第31話識別

「出力レベル調整完了! いきますよ!」


 ガチャーン!


「わ、撃たれた! マオウ課長の嘘つき! あれはおもちゃの銃って言ったじゃないですか。僕たち撃たれましたよ。今『ガチャーン』って音が……『ガチャーン』? 僕たちスライム撃ってそんな効果音が鳴りますかねえ」


 やっぱり問答無用で撃ってきやがったな、マッドドクター。威嚇とか警告とかあるでしょうに。スライムたちも驚いてるじゃない。


「おっと、効果音を懐中電灯の時のままにしていました。これはいけませんでしたね。しかし、これは大成功ですよ。スライムさんにレーザーを撃ったら電流が発生したんです。しっかりセンサーが認識しました。だから効果音がなったんです。いやあ、やっぱり推論通りの結果が出ると言うのは嬉しいものですねえ」


 予想が裏切られなくて良かったですね、マッドドクターさん。わたしも予想通りでしたよ。あんたが出力レベルの調整が完了した途端に銃の引き金を引くと思っていましたからね。でも、ちっとも嬉しくなんかありませんよ。むしろ、あらためてあんたをほっぽっておいたらなにかやらかすなと心配のタネが増えましたよ。


「あの、マオウ課長。これってどういうことなんですか」


「お前たちにレーザーとやらが撃たれたんだ。どうだ、痛かったか?」


「いいえ、マオウ課長。ちっとも痛くありませんでした」


「それはよかった。だが、お前たちでも気がつかない何かが起きたんだ。それをマッドドクターさんの持っているセンサーが認識して、効果音を出したと言うことだ。お前たちが撃たれたが、ダメージは0。しかしなにかが起こってのセンサーが反応したと思ってくれ」


「へええ、あの銃にそんな仕組みが……ちょっと見せてもらってもいいですか、マッドドクターさん」


「どうぞどうぞ。ほら、この銃口部分に透明なレンズ豆みたいな形をしたクリスタルがはめ込んであるでしょう。この形が秘訣なんですよ。この形のおかげでレーザーとして光が収束されてですね……」


「なんだかよくわからないけどカッコいいです、マッドドクターさん」


 こうして見ると、子供が遊んでいるようにしか見えないわね。体育はからきしだけど手先が器用な子供が、小学校の図画工作ですごい大作を作り上げて、それに級友が群がっていると言ったところかしら。


 まあ、マッドドクターのやつも図体は大人みたいだけどさ、人間の寿命は高々八十年なんでしょう? となると、今はおいくつなのかな、マッドドクターちゃん。十歳でちゅか、二十歳でちゅか。そんな年齢、マオウのわたしにしてみれば赤ん坊もいいところですよ。おおよちよち。


 赤ん坊をあやすと考えれば、この理系オタクの相手もそれほど悪くはないかもね。オムツは必要ありまちぇんか、マッドドクターちゃん。なんてね。


「その、マオウ課長さん。部下のスライムさんたちをもう少し強いレベルのレーザーで撃ってみてもいいですかねえ」


「まずわたしでテストするのよ、マッドドクターさん……いや、とりあえずわたしのスカートの裾でテストしてちょうだい」


 万が一とんでもない威力のレーザーが発生して、わたしが消し炭にならないとも限らないし。


「いいですよ、マオウ課長さん。それっ」


 ふむ、スカートの裾は無事と。スカートの中身は秘密のままと。


「これならダメージも少なそうね。じゃあ、わたし本体に撃ってみて」


「はい、マオウ課長さん。えいっ」


 これは……少しきつい陽の光を体の一部分に感じたくらいかな。これならスライムでも平気ね。


「じゃあ、マッドドクターさん。同じ出力レベルのレーザーをスライムに撃ってちょうだい。おまえたち、たいしたダメージはないから平気だからね」


「わかりました、マオウ課長。マッドドクターさん、遠慮なく撃ってください」


「それでは遠慮なく……いきますよ、スライムさん。やあっ! おや、スライムさん、発光してるじゃありませんか。それは自分で発光してるんですか?」


「え、僕はそんな発光しようとしてませんでしたけど……もう1回撃ってみてください、マッドドクターさん」 


「了解しました。それでは、それっ。やっぱりスライムさん光ってますよ。しかも、けっこういい感じなんじゃあないですか。僕が銃でレーザーを撃つとスライムさんがピカッと光る。やあっ、えいっ。うわあ、すごい。僕が銃で撃つとスライムさんが上手いことピカリと瞬きます」


「本当だ、マッドドクターさん。僕たちでもこんなにうまく発光をコントロールできなかったのに、マッドドクターさんに銃で撃たれるとシンクロして光っちゃう。なんでですか?」


 仲のおよろしいことで。精神年齢が同じくらいなのかしら。


「なんででしょうねえ。それを調べるためにも、マオウ課長さん。いいアイデアを思いついたんですが」


 いきなりわたしに話しかけるんじゃない。びっくりするじゃないか。コロコロ話す相手を変えるんじゃない。そう言う所が子供っぽいんだ。


「とりあえず、スライムさんたちをちゃんと紹介してくださいよ。八人もいらっしゃるんですから。一人一人お名前があるんでしょう?」


 うかつ。部下を一人一人紹介しないままでいるなんて。それをこの理系オタクに指摘されるなんて。なんたら恥さらしなんだ。ち、違う。これは、大魔王軍の本部に人間が襲来すると言う非常事態だからだ。敵である人間に、いちいち部隊全員の名前を紹介するバカがどこにいる。


 で、マッドドクターは敵である人間だから、ターゲットの指定のために部下のスライムを識別する必要がある。うん、そういうことだ。


「そ、それもそうだな。お前たち、マッドドクターさんに自己紹介しなさい」


「「「「「「「「わかりました、マオウ課長」」」」」」」」


「スライムAです」


「スライムBです」


「スライムCです」


「スライムDです」


「スライムEです」


「スライムFです」


「スライムGです」


「スライムHです」


「僕はマッドドクターです。それでですね、マオウ課長さん。銃で狙うターゲットが懐中電灯一つだけじゃなくて、複数あったらもっと面白いと思いませんか」


「そりゃあ、そんなことができたら面白そうだけれど、そんなことができるんですか」


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