第27話発光

 ふう、あの後マッドドクターときたら、やたら大きい素数を出してきたな。しまいには10進数表記では長くなりすぎるから、指数関数まで出してきて……さすがに、『あとは先送りにしましょうか』と提案しちゃったぞ。このマオウちゃんが。


 先送りなんて、無能な老害の言う言葉だと思ってたが……マッドドクターの話はどうも専門的すぎてなあ。あんなのと付き合える人間はそうそうはいないだろうな。


 さて、今回も部下のスライム を鍛え上げるとするか。


「お前たち、耐久性はあげているか。大魔王様の八つ当たりでダウンするようじゃ話にならないんだからな。わっ、まぶしい!」


「あ、マオウ課長。見てください。マオウ課長の言う通り耐久性を上げようと特訓してたら、新しい特技を覚えたんですよ。まぶしいひかりを出せるようになったんです」


「それはすごいな。新しい特技を覚えるとは」


「へへへ、褒めてくださってありがとうございます」


 特技を新しく覚えるとは……やはりこいつらスライムは伸び代が大きいのかもしれない。これは、わたしの指導力がおおいに試されるな。気を引き締めねば。


「でも、覚えたばっかりでうまくいかないときもあるんですよ。さっきは強烈な光を出せませたよね。あれなら人間を怯ませられると思うんです。けれど、蛍の光程度しか光らない時もあって……」


 蛍の光か。こいつらスライムの半透明の青い体がそんな風に淡く光ったら観賞用としてはいいだろうが、戦闘に役立つかと言われるとなあ……青い蛍光……最近そんなものを見た覚えが……そういえば、マッドドクターのやつに光の三原色の説明をされた時に、懐中電灯に青いフィルムを張って光らせた時がそうだったな。


「お前ら、蛍の光程度の光ならうまくコントロールできるのか?」


「そのくらいでしたら。強い光はまだまだ出せませんけれど、弱い光ならいつでも出せますよ」


「よし、やってみろ」


「マオウ課長がそう言うのでしたら」


 ピカピカ


 ほう、これはきれいだ。ネオンサインみたいだ。しかし、大魔王軍の軍人がカジノやバーのネオンサインをやると言うのも……それにしても青い蛍光か。これに赤と緑の蛍光が揃えば光の三原色になるんだがな。


「お前ら、同じグラフィックの色違いのスライムはいるのか」


「ええ、いますよ。赤いスライムと緑のスライムがいます」


 いるのか! しかも赤と緑ときた。まさに光の三原色じゃん。マッドドクターの言う神様とやらが光の三原色でカラーコーディネートしたとしか思えないな。


「けれど、赤いスライムはともかく、緑のスライムは……その、折り合いが悪いと言いますか……」


 折り合いが悪いと来たか。同じスライムなのにそんなこともあるのか。いや、同じすらいむだからこそかもしれないな。わたしもシスやエビルのことは憎らしく思ってたし。


「なにか事情でもあるのか。良かったら説明してくれないか」


「それが、緑のスライムはスライムナイトの騎馬になるものって昔から決まってるんです。で、僕たち青のスライムや赤のスライムとは、いろいろライバル心があるって言うか……こちらとしては向こうを『ナイトの威光を傘にきてる』なんて煽ったり、向こうは向こうで『でも、お前ら弱いじゃん』なんてこっちを煽り返したりなんかしてたりで……」


 スライムはスライムで色々あるんだな。しかし、光の三原色のスライムが揃って発光できるようになったら、それこそマッドドクターのやつが狂喜乱舞するだろうけど……緑のスライムはスライムナイトの騎馬になるものかあ。これはスライム三原色の実現は難しそうだなあ。とりあえず……


「お前ら、その蛍光の状態のままモグラ叩きはやれるか? 夜の暗い中、光ったスライムの

モグラ叩きなんてなかなか洒落てると思うんだが」


「じゃあ、ちょっと叩いてみてください、マオウ課長。僕たちこのままポヤポヤ光ってますから」


「そうか。じゃあ、軽く叩いてみるぞ。それっ」


 ポカリ、ぴかり


「うおっと、急にまぶしく光らないでくれ。びっくりするじゃないか」


「すいません。まぶしく光るつもりはなかったんですが……軽いダメージでも受けると光の制御がうまくいかないみたいです。もうしわけありません、マオウ課長」


「いや、お前らが謝ることじゃない。光ることができるようになっただけでも大したものなんだ。わたしの注文が欲張りすぎただけのことだ。気にしなくていい」


「はあ、光るってそんなすごいことなんですかねえ。だって、マオウ課長もまぶしがるだけでダメージはないみたいですし。この特技、そんなに役に立つ特技じゃないんですかねえ」


 戦闘ではそうかもしれんな。しかし、戦闘だけが仕事ではないのだ。たしかに光の三原色は揃わなかったが、これはこれで面白いじゃないか。そして、わたしがそう思うと言うことは、あの絵に描いたような物好きのマッドドクターは、さらに面白がるに違いない。そうなればやつのことだ。また何か閃くに違いない。それがわたしの出世の足がかりとなるのだ。


 

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