第21話耐久
言われてみれば、マッドドクターの言うところの二進数の数え方でスライムは数を触手の出し入れを0と1として数えていることがわかるな。しかし……
スライムの数の数え方を理解していたわたしがそのスライムに言われてやっと気付いたんだ。大魔王にしてみれば、ランダムに触手が出し入れされているとしか思えなかったのかもしれない。
「その……一番左のやつ……スライムDか。が一番ゆっくり触手の出し入れをしていることになるな。そこを大魔王に叩かれたらどうしたんだ。叩かれて、触手を引っ込めて、それっきりと言うわけにもいかないんじゃないのか」
「ああ、それはですね……一回でも叩かれたら、0、つまり0000からやり直すことにしてたんです」
なるほど。そういうルールならこんがらがらないのか。いや、それどころか……一番右のスライムAは頻繁に触手を出し入れすることになるな。なにせ、数字が一つ増えるごとにいちいち出たり入ったりしなければいけないのだから。だが、左にいくにつれて、つまり桁が増えるにつれて、触手の出し入れのペースはゆっくりになるな。二桁目は数字の二つごとに、三桁目は数字の四つごとに、四桁目は数字の八つごとに出たり入ったりするわけだから。
考えてみると、これはなかなか良くできたシステムかもしれんな。一番右の一桁目のスライムAの触手の出し入れのスピードに追っつかないようなら二桁目、それでもダメなら三桁目、それでもダメなら四桁目と言うように、徐々に易しい難易度のスライムが出入りするようになるんだから。
しかも、その救済措置のスライムは最初は引っ込んでいると来ている。なにせ始めが0000なんだからな。0001、0010、0100、1000と順番に叩きやすいスライムが出てくる仕掛けとなってるわけか……待てよ。
「なあ、1111の次は0000になるのか」
「そうですよ、マオウ課長。だって、スライムAは、一回ごとに0と1を繰り返す、スライムBは、スライムAが1から0に変わったら自分の0と1を切り替える。スライムCは、スライムBが1から0に変わったら自分の0と1を切り替える。スライムDはスライムCが1から0に変わったら自分の0と1を切り替えるって命令だけで動いてますからね」
「待て、ちょっと考えさせてくれ」
「いいですけれども……帝都大卒のマオウ課長でも考えることなんてあるんですね」
いや、これはかなりややこしい話なんじゃないのか。少なくとも文系のわたしにとっては。理系のマッドドクターなら簡単に理解できるのかもしれないが……なんであいつが頭に浮かんで来るんだ。今は部下のスライムの思考パターンを理解するのが先だ。このエリートのマオウちゃんが高卒のスライムの思考を理解できないなんてことがあってたまるものか。
一桁めから四桁目がスライムA、B、C、Dなんだな。で、スライムAが0と1を繰り返す。これが一つずつ数が増えることになるんだな。そして、1から0になると言うことは、桁が繰り上がると言うことだ。となると、その次の桁のスライムが一つ数を増やすことになるな。しかし、マッドドクターの言うところの二進数の数え方だから、それが0と1を切り替える操作になるんだな。なるほど、こいつらは一つ前のスライムのみを見て、自分がどうするのか判断しているのか。
わたしの十進数で考えると、一つ前の桁の数字が9から0に変わったら自分の数字を一つ増やすわけだな。よし、理解できたぞ。さすがわたし。
「よし、理解できた。わたしはこれから報告書を書くから、お前らは帰っていいぞ」
「え、どういうことですか、マオウ課長」
「わたしがモグラをやるよりも、お前たちがモグラをやる方が大魔王様は熱中されることはわかった。そして、大魔王様がちょっと八つ当たりしただけでお前らがのびてしまうことも問題だとわかった。なにせ、こんな子供のおもちゃがちょっと乱暴にしただけで壊れるようでは話にならんからな」
「は、はあ」
「となると、課題はいかにお前らが大魔王の八つ当たりに耐えられるようになるかだ。それをわたしが報告書に仕上げるからお前らは帰っていいと言っているんだ」
しかし、もし大魔王が八つ当たりしなかったらどうなっていたのか。さすがに、スライムが四匹だけだと出たり入ったりが16パターンしかないから、飽きがくるのではないか……まさか大魔王のやつはそこまで考えて……まさかな。
「し、しかしですね、上司であるマオウ課長が仕事をなさっているのに、僕たちだけが帰るなんて……」
「やかましい! もう定時なんだぞ。お前らのような平社員をいつまでも残業させていたら、労務からは部下をこき使うなだの、総務からは残業代がどうのこうのだのうるさいんだ。サービス残業は管理職の特権だ。とっとと帰れ!」
「わかりましたー」
バタバタ
「なあ、サービス残業ってどう言うことだ、スライムB」
「なんだ、知らないのか、スライムA。管理職になると残業代が出なくなるんだぜ」
「そうなのか! スライムD」
「そうだよ、スライムC」
「つまり、スライムF。マオウ課長はいくら定時過ぎの仕事をしても……」
「報酬無しの仕事ってことになるな、スライムE」
「なあ、スライムH。マオウ課長って……」
「最高の上司なのかもな、スライムG」
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