第11話心配

「あ、マオウ課長! 大魔王様に呼び出されたんですって! お疲れ様です」


「なんだ、お前らにも伝わってたのか。まったく、大魔王様ときたら、部下を自分のオモチャか何かと勘違いしてるんじゃないのか」


 理不尽なパワハラをしてゲラゲラ笑っている大魔王が眼に浮かぶ。軍の独裁者ってのはあんなやつばっかしなのかね。わたしも大魔王様を怒らせないようにくれぐれも気をつけないと。下手に機嫌を損ねたら、物理的に首を切られかねない。


「それで、その、マオウ課長……」


「なんだ、話があるのならさっさと言わんか」


「はい。なんでも、マオウ課長に新しく部下を配属させるという話だそうで……」


 こいつらにそこまで伝わってたのか。うわさの発信源は……大魔王だな。決まってる。わたしがドラゴンを選んでたら、そのことをスライムたちにそれとなく知らせた上で、わたしをスライムたちの上司にさせ続けて、針のむしろに座らせてる気まずい思いにさせる気だったんだ。そうに違いない。


 誰だって、自分をポイ捨てした上司に、『やっぱりわたしお前らの上司のままでい続けるわ』なんて言われたらやな気持ちになるもんね。大魔王はスライムたちに『マオウ課長ってやっぱり僕たちよりドラゴンの方がいいんだな。どうせ僕たちできが悪いもんね』なんて陰口を叩かせる気だったんだ。あの大魔王だったらそのくらいやりかねない。


「あの、マオウ課長。もし、すごいモンスターが部下になるんだっていうのなら、僕たちに遠慮なんかしないで……」


「わたしはこれからもお前らの上司でいさせてもらいますって大魔王様には言ったからな」


「はい、やっぱりそうですよね……いまマオウ課長はこれからも僕たちの上司であり続けるって言ったんですか?」


「少なくとも、大魔王様にはそう言ったよ。わたしも軍人だから希望通りに配属され続けるかどうかはわからんがな」


 あの大魔王なら、理不尽な転属を繰り返させてわたしが胃をキリキリ痛めているところを大喜びで観賞してそうだからな。


「でも、なんで、マオウ課長がすっごく優秀な人材だってことはちょっといっしょに仕事してれば僕たちにもわかります。僕たちの区別もできるし、僕たちの数の数え方も理解してくれるし……そんな優秀なマオウ課長がなんで僕たちみたいなだめだめモンスターの上司でいてくれるんですか?」


「お前らな……わたしだって怒るときは怒るんだぞ」


「はい、すみません」


 まったくこいつらと来たら……


「で、わたしがなんで怒ろうとしているかわかるか?」


「それは、僕たちがだめだめだから……」


「違う。わたしが怒るとしたら、お前らがそんなふうに自分を卑下しているところだ」


 こいつらスライムを見ていると自分が小学生のころを思い出す。スポーツがまるでできないばっかりにケンカが強いいじめっ子にさんざんはずかしめられたあの頃を。そしてわたしがどう考えたかというと、『わたしは運動オンチだからしかたがないよね』と、こうだ。


 スポーツができないなら、いくらでも見返す方法があったじゃないか。だいたい、いじめっ子なんて奴は気弱でオドオドしているやつを目ざとく見つけていじめのターゲットにするものなんだ。もっと自信を持てばいいんだぞ。小学生のころのわたし、そして部下のスライム たちよ。まあ、わたしは中学生のになったら努力と根性でスポーツでも成し遂げたがな。


「いいか、お前たちの分裂と融合、そして合体という特技は素晴らしい特技なんだぞ。そんなことができるモンスターを他に知っているか?」


「し、知りませんけど、マオウ課長。でも、いくら分裂しても僕たち弱っちいいままだし……」


「誰が戦闘でしかお前らを使わんと言った」


「???」


 やっぱりそうか。こいつらは戦闘がこの世の全てと思っていて、それがだめだめだから自分たちは役立たずと思い込んでいるんだな。学校が世界の全てで、そこでの絶対的要素だったスポーツが全然だったから自分の居場所がないとしか思っていなかった小学生時代のわたしそっくりだな。だがな、お前らよ、わたしはそのすぐあとに勉強という居場所を見つけたんだぞ。


「適材適所という言葉を知らんのか。お前らスライムにしかできないお前らにぴったりの仕事をわたしがさせる。いやか?」


「そんな、マオウ課長みたいなすごいかたが僕たちの上司のままでいてくれるなら……そんなのって最高です」


「わかればいいんだ。では、お前らに特技を身につけさせていくぞ。どんなダイヤの原石だろうと磨かなければただの石ころも同じだからな。というわけで、これからはビシビシお前らを鍛えていくからな。覚悟するんだぞ」


「「「「「「「「わかりました、マオウ課長!」」」」」」」」


 そうだ。お前らはわたしを信じていればいいんだ。六大学リーグのお荷物とまで言われだわが帝都大学野球部を、敵チームに油断ならない対戦相手とまで認識させたこのわたしを。

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