第19話色の三原色
言われてみればそうかもしれないな。まあ、わたしの色違いが十種類も二十種類もいたら嫌だけど。
「いいですか、マオウ課長さん。色違いのモンスターがたかだか三種類と言うことはですね、神様……造物主と言ってもいいかもしれませんが、モンスターのカラーリングを決めるときに光の三原色を用いてる可能性が非常に高いと言うことになるんです」
また始まったよ、この理系オタクは。そんなにこの世の真理を解き明かすのが楽しいのかね。わたしは、自分で解くよりもすでに正しいと証明されたことを覚えた方が効率的だと思いますけどね。
「今回は、赤、緑、青の三原色にたまたまなりましたけどね、例えば、赤200、緑100、青50というパラメーターの色を作り出したらですね、赤50、緑200、青100、そして赤100、緑50、青200というパラメーターに簡単に変換できるんです。つまり、ひとつのカラーバリエーションを作ったら、もう二種類のカラーバリエーションは光の三原色で簡単に作れるんです」
そうですか。だとしたら、わたしのカラーリングはその神様にデザインされたもので、シスとエビルはそこからちゃちゃっと光の三原色で作られた色違いってことですか。そう考えるとなんだか、生きるのがむなしくなってきましたよ。
「ねえ、もし、あんたがその神様に作られた存在だってことが確認出来たらどう思う?」
自分が作られたものに過ぎないと知って絶望したりするのかしら、この理系オタクは。
「そりゃあ、うれしいですよ、マオウ課長さん」
あら、意外ね。神様の存在が証明されて感激するような信仰心を持ち合わせてたんですか。
「だって、その瞬間、神様が存在するという事実を知っているのは、この世界で僕だけなんですよ。他の誰も知っていないことを僕だけが知っている。考えただけでぞくぞくしちゃいますよ」
ああ、そういうことか。こいつはあれだな。楽しいと思うことを見つけたらとことんその世界にのめりこむタイプなんだな。ほかのだれかと何かを共有していっしょに盛り上がれば楽しいだろうななんて発想がかけらも出てこないやつなんだな。自分一人知っていればそれでいいなんて、わたしには到底できない発想だな。だって、人生は他人に認められてなんぼじゃないのよ。
「ところが、ひとつ問題があるんです」
「あら、それは大変ね。なにかしら」
「光の三原色以外に、色の三原色と言うのもあるんです、マオウ課長さん」
「『色の三原色』? なにかしら、それ?」
わたしがそう質問すると、マッドドクターが絵が描かれた紙を取り出した。本当に準備がいいな、こいつ。丸が三つ重なってる絵だけど……さっきのとはカラーリングが違うな。
「シアン、マゼンダ、黄色の三つですべての色が作れると言うことです。光でなく、絵の具でカラーリングを作る場合はこちらで考えることになります」
「そうなの。で、それがどう問題なの?」
「神様が色の三原色でカラーリングを決めてるとなると、神様は絵筆でこの世をデザインしてることになります」
「なるほど。で、神様は光の三原色を使ってるの? 色の三原色を使ってるの?」
「それがわかれば苦労しませんよ、マオウ課長さん」
たしかにそうね。わたしが悪かったわ。
「で、マッドドクターさん。あなたには色違いがいらっしゃるのかしら。だとしたら、ぜひ会いたいものね。どんな方なのかしら」
こいつの色違いか。こいつみたいにオタクなのか。それとも逆に社交的だったりするのか……
「それが、いないんですよ。少なくとも僕はお目にかかったことがないんです」
あら、生意気ね。自分はオンリーワンですから色違いなんておりませんとでも言いたいのかしら。
「だって、僕は白黒ですからね。色違いと言うのはいないんじゃないんでしょうか。白黒反転したネガティブフィルムみたいなキャラクターならいるかもしれませんが。
それもそうか。こいつ、白衣の下は白の開襟シャツに黒ズボン、髪は黒のストレートで、色白お肌の白黒キャラクターだもんな。カラーリングもくそもないか。
「とりあえず、今日はありがとうございました、マオウ課長さん。また用があれば大魔王軍に連絡させていただきます」
「連絡ならわたしに直接してよ」
また大魔王のやつに茶化されたらかなわないし。
「マオウ課長さんに直接ですか……でも、どう直接連絡すればいいんでしょうか」
あ、いや、べつにあんたと連絡先を交換したいわけじゃ……でも、その方が仕事の付き合いで便利だろうし……
「モールス信号ってご存知ですか、マオウ課長さん。トン、ツーという短音と長音の二種類で構成された信号で、以前マオウ課長さんとお話しした二進数の応用なんですが……」
どうしてこうムードってものを解さないかねえ、理系オタクって人種は。もうちょっと、こう、あるでしょ、なにか。
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