第14話同期マオウエビル
「あっ、マオウちゃん。久しぶり。新人研修以来だね。課長になったんだって、おめでとう。おっと、となると、これからはマオウ課長と呼ばなくてはならないかな」
「よしてよ、マオウエビルさん。『マオウ課長』なんて……照れ臭いわ」
「そういうわけにはいかないよ。それにしても感慨深いなあ。ジングウ球場で俺と死闘を繰り広げた相手とこうして同じ軍に入って、しかもその相手が俺の一足先に課長になっちゃうんだからなあ」
そうだね、マオウエビルさん。わたしとお前はジングウ球場で投げ合いましたね。そして、九回裏、二対一でわが帝都大野球部がお前のセーワダ大学に一点リードされていた状況でツーアウト満塁の状況でピッチャーのお前とバッターのわたしが対決しましたっけね。ええ、もちろん結果は覚えていますとも。わたしの三球三振に終わりましたね。
だいたい、お前もわたしの色違いじゃない。マオウシスターとは違った感じの。しかも、話によると、クローンだかそっくりさんだかわからないのが他に何人もいるらしいじゃない。どういうことよ。
そもそも、わたしはお前みたいなスポーツ推薦組を大卒とは認めないからな。百歩譲って体育大学ならぎりぎりセーフとしましょう。ですけど、私立大学の宣伝のために入学させてもらっておいて、なに一流大卒でございなんて顔してるのよ。
いいでしょう。認めましょう。勉強で帝都大学に入るのと、野球でセーワダ大学に入るのだったら、断然それは後者のほうが難しいでしょうよ。ええ、ええ、マオウエビルさん。あなたの野球の才能はすさまじいですよ。とてもわたしなんかが及ぶところじゃないですよ。
なにせ、リトル、シニアですでにその名を全国にとどろかせ、甲子園ではマスコミにもてはやされてましたね。その注目のされようと言ったら、七時の国営放送ニュースで特集が組まれるレベルでしたものね。
わたしもそれなりにマスコミにはもてはやされましたけれど、せいぜいスポーツ新聞や野球専門誌の隅っこに小さく掲載されるくらいで、マオウエビル様のスター性とは比べるのもおこがましいレベルですものね。
小中学校時代から名門リトルやシニアでプレイしていらしましたね。名門リトルやシニアともなれば、OGからの寄付で食事や野球道具には事欠かなかったでしょうよ。マオウエビルさん、あなた砂袋でウエイトレーニングしたことあって? ないでしょう。さぞや充実したトレーニング設備で練習してたんでしょうね。
わたしはあるわよ。わたしが通っていた学校にはウエイトトレーニング場なんてなかったから、袋にせっせと砂を詰めてウエイトにしてたんだから。でもね、ご存知かしら、マオウエビルさん。バーベルやダンベルみたいな持ちやすいものを上げ下げするだけじゃあ、実用的な筋肉はつかないのよ。
わたしは貧乏だったから、バーベルもダンベルも買えなかった。だから自作した。けして出来のいいものではなく、持ちにくくてしょうがなかったけど、おかげで実践的なカラダにしあがったわ。マオウエビルさんにそんな経験あって?
なーにが『おめでとう』よ。お前はわたしみたいな一般部隊と違って特殊部隊に配属されたじゃない。けっして一般人にはその存在を知られることがない感じの。
あれですか。お前の将来設計はあれですか。大魔王様も勇者に倒された後に、隠し要素で勇者をおおいに苦しめるつもりなんですか。中ボスやラスボスの前座であらわれた敵と同じグラフィックで色違いのやつが雑魚で出てくるやん。しかも二体同時に出てきたりするやん。みたいな感じで。
はいはい、そうですか。わたしみたいな、学生時代はガリ勉としてスクールカースト最下層にいたけど、勉強で成り上がったエリートを本音では馬鹿にしてるんでしょ、お前みたいなやつは。
子供のころから野球が天才的でちやほやされてきました。でも、社会に出たら俺みたいなやつは勉強エリートに顎で使われると思ってましたか? 残念。違います。スポーツ推薦で一流大卒の肩書手に入れちゃいました。野球部のコネで就職先もゲット。配属先もちょっと普通じゃないところじゃないんだよねえってか
特殊部隊にはフィジカルエリートじゃないとは入れません。国立大学のなんちゃって野球部なんておよびじゃありませんってか。
つーか、なんで軍隊なんだよ。お前ならプロだろうとアナウンサーだろうとなりたい放題だろ。なにしれっと軍人になってるんだよ。
「いずれ、俺みたいな脳筋はマオウ課長みたいなエリートの部下になっちゃうんだろうなあ。その時は、ひとつお手柔らかにお願いしますよ」
「いやあ、マオウエビルさんみたいな人といっしょに仕事ができたら光栄なんですけどね」
誰がお前みたいなやつをお手柔らかにするもんか。わたしがこの軍の実権を握ったら、即刻で首にしてやる。いや、それでは生ぬるいな。最前線送りにして、この世の地獄を味わいさせ尽くしてやる。
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