第39話複数回分裂
「あ、マオウ課長。おはようございます」
今日も今日とてわたしの職場に出勤だ。おや? なんだか部下のスライムの数が多いような……
「お前ら、人数が増えてないか? ああ、そうか。食事中か。お前らは分裂再生を繰り返すことで活動エネルギーとしているんだったな。しかし、一応今は職務中だからな。間食はほどほどにしろよ。わたしだからいいようなものの、大魔王様には見られないように注意するんだぞ」
「いえ、マオウ課長。そうじゃなくてですね。この前大魔王様に楽しんでもらったあの僕たちがおもちゃの銃で撃たれるやつですね。僕たちスライムの数が増えたら面白くなるかなあと思って、分裂して発光とかができるかどうか練習してたんです。あ、すいません。勝手なことでしたか?」
「いや。構わんよ。お前らは通常の仕事はきちんとこなしているからな。勤務時間外に何をしようがそれは個人の趣味の問題だ。むしろ、あのゲームのエンターテイメント性を向上させようとしているなんて、見上げたもんだと感心したくらいだ」
「いや、そんな……ほめてくださってありがとうございます、マオウ課長」
むしろ、教科書に書いてあることばかりしか覚えようとしないで、自分から学ぼうとしないやつよりはよっぽど上等かもしれないな。かくいうわたしも、受験生時代は点取りゲームにしか目を向けないで、学ぶことの楽しさに触れあおうとしなかったかもな。
試験の点取りゲームも、わたしは優秀だったから努力すれば努力しただけ偏差値や順位が伸びたからそれはそれで楽しかったが……じゃあそれは学ぶことを楽しんでいたかと言うと、そうじゃなかったんだよなあ。現に、大学に入って試験の成績が優、良、可でしか判断されなくなったら、とたんに勉強に対するモチベーションがなくなっちゃったんだよなあ。シスやエビルを倒すために大学野球にのめりこんだってのもあるけど。
学ぶことの楽しさか。少なくとも、マッドドクターのやつは16進数や光の三原色について話すときは実に楽しそうだったな。ああいうのを学ぶことを楽しんでいると言うのかね。なんでここでマッドドクターのことなんか思い出すんだ、わたしは。
「で、お前ら。分裂した後に発光はできるのか」
「それがうまくいかないんです」
「そうか。今は全部で16人だな。とりあえず発光し続けてみろ。それ以外のことなんて考えずに。まぶしすぎないように適度な明るさでな」
「わかりました、マオウ課長。それじゃあ、いきますよ」
ピカーーーーー
「おお、光続けることはできるじゃないか。たいしたものだ。ちなみに、お前ら、それ以上分裂できるのか?」
「これ以上ですか。できますけど」
「そうか、やってみろ」
「了解です、マオウ課長」
ほほお。分裂は一回こっきりと言うわけじゃないのか。それは楽しみだ。いったいあと何回分裂できるんだろう? お、分裂し始めたぞ。16人が32人に、32人が64人に、64人が128人に、128人が256人に、256人が512人に、512人が1024人に……
「わかった。お前らの分裂能力がすさまじいことはようくわかった。とりあえずそのくらいにしてくれ。だいたい、もうスライムの原型がなくなって、ただの粒になっているじゃないか。もとに戻ってくれ。できるよな。そのまま合体できませんなんてことないよな」
「このくらいでいいんですか、マオウ課長。まだできるのに。でもマオウ課長がそうおっしゃられるなら」
ポンッ
すぐもとの8人に戻れるのか。こいつらの上司になったばかりのときは、16人から8人の戻る時でさえ混乱していたのに。こいつらも成長しているんだな。感心感心。分裂融合のトレーニングを部下のスライムがしていたと思うと、胸が熱くなるな。しかし……
「どうしたんですか、マオウ課長? なにか考えこんでいらっしゃるようですけれど?」
「いや。それだけ何回も分裂ができるんなら、なにかできそうだなと思ってな?」
「なにかがですか、マオウ課長。でも、分裂しすぎるとさっきみたいに粒粒になっちゃってもう移動もままなりませんし、戦闘ではとても使えませんと思いますけれどね」
いや。別にモンスターが戦闘でしかその能力を発揮しなければいけないなんてことはないし……この能力をなんとか有効活用できないものか……少なくとも、マッドドクターのやつのご機嫌取りにはいいかもな。あたしでさえ感心したんだから、あの理系オタクがこんなものを目にしたら……
あいつはジュエルウエポン軍でもジュエルウエポンの覚醒に携わるほどの重要なポジションにいるんだからな。しょうがない。取引相手の太鼓持ちも職務のうちだ。一つあいつのところに言って見せつけてやるか。
「おい、お前ら。今からマッドドクターのところにいくぞ。お前らの分裂を、マッドドクターに見せつけてやるんだ」
「はあ、わかりましたけれど。こんなもの見てマッドドクターさん喜びますかねえ」
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