第33話色相
「あ、この方たちがマオウ課長さんが言っていた同期のマオウシスターさんにマオウエビルさんですか。すごいや。本当にマオウ課長さんが言った通りですね。服が赤、緑、青の光の三原色になっている。それだけでなく、肌の色や装飾品の色まで光の三原色によるコントラストになっているんじゃないですか。なんてことだ。大魔王軍本部に来るとなれば、マオウシスターさんとマオウエビルさんに会うなんてことは予想できたのに。どうして僕はカラートライアングルを持ってこなかったんだ。あれがないと三人の色の比較できないのに」
落ち着きなさい、マッドドクター。人間であるあんたがシスとエビルに殺されちゃいけないから、慌てているシスとエビルの二人を落ち着かせようと思ってたけれど……わたしの光の三原色で変換されたってあんたが仮定した色違いのシスとエビルを見て、すっかり興奮しちゃってるじゃない。あんたを落ち着かせるのが先みたいね。シスとエビルもマッドドクターのイカレ科学者っぷりに戸惑っているみたいだし。
「なんなんだ、こいつは、マオウ課長。こいつ人間なのか? ならわたしたちモンスターの敵じゃないのか。なんでわたしたちに嬉々として近づいてくるんだ」
「おい、マオウ課長。俺はいままで人間に敵意を向けられたことはあっても、こんな感情を向けられたことはないぞ。こいつは俺たちをなんだと思っているんだ」
多分、極上の研究材料を見つけて我を忘れてるんじゃないかな、マッドドクターのやつは。マッドドクターにしてみれば、わたしたちモンスターも人間も等しく自分の研究対象としか思えないんじゃないかしらね。
「すごい。コミュニケーションも取れるんじゃないですか。いままで、ジュエルウエポン軍のモンスターを研究してきましてけれど、あいつら言語を解さないからなあ。いや、僕があいつらの言語を理解できないだけかもしれないんだけど……ねえ、マオウ課長さん。このお二方を紹介してくださいよ。この二人の話が聞ければ、どんなに研究が捗ることか」
モンスターを研究ねえ。いったいどんな研究なのかしらね。わたしたち大魔王軍でも、ただの鎧にゴーストを憑依させてリビングアーマーにしたりはしてるけれど……あんたのしている実験はそんなものを超越したイかれ具合をしてそうだけど……考えないことにしておこう。よそはよそ、うちはうちだ。
「ええと、シス、エビル。こちらはマッドドクターさん。ジュエルウエポン軍の技術者をなさっている方よ。とっても優秀なんだから。で、見ての通り人間よ。大魔王直属親衛隊のシスと特殊部隊隊員のエビルに話を通さなかったのは悪かったわ。大魔王軍の総本部に人間がいるなんて一大事ですもんね。二人が慌ててやってくるのも当然の話だわ」
しかし、シスとエビルがわたしのピンチだと勘違いして、あんなに勢い込んでやってくるとはな。シス? あんた、大魔王様をほったらかしにしていいのかしら。わたしがやられるのを心配してくれたのは嬉しいけれど、その間に別働隊が大魔王を襲撃してくる可能性もあるのよ。
エビル? あんたは特殊部隊隊員とはいえ、立場的にはヒラの隊員なんでしょう。あたしのところに来ちゃったら隊長に大目玉くらうんじゃあないの?
まあ、それだけ大魔王軍の総本部に人間がいることが前代未聞のことなんだけれど……そして、そうさせたのは他ならぬわたしなんだけれど……
「ほう、人間なのにジュエルウエポン軍の技術者を勤めていらっしゃるんですか。これは失礼しました。わたしはマオウシスターと申します。わたしにも何人か人間の知り合いはいますよ。なにせ、人間とモンスターも全くの没交渉というわけではありませんからね。それなりのつきあいはさせてもらってます。おっと、失礼。話が逸れましたね。以後お見知り置きのほどを」
へえ、シスに人間の知り合いがいるなんて初耳だな。財閥のご令嬢ともなれば、人間側のお偉いさんとコネクションがあったりするのかしら。二大勢力を戦わせて儲ける軍需産業……いやな話だけど、シスはそう悪いやつじゃないみたいだし……
「人間がモンスターの味方? そうかあれだな。育ての親がモンスターでその義理でモンスター側に味方するパターンだな。いいねえ、俺、そう言うの大好きだぜ。ああ、いいよいいよ。説明しなくてもいい。人間がモンスターに育てられる、そこには深い事情があるんだろうよ。あったばかりの俺に話すことじゃない」
エビル、勝手に納得してるみたいだけど、多分違うと思うぞ。世の中にはそんな義理と人情をはかりにかけて義理を選択するような不器用な人間もいるだろうけれど……マッドドクターがモンスターに味方しているのは、単にそれが一番研究が捗るとかそんな程度の理由なんじゃないかな。
しかし、ここでマッドドクターに光の三原色がどうとか、この世界のカラーコーディネートした造物主がどうとか考えさせると、時間がいくらあっても足りそうにない。下手すると、大魔王のやつが来かねないってのに、そんな悠長なことしてられるか。
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