第18話光の三原色
「へえ、そんなことがあったんですか、マオウ課長さん」
今日も今日とてわたしはマッドドクターの研究室で、ビーカーに入れられたコーヒーをすすっている。勘違いしないでほしいが、今日はわたしからマッドドクターに会いに来たわけではない。大魔王がすぐ飽きたもぐらたたきセットを片づけていたら、打って変わって上機嫌になっていた大魔王が大魔王室に戻るなりわたしにこう言ったのだ。
「マオウちゃん。マッドドクターちゃんからお呼び出しだよ。ずいぶん気にいられたみたいだねえ。どうやってあんな偏屈な研究者を手なずけたんだい? 後学のためにぜひお聞かせもらいたいものだねえ」
なにが『後学のためにぜひお聞かせもらいたいものだねえ』だ。独裁者の大魔王様がなんでそんな丁寧な物言いをするんだ。わたしをからかう気が見え透いているじゃないか。お前はクラスメイトのコイバナに花を咲かす女子高校生か。
シスもエビルも『やるなあ、マオウ課長』だの、『隅に置けないね、マオウ課長』だのはやし立ててくるし。大魔王室をコイバナ乱れる女子校の教室にするんじゃありません。
「ところで、マオウ課長さん。そのマオウシスターさんとマオウエビルさんなんですが、マオウ課長さんと同じグラフィックの色違いとおっしゃられましたよね」
「ああ、そう言いましたよ。それがどうかしましたか、マッドドクターさん」
わたしがそう答えると、マッドドクターの様子が急変した。この感じ、前にもあったな。そうだ、16進数の話題になった時もこんな感じになった。まいったなあ。わたし、またこの理系オタクの変なスイッチ入れちゃったかなあ。またこいつのうんちく聞かされるのか。そして、またそのうんちくをエリートであるわたしが理解してしまって面白がってしまうのか。
「マオウ課長さんの服は赤色ですよね」
「そうですけど」
へえ、意外だな。こいつにも他人の服装をどうこう言うファッションへの興味があったのか。他人がどう着飾ろうが無関心なやつだとばっかり思っていたのに。
「じゃあ、マオウシスターさんとマオウエビルさんの服の色は緑色と青色なんじゃありませんか」
「よ、よくわかるじゃない。マオウシスターが緑の服で、マオウエビルが青の服よ」
どういうことよ。いま目の前にいるわたしの服だけじゃなく、シスにエビルの服の色を言い当てた。こいつに流行のカラーに興味を持つようなおしゃれ心があるとはとても思えないんだけど……
「やっぱりかあ。やっぱりそうだったんだ」
こら。勝手に一人で納得するんじゃない。そう言うのは理系オタクの悪いところだぞ。
「説明しなさいよ、マッドドクターさん。なんでマオウシスターにマオウエビルの服の色を言い当てられたのよ。ひょっとして、あの二人を見たことあるの?」
シスにエビルは、わたしともどもジングウ球場を騒がせていたからマッドドクターが見たことがあっても不思議は……いや、ないな。こんな理系オタクに大学野球に興味があるとはとても思えないし……
「いえ、そういうわけではありませんが……」
やっぱりか。でも、だったらなんでマッドドクターは服の色を言い当てられたんだ?
「マオウ課長さん、ちょっと見ていただきたいものがあるんですが」
そう言うと、マッドドクターは三つの懐中電灯を取り出した。なるほど。楽しい楽しい実験タイムの始まりというわけですか。いいでしょう、付き合ってあげましょう。そのかわり、つまんないもの見せたら承知しないわよ。
「これが赤色の光、これが緑色の光、これが青色の光です」
マッドドクターはご丁寧に懐中電灯に三色のセロハンを被せていた。準備のいいことで。で、壁にその三色の光を映し出した。懐中電灯の光は丸く映し出され、マッドドクターがその三色の光を重ねていく。おや、これは……
「ね、すごいでしょう。赤と緑の光が合わさると黄色の光、緑と青の光が合わさるとシアンの光、青と赤の光が合わさるとマゼンダの光になるんですよ。で、三色がうまく混ざると白色光になるんです。赤と緑と青の三色の光ですべての色の光を作り出せるんですよ」
ふむ、こうして直接視覚に訴えかけるとは……これならビジュアル的にわかりやすく、わたしみたいなエリートじゃなくてもあんたみたいな理系オタクの話に食いつくかもしれないわね。合格点をあげてもいいわよ。
「いいですか、マオウ課長さん。仮に、仮にですよ、僕たちが神様に作られた存在だとしたら、その神様は僕たちのカラーリングを決める際に光を用いてる可能性が非常に高いんです」
やっぱりだめだな、こいつは。いきなり神様なんて持ち出してきやがった。そんなふうに急に話題を転換されたら、普通の人はついていけないぞ。まあ、わたしはエリートだからついていけるけどね。
「だってそうじゃないですか、マオウ課長さん。この世界に色違いのモンスターはたくさんいるけど、せいぜい二,三種類じゃないですか。十種類くらいのカラーバリエーションがある同じグラフィックのモンスターがいてもいいと思いませんか?」
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