第28話感知
「へえ、光るスライムですか。それは、一度この目で見て見たいですねえ、マオウ課長さん」
思った通りだ、マッドドクターのやつ。また素数の話をああだこうだされてはかなわないから、開口一番で部下のスライムが発光できるようになったと知らせて良かった。
「マオウ課長さんの部下のスライムさんが発光できるんでしたら、面白いものがあるんですよ。今お見せしますね」
なんと、スライムが発光できるようになったと知らせたら何か閃くとは思っていたが、既に面白いものがあるのか。これは楽しみじゃないか。
「これですよ。おもちゃの鉄砲ですね」
鉄砲かあ。うちの大魔王軍じゃ鉄砲は扱っていないんだよなあ。なにせ、開発担当が昔気質の職人だからなあ。新しいことを導入しようとすると、露骨に嫌な顔をされるだろうし。
「おや、マオウ課長さん。なんだか不満そうな顔をされてますね。そういえば、マオウ課長さんのところの大魔王軍では銃は使われていないようでしたね。ですが、勇者が重火器で武装してやってくるかもわかりませんし、試しにやってみるくらいはいいんじゃあないでしょうか。それにこれはおもちゃですし。はい、どうぞ」
なんだ、こいつ。こっちが不満げなのを見抜いてきやがった。他人の気持ちなんて意に介さない空気の読めないやつと思っていたのに、なんでわたしの気持ちに配慮してくるんだ。研究室にこもりっきりの理系オタクがそんな気配りをするんじゃない。
「で、あれがマトです。マトに向けて、銃の引き金を引いてみてください、マオウ課長さん。だいじょうぶですよ。おもちゃですからタマは出ません」
マトか。懐中電灯があるな。光ってはいないみたいだけど。しかし、このマッドドクターの顔。『How many dead people?』と書かれた紙をチラチラ見ていた時と同じ顔をしてやがる。またなにか仕込んでやがるんだな。子供がいたずらを仕掛けた時みたいな顔をしちゃってさ。いいだろう。乗ってやろうじゃないのよ。
「じゃあ、やってみるか。それっ」
かちゃり、ガシャーン!
「うわ、『ガシャーン?』懐中電灯が割れたのか……いや、そうじゃないな。割れてない。じゃあ、『ガシャーン』て音はどこから?」
「このスピーカーからですよ、マオウ課長さん。懐中電灯を狙ってその銃の引き金を引くと、スピーカーから音が出るようになってるんです」
「『懐中電灯を狙って』だと? なんでそんなことがわかるんだ? 引き金を引いたら、どこを狙ってようがスピーカーから音が出るようになってるんじゃないのか」
「お疑いなのでしたら、どこか他の方に向かって引き金を引いてみたらいかがです?」
「よし、そこまで言うのならやってやろうじゃないか」
かちゃり、かちゃり、かちゃり
ちっとも音が出ない。じゃあ、懐中電灯を狙うと……
ガシャーン
音が出た。どうなってるんだ?
「不思議がってますね、マオウ課長さん。しょうがないですね、説明してあげましょう」
ちえっ、まんまとこいつの術中にはまってしまった。気に入らない。
「その銃の銃口部分から指向性の光……レーザーって言うんですが。が出るようになっていましてね、そのレーザーで懐中電灯の電球の部分を撃つと、効果音が鳴るようにセットしてあるんです」
レーザーねえ。また聞き慣れない単語が出てきたな。それにしても……
「そのレーザーとやらで懐中電灯を撃っちゃって平気なんですか。懐中電灯が壊れちゃったりしないんですか」」
「平気ですよ。そんな破壊力のあるレーザーじゃありませんし。ちなみに、それ懐中電灯じゃあありませんよ。懐中電灯を改造したものです。スイッチいじってみてくださいよ」
本当だ。スイッチをオンオフ切り替えても、懐中電灯が光ったりはしない。じゃあ、この懐中電灯らしきものはいったいなんなんだ。
「それはですね、電気エネルギーを光エネルギーの変換する装置である懐中電灯の役割を逆にしたものなんです、マオウ課長さん。本来ならば懐中電灯というものは、電池から電流を流れさせて電球を光らすものなんですが、それは電球の部分を光電管に変えたものなんですよ。光電管というものは、光電効果を利用した光をあてると電流が流れる装置でして……」
へえ、こいつは懐中電灯をそんな不思議アイテムに改造しちゃったのか。それで何をするかといえば鉄砲ごっこ遊びときた。この技術を応用すれば何かいろいろできそうなのに。
「で、マオウ課長さんがそのおもちゃの鉄砲から発射させたレーザーをその光電管か感知すると、信号が発信されてスピーカーから音は出る仕組みになってるんですね。ガチャーンって。どうです。実弾を撃たなくても鉄砲遊びができるんですよ。楽しいでしょう」
確かにな。実弾や本物の銃が規制されていたらこれは有用だろうけど……人間とモンスターが血なまぐさい戦闘をしているこのご時世にこれが何か役に立つのかねえ。遊びとしては楽しいだろうけれど。
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