第34話人力
「ええと、シスにエビル、あんたたち二人に協力してほしいことがあるの」
「協力? 何をすればいいんだい、マオウ課長。遠慮なくこのマオウシスターに言ってくれ」
「いいぜ。なんなりとこのマオウエビルに命じてくれ。俺たち同期の三人が組めばなんだってできらあ」
それは心強い。と言ってもやってもらうことは裏方の、目だなないけどきつい仕事なんだがな。
「スライムたち。さっきわたしが説明したように自分が撃たれたら個別のパターンで悲鳴を上げるんだ。できるか?」
「「「「「「「「はい、マオウ課長。さっきからずっと練習してましたから、できるようになりました」」」」」」」」
「よし、なら試してみるぞ」
かちり、『ええっ』、かちり、『びいいっ』、かちり、『しえっ』、かちり、『でえっ』、
かちり、『いえっ』、かちり、『ふええっ』、かちり、『ぐうっ』、かちり、『いちっ』。
すばらしい。マッドドクターの作った銃も、スライムたちの点滅も実にすばらしい。
「おい、マオウ課長。部下の虐待はいけないぞ。部下を銃で撃つなんて……マオウ課長がそんな女の子だったなんて……学生野球時代の、四番でエースの後輩に慕われる主将と言ううわさ話はデマだったのか?」
「おい待て、シス。銃から実弾が放たれたわけではなさそうだぞ」
「本当か、エビル? むむ、たしかにスライムがダメージを受けている様子はない。どういうことなんだ?」
「なあ、マッドドクターさんとやら。どうなってるんだ、説明してくれよ」
あ、まずい。マッドドクターのやつに説明なんか頼んだら……
「それはですね。マオウ課長さんの部下のスライムさんたちに、レーザーで撃たれて発光してもらったんです。で、この銃口を見てください。クリスタルのレンズ豆みたいなのがあるでしょう。そのクリスタルから放たれたレーザーがスライムさんに当たると、スライムさんが光ったり音を出したりする仕掛けになっているんです。もちろん、レーザーはスライムさんにダメージを与えないレベルの出力になっていますよ」
ほら、やっぱり。長々しい説明をしちゃいましたよ。マッドドクターさんが。こんなややこしい説明、わたしじゃないと理解できないんだから。ここはわたしが通訳してやらないとね。
「レーザー? それって、ルビーなんかの宝石を使って作り出す、誘導放出による光増幅放射のことですか?」
「その通りですよ、マオウシスターさん。よくごぞんじじゃあないですか。指向性と収束性に優れていて、この通り離れたスライムにも一点集中して信号を送れるんです」
「わたしの家のグループ企業でもレーザーの開発は進んでましてね、マッドドクターさん。しかし、部下のスライムさんにこんな素晴らしい特技を習得させるなんて……マオウ課長、君のリーダーシップは素晴らしいよ。先程は部下への虐待なんて侮辱を言ってしまってすまなかった。訂正させてくれ、マオウ課長」
わたしの統率力を賞賛してくれるのは嬉しいんですけど、シス。あんた、今のマッドドクターの説明で理解できちゃったの? しかも、なんだか話が弾んでるみたいだし。ま、まあ、ケーオーの幼稚舎からのエスカレーター式とはいえ、シスもエリート教育を受けているんだから、そのくらいはできるのかもね。でも、エビルの方はどうかしら。スポーツ推薦組にあの説明が理解できて?
「そのセンサーとやらを見せてくれ。むむう、クリスタルのこの加工。見事なものだ。このレンズ豆のような形状が、レーザーとやらを発生させる秘訣なのか?」
「わかってくれますか、マオウエビルさん。この加工が難しくてですね。でも、そのおかげで光が収束して指向性を持つようになるんです」
「わかりますとも。これだけの見事な加工技術を持つものは、わが大魔王軍の開発部にもそうそうはいないよ。ジュエルウエポン軍は、わが大魔王軍に比べて、歴史が浅いとは聞いていたが……これほどの技術力を有しているとは。あなどれんな。このクリスタルの加工の素晴らしさときたら」
あれれ、エビルもマッドドクターと技術談義に花を咲かせている? たしかにガッチガチの体育会系と、徒弟制度の職人システムは相性は良さそうだから、エビルのやつに職人気質があっても不思議はないけれど……なんでマッドドクターの説明をエビルが理解できちゃうのよ。
「あれ、どうかしましたか、マオウ課長さん。なに一人で手持ち無沙汰になっているんですか。これから忙しくなるんですから。マオウ課長さんが言った通りに人手が四人集まりましたからね。一人がスライムさん二匹を担当してですね、そのスライムさんが撃たれた効果音を悲鳴であげたら、すぐにそのスライムさんを元の位置に戻す練習をしなくちゃいけないんですよ。さあさあ、今すぐ始めましょう」
はいはいそうですね。わたしの危機を救うためにシスとエビルがきてくれたんだもんね。そのシスとエビルはマッドドクターさんと意気投合したみたいですし、わたしの部下のスライム射的ゲームもうまくいきそうですね。
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