第22話オーバーフロー
「へえ、そんなことがあったんですか、マオウ課長さん」
なにが『そんなことがあったんですか』よ。白白しい。人を『???!!!???』なんて手紙で呼びつけておいて。モールス信号を軍で覚えさせられたなんて言った途端にこれよ。『???!!!???』ってモールス信号で『SOS』ってことじゃない。そんなにモールス信号で秘密の通信ごっこがしたいのか、こいつは。
「それにしても、1111の次は0000ですか。たしかに、なにも処理をしておかないとそうなりますね。数が最大値になったからって、そこでおしまいと言うのは少し理屈としては単純すぎますからね」
あーあー。そうですか。二進数で1111で、数えるスライムが四人しかいないからそこで打ちとめなんて単純ですか。理論が厳密じゃなくてすみませんね。検証が不十分で申し訳ありませんでした。
「ですが、そこまで難しい話でもないんですよ、マオウ課長。時計をイメージしてください。十二時の次は一時になるでしょう。それと同じように思っていただければ良いんですよ」
そういえば、時間の測り方だと、十二時から一時になるな。それと同じことなのか。なんだ、一つ前のスライムが1から0だなんて難しく考えてたわたしがバカみたいじゃないか。時間は二でも三でも四でも六でも割り切れる十二を基準として、それを過ぎたら一に戻る。そう言うことか。
「たしかに、マオウ課長さんがお考えになられたような一つ前の桁のスライム云々で考えるのも素敵ですけど……マオウ課長さんそう言うのお嫌いそうですもんねえ。例えば、その十二から一の戻るなんて考えを突き詰めていくと、『ガロア群』という概念になるんですが……聞きたいですか?」
「丁重にお断りするわ」
なにが『ガロア群』よ。こっちは部下のスライムの耐久性向上の報告で大忙しだってのに、そんなものに構っていられないわよ。それにしても、時計でイメージすればいいなんて、それこそ文系のわたしが言いそうなことなのに、理系オタクのこいつに言われるなんて。そして文系のわたしが、理系オタクがいかにもやりそうな桁の繰り上がりがどうのこうのなんてややこしく考えるなんて……
「じゃあ、こんな話をしましょう。この前ステータスの上限はたいてい255だって話をしましたよね」
「そう言えばそんな話もしたわね」
「ところが、今みたいに、1111の次は0000になっちゃうということを考えると、ステータスが255のままだってのは特別な処置が施されてると思いませんか、マオウ課長さん。やっとの思いでステータスが255になったら、次のレベルアップで0とか1になっちゃったら目も当てられませんものねえ」
「それも、マッドドクターさんの言う神様の仕業ってことになるのかしら」
たしかに、ステータスの数字を部下のスライムみたいのが触手をピョコピョコして増やしていると考えると、255になりました。そこで成長終了です。なんてことはいちいち言わなきゃ255から0にしちゃいかねないもんね。
「神様がいるとしたらですけどね。ですが、神様もたまにはミスをするんじゃないかと僕は思っちゃったりもするわけです」
「へえ、例えば」
「例えばですね、なにかを突き詰めた人が、お年を召されてボケちゃうことがありますよねえ。あれなんて、255のステータスが0になっちゃったせいだと僕はにらんでるんですけどね。あくまで可能性の話ですけども」
そう言えばそんな話を最近よく聞くなあ。ボケおばあちゃんの話。たんなる老化が原因ってのが通説だけど……カンストステータスが何かの拍子でまた振り出しに戻っちゃった。なんて発想もできるのか。
そういえば、こいつもボケとは言わないけど……どこか社会不適合なところがあるよな。今までは単に研究者ってそう言うものだと思ってたけれど……ひょっとして、かしこさが255になっちゃった結果突き抜けて0の戻っちゃったとか……ないな。こいつは能力値が研究方面に突き抜けて、人付き合いとか社会性とかがお留守になってるパターンだな。
「あるいは、マオウ課長さんって鍛えてらっしゃいますよねえ。なんでも、大学時代は野球部で主将をなさってたそうで。ならばその筋肉美も納得なんですが……」
なに、こいつ、筋肉フェチ? こういう理系オタクって筋肉マッチョをさげすむものと思ってたけど……いや、自分がヒョロガリだからこそ、その自分にないものを他人に求めるパターンかも。あれえ、これってまずいかな。密室に女の子が二人きりって……いや、腕力でこいつがわたしをどうこうできるとは思えないけれど、なんか変な薬とかマシーンとか仕込んでるかもしれないし……
「ですけど、マッチョ過ぎると気持ち悪いって思っちゃう人も多いみたいなんですよねえ。そのあたりどうなんですか、実際にスポーツをなさってたマオウ課長さんとしては」
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