第20話単純
まったく、マッドドクターと来たら、情緒ってものをまるで理解していないのよね。なにがモールス信号よ。あんなやつはほっぽって大魔王軍に戻ってきちゃったわ。さてさて、部下のスライム はどうしているかしら……
「おーい、お前ら、サボったりしていないだろうな……どうしたんだ。全員大ダメージを受けているじゃないか。ここは大魔王軍の本拠地だぞ。そこでなんでこんなことに……勇者や聖騎士の襲来なんて予報もなかったし」
わたしの可愛い部下のスライム が全員床に突っ伏している。いったいなにがあったと言うんだ。
「あ、マオウ課長。その……」
「なにがあったんだ。誰にやられたんだ。勇者か。聖騎士か」
「大魔王様です」
いたな、そう言えば。ここ大魔王軍には勇者や聖騎士なんかよりもずっと恐ろしい存在が。
「実は、僕たちマオウ課長が大魔王様とモグラ叩きで遊んでたって話を聞きまして……」
あのモグラ叩きの話がもうスライムにまで広まっているのか。しかし、『遊んでた』とは……わたしの感覚としては、ガキ大将におべんちゃらを言っていたと言う方が正確なのだが。
「それで、僕たちもついモグラ叩きで遊んでたんです。四匹が触手を出し入れして、残りの四匹で出した触手を叩く方法で。そこを大魔王様に見つかっちゃって」
「大魔王様のカミナリが落ちたのか。『軍務中になにをやっとるか』って」
あの理不尽パワハラ独裁者にそんなところを見つかったら、さぞやひどいお仕置きがくだされたであろう。むしろスライム たちが原型をとどめているぶんマシな方だったんじゃないか。
「いえ、大魔王様が『わしにもやらせろ』と強引に叩く側に割り込んできました」
そっちのパターンか。まあ、わたしとシスとエビルの三人を集めてモグラ叩きのモグラをやらせるような大魔王だからな。軍務をサボって遊んでいる下っ端を見かけたら、叱るよりもいっしょになって遊ぶ選択肢を選んでも不思議はないだろう。
「で、なんでお前らスライムはそんな大ダメージを受けているんだ。大魔王様のモグラ叩きがそんなに強烈だったのか」
ピコピコハンマーで叩かれたとは言え、なにせ大魔王様の攻撃だ。わたしですらまだ頭がズキズキしているのだから、スライムが大魔王にモグラ叩きなんかされたら『痛い』じゃすまないのも当たり前なのかもしれない。
「いや、大魔王様のモグラ叩きと言うよりも……大魔王様は最初は『なかなか楽しいではないか。マオウちゃんにモグラをやらせるよりもずっと楽しいぞ』なんて上機嫌だったのですが……」
ほほう、わたしがモグラ役をやるよりもスライムがモグラ役をやった方が大魔王には楽しめたのか。
「そのうち、大魔王様は僕たちを思うように叩けないことに不機嫌になられまして……その、僕たちに八つ当たりをされまして……このような有様になったんです」
なるほど。ゲームがうまくできないから本体に鬱憤を晴らすパターンか。あの大魔王のやりそうなことだな。
「それで、お前らはどんな風にモグラ役を演じたんだ。ちょっとやってみろ。大丈夫だ。わたしは叩きはしない。とりあえず見物させてもらうだけだ」
「はあ、わかりました」
どうやら、わたしのようなエリートがモグラをやるよりも、その部下のスライムがモグラをやる方が大魔王は熱中するらしい。なにせ、あまりに熱中しすぎて本体に八つ当たりするくらいだからな。
ならば、なにがそこまで大魔王を熱中させたのか研究する必要がる。このマオウちゃん。部下のスライムの方が大魔王をエキサイトさせたからと言って、部下に嫌味を言ったりするような器の小さい女の子ではないのだ。
「こんな感じでしたかね、マオウ課長」
ふむ、スライムお手製のモグラ叩き筐体から触手がピョコピョコ出たり入ったりしている。わたしのようなキレイな女の子がモグラをやるよりも、こっちのほうがディフォルメチックで面白いのかもしれない。
しかし、上手いことランダムに触手を出し入れできるものだな。出し入れの周期もスライムによって違うみたいだし……そういえば、わたしたちのモグラはそのあたりがいまひとつだったのかもしれないな。なにせいきなりの無茶振りだったからなあ……準備の時間があれば、わたしたちにもこれくらい複雑な動きができたかもしれないのに……
「いや、見事なものだ。よくまあそこまで息のあった触手の出し入れができるものだ。わたしは感心したぞ」
「なに言ってるんですか、マオウ課長。僕たちは僕たちのやり方で数を数えてただけですよ」
???
「も、もう一度やってみてくれるか、お前たち」
「はい、わかりました」
ピョコピョコ触手が出たり入ったりしているが、言われてみれば……0000、0001、0010、0011、0100、0101、0110、0111、1000、1001、1010、1011、1100、1101、1110、1111、0000……
なるほどお。
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