第40話ドット絵
「すごいですよ、スライムさんたち! こんなことができるのなら早く言ってくださいよ。隠しているなんて人が悪いにもほどがありますよ」
思った通りの反応だな。まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供だな。そういえば今日はクリスマスだな。子供みたいなこいつへのクリスマスプレゼントということにしておいてやろう。
「それで、ひとりひとりが別々に光ったりできるんですか。スライムさんたち。え? 前みたいに発光しながら悲鳴を上げたりはできそうにない? いえいえ、今回は発光しながら悲鳴を上げる必要はないんです。『ここのスライムさんは光っていてください。ここのスライムさんは光らないでくださいという僕の注文に応じられますか』と聞いてるんです。え、できるんですか。それはすごい。マオウ課長さん、これってすごいことですよ」
へえ、すごいのか。またこの世界の真理の探究とやらに一歩近づくんですか。それはようございましたね。
「マオウ課長さん、部下のスライムさんをお借りしますよ」
あーあ、『お借りしてもよろしいですか』じゃなくて、『お借りしますよ』と来たもんだ。こちらの許可を求めないところが、他人に無関心な理系オタクらしいわね。
「ええと、横に32人で、縦に8人の長方形を構成できますか? そう、そうです。そしてですね……」
32掛ける8で、256人のスライムか。16進数で言えばFFね。おっと、あたしまで数を16進数で数えるようになっちゃった。だいぶスライムやマッドドクターに染められてきたわね。これじゃあ、おいしいランチや化粧品の新色の話に花を咲かす同級生に話を合わせられなくなっちゃうじゃない。どうしてくれるのよ。
「では、左上のスライムさんから、右に00、01、02、03、04、05、06、07、08、09、0A、0B、0C、0D、0E、0F、10、11,12,13、14、15、16、17、18、19、1A、1B、1C、1D、1E、1Fとします。これで32人ですね。そして、1行下がって20、21……」
なるほどね。左上を始点として、16進数で一つずつ増やしていくことで、何列目で何行目のスライムかをナンバリングするってわけね。左から11番目で上から6番目のスライムは、AAとなるわけね。16進数のAAは、10進数だと16かける10たす1かける11だから、171。そして、上から5番目ってことは一列32人のスライムが4行分すでにいるから、32かける5で、160。それに左から11番目だから11足して160足す11で171。
なるほどお。二進数で数えるスライムと、16進数で数える理系オタクは気が合うってことね
「では、今から光るスライムを支持します。01……」
■ ■
■■ ■■
■ ■ ■ ■ ■■■■■■ ■ ■■ ■ ■■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■■ ■■ ■ ■
■ ■ ■ ■■■■■■■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■■■■■■ ■ ■ ■
「次は、01……」
■ ■ ■
■ ■ ■
■ ■
■ ■■ ■ ■■■ ■■■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■■■■■ ■■■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■■■■ ■■■ ■
あらあら、なにこれ。スライムが格子模様で『Merry X'mas!』ですって。スライムが青く蛍光色で光って……結構ロマンチックなんじゃないの。なんですか、マッドドクターさん。理系オタクの癖に、気の利いたことするじゃない。
「いやあ、うまくいきましたよ、マオウ課長さん。おたくの部下のスライムさんは本当に優秀ですねえ。光る四角形をタイルみたいに敷き詰めて、その四角形の一つ一つの点滅を制御できればこういうふうに文字を表現できるというアイデアは昔からあったんですがね……なにせ、今のジュエルウエポン軍の技術力では光る四角形と言ってもせいぜい懐中電灯くらいまでしか小さくできないし、その点滅の制御方法も思いつかないしで、『こりゃ絵に描いた餅だな』と原理は思いついても実用化は諦めてたんですが……マオウ課長さんの部下のスライムさんのおかげで実用化に至りましたよ。どうもありがとうございます」
いえいえこちらこそ……じゃないわよ。『わたしの部下のスライムが何回も分裂できるのを知ったら、マッドドクターのやつが何か思いつくかな』なんて軽い気持ちでここに来たけれど、こいつ、しれっととんでもないもの発明しちゃってくれちゃったじゃない。
「ええとですね、スライムさん。そちらから見て自分の右側のスライムさんが光っていたら光る。消えていたら消えることってできますか? あ、できるみたいですね。ではそれを繰り返してください。見てください、マオウ課長さん。『Merry X'mas !』のメッセージが右に流れていって消えていっちゃったでしょう。これは、めいめいのスライムさんが自身の右側のスライムが光っているか消えているかをまねすることで、文字を一つ右にずらすわけなんですが……」
そんな説明はどうだっていいのよ。あんた、これでなにか凄いことができるようになるんじゃないの?
「ちなみになんですけれど、マッドドクターさん。これ、なにか使い道を考えてたりするのかしら?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます