第36話慰労

「あれがマオウ課長さんが仕えている大魔王様ですか。暗闇で、僕は装置の下でスライムさんを操作していましたから良くは見えませんでしたけれど……それでも、ワンマンな独裁者のオーラはビンビンに伝わってきましたよ」


 そうか、マッドドクター。あんたもそう思うか。マッドドクターが言う通り、大魔王のやつはワンマン極まりないんだ。自分でモグラ叩きのモグラ役をやらせておいて、わたしがキレイ系だから物足りないとは何という言い草だ。それなら、自分が人間界でリアル人間叩きをすればいいじゃないか。自分は大魔王本部の玉座でふんぞり返っているくせに。


「しかし、大魔王様がお楽しみになられたようで良かったですね、皆さん。大魔王様、すっかり銃を気に入られたようで。今頃、玉座であの銃を弄んでいるんじゃあないですか。これは、いつ大魔王直属護衛軍であるわたしマオウシスターが戻るか悩んじゃいますよ。うっかり大魔王様が銃できゃっきゃ楽しんでいるお姿を目撃しようものなら、それこそ照れ隠しにどんな八つ当たりをされるか分かったものじゃないですからね」


「そうだ、おい、マッドドクターさん。いいのか? 大魔王様があのおもちゃの銃持ってちゃったぞ。いいのか? あの銃作るの大変だったんじゃあないのか。それに、俺だってこのゲームやりたかったのに。大魔王様があんなに楽しそうにプレイしてたんだぞ。俺だってプレイしたくなるに決まってるじゃないか」


 たしかに。あの理不尽な大魔王のことだ。少しでもつまらないと感じたら、全体攻撃でスライムをいっぺんに吹っ飛ばしそうなものだ。それなのに、あのおもちゃの銃でバンバンやり続けていたんだから、このゲームの面白さは本物なんだろうな。くそ、わたしもやりたくなってきたぞ。大魔王のやつ、銃を独り占めしやがって。


「いえいえ皆さん、銃は作り直せば済むことです。大魔王さんに楽しんでいただけて何よりです」


「マオウ課長さん、マオウシスターさん、マオウエビルさん、マッドドクターさん、お疲れ様です。平気ですか? 僕たちスライムを少しずつ前進させたり、大魔王様が銃で撃つタイミングに合わせて元の場所にビュッと戻したりしてたじゃないですか。この遊技台の下って、せまっ苦しそうですけど……そんなところに四人でぎっしりになって、窮屈じゃありませんでしたか?」


 それはそうだ。これは改良の余地があるな。四人が入るには、この遊技台は狭すぎる。


「それじゃあ、わたしはそろそろ失礼させてもらうよ。おもちゃの銃に夢中になっている大魔王様はともかく、いつまでも大魔王様の身辺警護を外していたら、秘書課の上司に嫌味を言われちゃうよ。ああ、マオウ課長。マッドドクターさんの反応は敵の人間として認識しないよう警備のシステムを変更しておくよ。そう言うわけで、マッドドクターさん。これからは自由にこの大魔王城に入ってこれるよ。じゃあ、さようなら。なかなか面白い体験をさせてもらったよ。どうもありがとう」


 人間のマッドドクターが大魔王城にフリーパスで入ってこれるようになったのか……これって結構大変なことなんじゃあ。わたしが部屋で仕事してる時にマッドドクターのやつが『僕は誰でしょう』なんてことを言いながらわたしに目隠ししてきたりするんじゃあ……


 それもこれも、みんなマッドドクターのせいだな。こいつがおかしなやつだから、わたしたちモンスターが倒すべき人間だってことを失念しちゃったんだ。おい、マッドドクター。あんたは一体何なんだ。お前みたいな人間、わたしが今まで相手してきた人間はもちろん、モンスターにもいなかったぞ。


「そういうことなら、俺もおいとまするかな。なあ、マッドドクターさんよ。クリスタルの加工に俺が力になれることがあったら遠慮なく言ってくれよな。俺は開発の職人連中には顔が効くんだ。大学野球の時に俺のファンだったらしくてな。おっと、マオウ課長。今度面白いことをするときは俺も呼んでくれよな。それじゃあまたな」


 開発部の偏屈そうな連中がエビルのファンか。帝都大エリートのわたし、ケーオーガールのお嬢様のシス、体育会たたき上げのエビル……腕一本で生きてきた職人連中はエビルを応援するだろうな。


「こちらこそ、実験協力をお願いするかもしれません、マオウシスターさん、マオウエビルさん。なにせ、お二人はマオウ課長さんの光の三原色におけるコントラストカラー。たいへん興味がありますからね」


 マッドドクターさん、どんな実験をするつもりなのかな。いくらなんでも、無断であたしたちの服を切り取ったりはしないでしょうね。あまつさえ、服の中身をどうこうしたくなんてなってないでしょうね。『髪の毛一本ください』とか、いきなり言っちゃダメよ。髪の色の比較をしたいんですって目的をちゃんと説明しなきゃダメなんだからね。


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