第15話もぐらたたき
「あれ、マオウシスターさんにマオウエビルさんじゃない、どうしたの?」
「それが、大魔王様に呼び出し食らっちゃってね。いまマオウエビル君とあって『君もかい?』なんて二人で話してたところだったんだ。まさかマオウ課長まで来るとは驚いたなあ」
「そうなんだ、俺も急に大魔王様に『部屋に来い』なんて言われてあわてて駆け付けたんだ。マオウシスター君だけじゃなく、マオウ課長まで集められるなんて、いったい何ごとなんだろう」
大魔王のやつ、何をわたしたち同期三人にさせる気なんだ。どうせ私たちをおもちゃにして楽しむ気なんだろうけれども……それにしても、色違いとは言えわたしと同じグラフィックの人間が三人並ぶのはどうも嫌な感じがするな。このマオウちゃんがその他大勢みたいで。大学野球時代もわたしたち三人はさんざんマスコミに比較されてきたって言うのに。
そもそも、なんでこの三人が同じ大魔王軍なんだ。マオウシスター、マオウエビル、あんたらが軍人になるのは百歩譲っていいとしましょう。でも、軍なら他にもいっぱいあるじゃない。ジュエルモンスター軍とか。なんで三人とも大魔王軍なのよ。
「おう、お前らか。遅かったじゃないか。まあいい、面白いものを作ったんだ。とりあえず見てみるがいい」
大魔王室に入ったら、大魔王が上機嫌でそんなことを言ってくる。面白いもの……サイズ的にちょうどわたしの全身が収まりそうな箱が三つある。その三つの箱の上部には、わたしが頭をひょっこり出せそうな穴が開いている。
「さあさあ、何をしておる。早く箱の中に入らんか」
いや、大魔王様、『早く入らんか』なんて言われても、さっき『見てみるがいい』なんて言ったばかりなのに。落ち着けマオウちゃん。ボスの真意をくみ取るのも社会人としての必須スキルだぞ。言われたことしかできないようじゃ、『マオウのやつ気が利かんな』なんて思われてしまう。
しかし、へたに気を回しすぎて、おせっかいだのなんだのうざがられる可能性もあるところが上司へのゴマすりの難しいところだ……大魔王が手にピコピコハンマーらしきものを持ってるな……ああ、そういうことか。
「マオウシスター、マオウエビル、大魔王様は……」
「マオウ課長、わかってるさ。大魔王様はわれわれでもぐらたたきを楽しみたいんだろうな」
「そう言うことだろうな。なら話は早い。とっとと箱に入って始めようぜ。俺が右、マオウシスターが左、マオウ課長は真ん中でいこうや」
なんだ、マオウシスターもマオウエビルも大魔王がわたしたちでもぐらたたきをしたがってることに気づいたのか。こいつらもけっこう優秀なんだな。マオウシスターは金持ちのお嬢様、マオウエビルはただの体育会系あがりだと思ってたのに。おっと、こんなことを考えている場合じゃない。早くもぐらたたきを大魔王に楽しませないと、いつ気分が急変するかわからないからな。
「よしよし、三人とも準備はできたようだな。それでは始めるぞ」
大魔王がニタニタ笑いながらピコピコハンマーを素振りしている。しかし、大魔王のピコピコハンマーかあ。子供の遊び用のおもちゃとは言え、仮にも大魔王に思い切りぶんなぐられたら結構なダメージになるんだろうなあ。だけど、これも軍の独裁者に仕える身としての仕事のうちだ。耐え忍ばねば。箱から顔を出してっと
ピコッ
おやや、叩かれたけどそんなに痛くないぞ。左右のマオウシスターにマオウエビルは……
ピコッ、ピコッ
マオウシスターもマオウエビルも軽く叩かれてるだけみたいだ。なんだ、大魔王のやつ、本気で叩くつもりじゃなかったんだな。それもそうか。大魔王が本気でぶっ叩いたら、ピコピコハンマーどころか、わたしたちも元の状態のままれいられるかわからないからな。
「思ったよりもつまらんな。飽きた。もう辞めだ。お前ら、片づけておけ」
え、まだ始めたばかりなんじゃあ……あ、大魔王が部屋から出ていっちゃった。なんだか、思いっきりぶんなぐられるよりもつまらないと一蹴されるほうが心に大ダメージを受けた気がするんですが……それも始めてすぐに……『二度とやらんわ、こんなクソゲー』なんて言っておきながら、すぐにまたやり直し始めるなんてことはありませんかねえ。ないか、やっぱり。
それにしても、この箱、わたしたちがかたづけるのか。なんでこんなことに……あ、マオウシスターにマオウエビルがもう後始末を始めている。先を越されてしまった。なんという不覚。
「やれやれ。お偉いさんの気まぐれに付き合うのも大変だな、マオウエビル」
「そう言うなよ、マオウシスター。これも給料のうちじゃないか」
なんだか、マオウシスターとマオウエビルは二人で仲良く話なんかしてるし。別に、わたしは同期だからって三人で仲良しこよしするつもりはなかったけれど……わたしを除け者にして二人で仲良くされるとそれはそれで腹ただしいって言うか……
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