないかわからない。そんなマッドドクターさんの主張を『X』と言う文字にこめたのね」


 どう! わたしのこの読解力。受験国語で鍛えたこの能力は伊達じゃあないわよ。『作者の気持ちとして最も適当なものを選べ』なんて問題は、エリートのわたしにかかればお茶の子さいさいなんだから。Xが未知数だとわかるのも、エリートのわたしならではよね。わたしは、受験に数学を必要しない私立文系とは違うんだから。


「いえ、そんな深い意味は……単にChristmasだと、横32人のスライムさんでは表示しきれなかったのでXを使って略したんですが……」


 なによ、それ。作者が『鬼のような編集者に締め切りを守れと脅されていました』なんて言っちゃうような展開。そう言うことじゃないのよ。『最も適当なもの』だから、そんな作者の本音を言っちゃあダメなのよ。


「なんだかすいません、マオウ課長さん。僕がたいして考えもせずに使ったXについて、そんな深読みをしていただいて。『未知数を意味するXを使うことで、神様の存在の不確定さを隠されたメッセージとして込められる』ですか。言われてみればそんな解釈もできますね。さすがはマオウ課長さんです」


 いいのよ、マッドドクターさん。そんなフォローをしていただかなくても。『なに勝手に作者の隠したメッセージなんて妄想してるんだよ。へえ、マオウ課長さんはいちいちそんな深読みをしちゃう人なんですか。けっこう文学少女なところあるんですね』なんて茶化してくださっていいんですよ。


「それにしても、マオウ課長さんとスライムさんたちのおかげで良いものができましたよ。『マッドドクターみたいな理系オタクにとっては、クリスマスもハロウィンも同じだ』なんてよくからかわれましたけれど、いいクリスマスプレゼントになりました。どうもありがとうございます」


「『ハロウィン』? クリスマスはわかるけれど、なんで急にハロウィンが出てくるんですか?」


「ああ、これは失礼しました、マオウ課長さん。このからかい文句は、われわれ研究者同士の仲間内のジョークでして……僕たちみたいな理系オタクの研究者は、クリスマスだろうとハロウィンだろうと研究室にこもりっきりだから、恋人と二人でデートなんかしないでしょう。だからクリスマスもハロウィンも同じだ。という意味ももちろんあるんですが……」


 やっぱりそう言う意味があるのか。と言うよりも、その意味しかわたしには思いつかなかったわよ。さすがに面と向かって言葉にはしませんけれどね。だけど、こいつ、自分で自分のことを『理系オタク』だなんて言っちゃったよ。わたしはその言葉を、今まで何度となく心の中では思ってても、直接口に出しはしなかったのに。自覚してても、その行動を変えようとしないのは、よっぽど真理への探求がお好きだからかしら。


 でも、スライムでのモザイクアート遊びに熱中してた様子を見ると、娯楽にまるで興味がない朴念仁ってわけでもなさそうね。むしろ、ゲームも真理への探求もこいつにとっては娯楽でしかないのかもしれないわね。ま、こちらとしてはそのほうがジュエルウエポンの眠りを覚ます横槍を入れられて助かるけれど。


「クリスマスは12月25日で、ハロウィンは10月31日でしょう。これをそれぞれDEC.25とOCT.31と略すんですが……DEC.は12月のDecemberの略で、OCT.は10月のOctoberの略ですね。 ですが、DEC.は10進数で数えたら、OCT.は8進数で数えたら、と言う意味合いもあるんです。これは僕のような研究者でないとピンとこないかもしれませんね。ちなみに、12月が10進数で、10月が8進数になっちゃう理由は、マオウ課長さんの方がピンとくるんじゃないんですか。マオウ課長さんって文系でしたよね、なら、世界史の知識があればお分かりになると思うんですが……」


「ジュリアスシーザーが自分の名前にちなんだJulyを7月にして、アウグストゥヌスが自分の名前にちなんだAugustを8月にしたからでしょう。それまで一年は3月から始まるシステムだったのを、権力者が自分のわがままで1月から始まるシステムにしちゃうんですから、庶民はたまったものじゃなかったでしょうね。だから、オクタといえばタコのオクトパスみたいに8を意味する接頭語なのに、Octoberが10月になっちゃうと」


「さすがですね。大正解です、マオウ課長さん。


 なによ、指導教官ぶっちゃって。どうせ、このあと得意げにあんたみたいな理系オタクにとってクリスマスとハロウィンが同じであるもう一つの意味を解説するんでしょ。それも、わたしみたいなエリートじゃないと理解できないような七面倒くさい解説を。いいでしょう。聞いてあげましょう。でも、面白くなかったら承知しないんだから。

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