第30話標的

「あ、マオウ課長。おはようございます……そちらはどなたですか?」


「こちらはジュエルウエポン軍で技術者をしていらっしゃるマッドドクターさんだ。マッドドクターさん。ここにいるのがわたしの部下のスライムたちです」


「よろしくお願いします、スライムさん。僕がマッドドクターです」


「「「「「「「「こちらこそよろしくお願いします、マッドドクターさん」」」」」」」」


「それでお前たち。新しく身につけた発光の特技をマッドドクターさんに見せてやってくれ。まぶしくしなくていいから、蛍の光くらいのやつを頼む」


「わかりました、マオウ課長。それっ」


 ピカッ


「ほう! たしかにこれはすごい。どんな原理で光っているんですか。気になりますねえ。マオウ課長さん、解剖は……だめですよね、やっぱり。じゃあ、せめて血液採集だけでも……血液流れてるんですか?」


 だから、人の部下を研究用のモルモットとみなすんじゃない。


「あの、マオウ課長……これから何が始まるんですか?」


 おおよしよし。わたしの可愛い部下たちよ。怯えさせてしまってごめんね。


「お前らに少し実験に協力してもらおおうと思ってな。だいじょうぶ。人体実験とかそう言うやつじゃないから。このマッドドクターさんは、悪い人間かもしれないがわたしが厳しく監視の目を光らせているからそのあたりは問題ない」


「人間なんですか、マッドドクターさんって。マオウ課長、平気なんですか? 人間を大魔王軍本部に招いちゃって」


 そういえば……いままで大魔王軍の本部に人間が入り込んだなんて事例があったかな? なかったはずだ。しかし、マッドドクターはジュエルウエポン軍の技術者だから……なんでわたしがこんなに頭を悩まさなければならないんだ。それもこれも、人間なのに人間を滅ぼそうとしている軍に所属しているお前が悪いんだぞ。なんで人間が人間を裏切るんだ。


 モンスターはモンスター同士仲良くして、人間は人間同士仲良くする。そして、モンスターと人間が戦う。世の中ってそう言うものじゃなかったのか、まったく。


「多分大丈夫だ。で、マッドドクターさん。発光原理が気になるのもわかるが、ここに来た目的を忘れているんじゃありません?」


「ああそうでした、マオウ課長さん。ではこのおもちゃの銃で……」


「わ、鉄砲だ! マオウ課長、やっぱりそいつこの大魔王城に侵略に来たんじゃあないですか?」


 まあ落ち着きなさい、わたしの可愛い部下のスライムよ。このマッドドクターさんは侵略に来たんじゃあないのよ。あくまで『研究開発』が目的で来たのよ。そっちの方がタチ悪いかもしれないけれど……


「平気よ、スライムたち。別にあんたたちに危害を加えるつもりじゃないんだから。マッドドクターさん、とりあえずそのレーザーとやらをまずわたしに撃ってちょうだい。部下のスライムに試すのはそれからよ。大丈夫、少なくともわたしは懐中電灯よりは頑丈にできているから」


「マオウ課長さんがそうおっしゃるのなら……とりあえず手のひらに、えいっ。どうですか、マオウ課長さん。痛いですか?」


「それこそ蚊に刺されたほどにも感じないわね。これならスライムでも問題ないでしょう。お前たち、この通り、この銃で撃たれてもまるでダメージがない。このマッドドクターさんは、そのまるでダメージを与えられない銃でお前たちを撃ってみる実験がしたいそうだ」


「そうなんですか、マオウ課長。なんだか変わった人ですね」


 お前らもそう思うか。マッドドクター。あんた、スライムにまで呆れられてるわよ。どうせ、あんたには人間の友達なんていやしないでしょうし、ジュエルモンスター軍でも浮いてそうだもんね。あたしはあんたに利用価値があるから付き合ってあげてるけれど……


「それではスライムさんたち、いきますよ。問題ありませんからね。出力は最低レベルにしていますからね」


 最低レベルときましたか。最高レベルにしたら兵器に転用できるってことなのかしら。


「マオウ課長。なんだかこのマッドドクターさんって人が怖いです。だって人間なんですよ」


「だから、平気だって。あれはおもちゃの銃なの」


 とは言うものの、マッドドクター。ここは大魔王軍の本部なのよ。そこでおもちゃの銃を取り出したらどんなことになるか想像つかないの。あんたは人間なのよ。銃を持った人間がモンスターの本拠地にいる。こんな非常事態、大魔王護衛軍が総出でやってきかねないんだから。シスとエビルに話を通したほうが良かったかしら。


「お前たち、覚悟しておきなさいね。もうすぐあのマッドドクターがお前たちスライムに銃を向けて引き金を引くからね。いい、あれはあくまでおもちゃの銃なんだから」


 どうせ、マッドドクターのやつはすぐさまわたしの部下のスライムに向けて引き金を引くんだろうなあ。実験結果をすぐに出したくてたまらないんだろうなあ。言っておくけど、子供の遊びじゃないのよ。研究者とは言え、あんた立派な軍属じゃない。そんなあんたが、同盟軍のモンスター相手におもちゃとは言え銃口を向ける……断じてそんな真似パブリックな場所でやったらダメなんだからね。外交とかそう言うの、こいつにわかるのかね。

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