第35話試行
「おーい、マオウちゃん。マオウちゃんのところに人間の反応があったようじゃないか。秘書課のマオウシスターがそっちにいったきり帰ってこないぞ。まったく、この大魔王様の直属護衛であることをマオウシスターは理解しているのか? 特殊部隊隊員のマオウエビルも向かったようだな。マオウちゃんたち同期三人がいるとなれば、そんじょそこらの人間なんて一捻りだろうが……おや、部屋が真っ暗じゃないか」
ぽいっ
「なんだこれは。なにをこの大魔王様に投げてよこしたんだ。これは……銃じゃないか。銃なんてロマンのかけらもないもの、この大魔王軍には必要ないと言ったのを忘れたのか。銃なんて、子供でも引き金を引けば簡単にモンスターを殺せるような代物では戦いの美学が出ないぞ。戦いとは、修行の末に身につけた剣や魔法の技術で人間がモンスターと死闘を繰り広げるからこそ、甘美な人間の恐怖が生まれると言うのに」
ピカー
「うおお。なにかが突然光りだしたぞ。お前らはスライムか? マオウちゃんの部下だったな。そんな蛍光の特技ができるようになったのか。マオウちゃんも味なマネを部下にさせるじゃないか。真っ暗闇でうっすらと光るスライムか。これはおどろおどろしいな。実に不気味だ。闇夜で光る不気味さと言えば、ゴーストも不気味だが。あれは昼間はてんでダメになってしまうからな。その点昼間も元気に活動するスライムがこうして怪しく光っていると言うのは……」
ごそごそ
「やあ、この大魔王様にスライムが近づいてくるのか。なかなか度胸があるじゃないか。普通のモンスターなら、この大魔王様と目を合わすだけでも恐れ多いと平伏するのだぞ。だというのになんということだ。マオウちゃんの最初の部下だから最弱のスライムをあてがったのだが……その度胸だけは認めてやってもいいぞ。褒めてつかわそうじゃないか」
ごそりごそり
「しかし、そうも無表情で近づいて来られると、なんだか不気味だな。だいたい、少々この大魔王様に近づきすぎではないか? 無礼であるぞ。それ以上近づいて来られると、実力行使に訴えちゃうぞ。しかし、この大魔王様が最弱のスライムに攻撃しようものなら、オーバーキルになってしまうし……おお、そうだ。この銃で撃つふりをして驚かしてやろう。銃口も何かで塞がれているし、この銃は実弾なんて出ないおもちゃの銃だから、これで『バーン』なんて驚かしてやれば、スライムなんて気絶しちゃうだろう。それ、ばーん」
かちゃり、『しえっ』
「むむ、銃で撃ったら、撃ったスライムがピカッと光ってアッというまに後退したぞ。どういうことだ。大魔王軍にはノックバックなんてシステムはないのに。どれだけダメージを受けようが、その場から一歩も動かないのが大魔王軍の掟なのに。こうなりゃ他のスライムも撃ってやる。それ、それ、それ」
かちゃり、『ふええっ』、かちゃり、『びええっ』、かちゃり、『いちっ』
「ほう、撃ったスライムが後退していくぞ。どういうことなんだ。もしかして、引き金を引けばどこを狙っていようがスライムが後退するくだらないシステムになっているのか。よし、あらぬ方向を撃ってみるか。それっ」
かちゃり、かちゃり、かちゃり。
「引き金を引けば必ずスライムが後退するわけじゃあなさそうだな。なぜだ? この銃からは何も発射されている様子はないのに、なぜこの銃で撃てばスライムは後退するのだ?」
かちゃり、『ええっ』、かちゃり、『でえっ』、かちゃり『いえっ』
「しかし……これはこれで面白いではないか。思えば、マオウちゃんたち同期の三人組でモグラ叩きをした時は、それほど面白くはなかったな。それに比べれば、スライムたちでモグラ叩きをした時の方がまだ面白かった。なにせ、この大魔王様ともあろうものが、ついつい八つ当たりをしてしまったくらいだからな」
かちゃり、『ぐえっ』、かちゃり、『しえっ』
「考えてみると、マオウちゃんってキレイ系なお嬢さんって感じだから……マスコット的な可愛らしさと言うものがないんだよね。そんなマオウちゃんを叩いても、ゲームとしては面白くないと言うか、だったらリアルに人間を虐殺すればいいじゃんって話なんだよね」
かちゃり、『ふええっ』、かちゃり、『びええっ』
「ところが、スライムを相手にするとどうだ。本来この大魔王様がひとなでしたくらいで失神するようなか弱いマスコットモンスターを相手にこのたわむれ。モグラ叩きでは、この大魔王様の八つ当たりで失神するようなスライムだから、本気で叩くわけにもいかずそれがストレスとなったが、このおもちゃのような銃を使うと、実に良いさじ加減の手なぐさみではないか」
スチャッ
「ふふふ、この銃気に入ったぞ。マオウちゃんのやつめ。こんな面白いものを自分達だけで作って楽しんでおったとは。職務中に一体何をやっていると言うのだ。罰として、この銃はこの大魔王様が没収してしまおう。没収して、こっそり一人遊びしたりポーズ取っちゃったりするとしよう」
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