第32話開発

「それは、スライムさんたち次第ですが……その、スライムさん。とりあえず8人全員をこの銃で撃ってみていいですか」


「いいですよ。やってください、マッドドクターさん」


「では遠慮なく……スライムAさんを、スライムBさんを、スライムCさんを、スライムDさんを、スライムEさんを、スライムFさんを、スライムGさんを、スライムHさんを撃ちました。これは! 撃ったスライムさんだけがちゃんと光ってる。互いにごっちゃになったりしないんですね。これなら、8人のスライムさんを標的にした射撃ゲームができますよ!」


「あの、マオウ課長……僕たち標的にされちゃうんですか?」


「平気よ。レーザーで撃たれてなんかあったかいなって思う程度でしょ。別に実弾で撃たれるわけじゃあないのよ。大魔王様にモグラ叩きされるよりは平気でしょう」


「それもそうですね。大魔王様にぶん殴られるよりはずっとマシです。ありがとうございます、アドバイスしてくださって、マオウ課長」


 まったくマッドドクターときたら。標的なんて言うからわたしの可愛いスライムがおびえちゃったじゃない。しかし、わたしはスライム とマッドドクターの通訳じゃないんだがな。それよりも……


「マッドドクターさん。マッドドクターさんの言うようにうちのスライムが個別に発光できることはわかりましたがね。音のセンサーの効果音は変えることできるんですか? 『ガシャーン』のままじゃ変ですよ。わたしの部下にさんざん芸を仕込ませておいてですね、そちらが『対処できませんでした』なんてのは無しにしてくださいよ」


「そのくらい簡単ですよ。センサーを調整すればいいんですから。それよりも……」


 簡単と来たか。そのうえ、『それよりも』とはなんだ。


「じゃあ、銃でスライムさんたちを撃った時の効果音はどうしましょう。全部同じじゃあスライムさんたちが8人になった意味がありませんし……しかし、このセンサーでは8人のスライムさんがレーザーで撃たれた時のシグナルを区別できませんし」


 たしかにそのとおりだな。せっかく銃で撃っても、光る以外のなんらかのリアクションが返って来た方がエンターテイメントとして面白いだろうし……しかし、センサーじゃ区別できないのか。だったら。


「ねえ、効果音じゃなくて、実際にスライムになにかしらのリアクションをさせたほうが面白くなるんじゃあないんですか」


「いいですねえ、それ。ナイスアイデアですよ、マオウ課長さん。でも、発光してもらうだけでもスライムさんたちは大変じゃあないんですか? そのうえリアクションもさせるなんて、少しスライムさんたちの負担が大きすぎるんじゃあないですかねえ」


 それもそうか。じゃあ、こういうのはどうだろう。


「なら、一列に並んだスライムが近づいてくる装置を作ってですね。銃である一人のスライムを撃ったら、そのある一人のスライムが元の場所まで戻ると言う仕掛けはどうですか」


「うん。それ、面白いですよ、マオウ課長さん。ですけど、その装置は大仕掛けになりそうですねえ」


 たしかに。自分で言っておいてなんだが、そんなシステムを歯車だけでどうにかできるかな。ジュエルウエポン軍はどうか知らないが、うちの大魔王軍の機械じかけなんて、歯車をモンスターのマンパワーでグルグル回してどうこうするものがせいぜいだってのに。


「ねえ、マッドドクターさん。スライムがレーザーに撃たれて光ったら自分で悲鳴をあげるのはどうですか?」


「おお、それは面白そうですね、マオウ課長さん」


「ならスライムをプレイヤーに近づけたり元に戻したりするのは人力ですね。それが一番手っ取り早い方法です」


「ですけど、僕とマオウ課長さん二人だと、いっぺんにスライムさんを四人しか操作できませんよ。僕もマオウ課長さんも腕は二本ですからね。両足も使ったらスライムさんを八人全員操作できるでしょうが……両手両足を使って四人のスライムに対応した動きをするのはちょっと無理があるんじゃあないですか」


「それなら平気ですよ。そろそろ、新しい人手が来ますから」


「新しい人手ですか?」


 ドタドタ


「マオウ課長。この大魔王軍本拠地に人間の反応が出ましたよ。なんとマオウ課長の部屋です。これは一大事です。大魔王直属親衛隊のマオウシスターの出番ですね。マオウ課長に手を出すとは、なんとも度胸がある人間さんもいたものです。いいでしょう、このマオウシスターがお相手します。マオウ課長、エビル、手を出さないでくださいよ。ここはわたし一人で片付けます。ここまで来た人間さんに敬意を表して一対一で戦って差し上げましょう」


「そう言うことだ。ジングウ球場での戦友であり、同期でもあるマオウ課長の危機を放っては置けん。賊の人間はどこだ。この特殊部隊隊員のマオウエビルが叩っ斬ってくれる。しかし、ここまでやってくるとはその人間も敵ながらあっぱれなやつだな。マオウ課長、シス、この人間俺にくれ。ぜひ戦ってみたい。もちろんタイマンだ。一人の相手に複数で襲いかかるなんて真似はこのマオウエビルはしないからな」


 そら来た。


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