第13話同期マオウシスター
「やあ、マオウ君。課長になったんだってね、おめでとう。同期ではマオウ君が一番の出世頭になっちゃったね。おっといけない、これからはマオウ君じゃなくてマオウ課長と呼ばなければならないのかな」
「いままでどおりマオウ君で構わないよ。マオウシスターさん」
「そういうわけにはいかないよ。こういうことはきちっとしないとね。それよりも、『マオウシスターさん』なんて堅苦しい呼び方はいい加減やめてくれないかなあ、マオウ課長。ジングウ球場で戦ったあいだがらじゃないか。わたしたちは」
そうだね。戦ったね。わたしがあんたに逆転サヨナラホームランを打たれたんだったね。だいたい、わたしはあんたが気に食わないんだ。
初めてあんたを目にした時からわたしのアイデンティティは崩壊したんだ。わたしは自分がグラフィックを特別に用意されたオリジナルな存在だと思ってた。ほかのモンスターは同じグラフィックのやつがいっぱいいるのに、わたしのグラフィックはたったひとつだったから。
だけど、マオウシスター。あんたはわたしの色違いじゃない。わたしは特別なんかじゃなかったんだ。
そもそも、ケーオー大学の幼稚舎からエスカレーター式に卒業したお嬢様ってのがそもそも気に食わない。こっちが中学受験、大学受験と血反吐を吐く思いで勉強してたって言うのに、あんたは野球漬けだもんね。そりゃあ、実力がつくでしょうよ。
その野球漬けだって、充実した環境だったんでしょうね。どうせ金にものを言わせてたんでしょうけど。子供のころから、さぞやおいしいものをたらふく親御さんに食べさせてもらっていたんでしょうねえ。そりゃあフィジカルエリートになりますよ。
あんたに、近所の豆腐屋の手伝いをした代わりにもらったおからでしかたんぱく質を摂取できなかった人間の気持ちがわかるかしら。それだって、栄養学の本を読み漁ってわたしが自分で導き出した結論なのよ。親の敷いたレールを歩いていれば良かったあんたとは違うんだから。
あんた、マスコミがわたしたちの対決を箱入り娘バーサス貧乏小娘って青りったててたの知らないの? 貧乏人が金持ちを打ち負かすジャイアントキリングを大衆は望んでるのよ。察しなさいよ。なに観客をがっかりさせてるのよ。それとも、大衆は下級国民の成り上がりなんて望んでないとでも言うの?
だいたい、実家が財閥系の大金持ちってのが根本からして不平等なんだ。あたしが小学校から塾の月謝を稼ぐために新聞配達してたころあんたは何してたんだ。パーティーか。セレブ同士のパーティーにいそしんでたのか。
あたしは国立大学の授業料すら払えずに、奨学金という名の借金でがんじがらめになって今でも少ない給料をやりくりして返済してると言うのに……あんたは親にバカ高い私立の授業料を払ってもらってたんですね。うらやましいことで。
と言うよりも、なんでお嬢様が軍隊になんて入ってるのよ。軍隊ってのは、昔からわたしみたいな貧乏人がしかたなく入るものって相場が決まってるのよ。あんたみたいな上級国民はおとなしく系列企業にコネ入社してればいいのよ。
はっきり言うけど、何が『出世で先を越されちゃったな』よ。たしかにわたしは課長になったけれど、現場の最前線よ。それに引き換え、あんたは秘書課に配属されたじゃない。それって、お偉いさんとツーカーになるってことじゃない。幹部コース一直線じゃない。
ああ、そういうことですか。軍と財閥のつながりってことですか。つまりあれね。軍需産業で財閥がさらに大儲けするためのパイプとしてあんたが軍人になったってわけね。やだやだ。結局軍隊も資本主義の奴隷ってことなのね。
あんたが描いている未来予想図を当ててやるわ。いずれ、トップの大魔王様の右腕になるつもりでいるんでしょう。ラストダンジョンで待ち構える大魔王様の前座におさまるつもりなんでしょう。いいでしょう。なるがいいわ。
でも、あんたが上層部とのコネクション作りに励んでいる間、わたしは現場の兵隊のハートをがっちりつかんでみせるわ。資本家階級さん。共産主義革命ってご存知かしら。労働者が団結して貴族や資本家をギロチン台送りにしたのよ。せいぜいそうならないように気を付けることね。
だけど、いいところのお嬢様にわたしたちみたいな下級国民の気持ちがわかるかしら。そうだ、青年将校たちを団結させてクーデターを起こさせるのも良いわね。なにせ、下級将校はあんたみたいなぼんぼんと違って、田舎の貧乏農家の子供が勉強だけで成り上がってるんだから、資本家の搾取をよくは思ってはいないでしょうよ。
「それじゃあ、マオウ課長。僕も一刻も早く課長になってみせるからね。負けないよ」
「そうね、同期として応援させていただくわ」
課長ですか。秘書課課長ですか。それって、お偉いさんのプライベートもオフィシャルも関係なく公私の両方の秘密を握るってことじゃない。そうなったら、大魔王軍を好き放題にできるってことじゃない
マオウシスター……あんたをなめていたわ。ただのお嬢ちゃんじゃあないようね。そのきれいなお顔の下にはとんでもない野望を隠し持ってたなんて……
いいわ、このマオウ。あんたを野球のライバルから出世のライバルに格上げするわ。負けないんだから。
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