第7話二進数・其の2
部下であるスライムの思考パターンを理解するのも、上司であるこのマオウちゃんの務めだ。それに、この数の数え方にわたしも興味が出てきた。
「すると、それ以上数を数えたくなったら、スライムCの出番ということだな」
「その通りです、マオウ課長。すごいや、こんなに話の分かる人って初めてだ」
「つまり、お前らの言う000、001、010、011、100、101、110、111がわたしの言う0、1、2、3、4、5、6、7になると言うことだな」
「そうです、そうなんです、マオウ課長。感激だなあ。帝都大の人って、みんなマオウ課長みたいに頭がいいんですか?」
「ま、まあそうかな」
帝都大でもわたしは別格だったがな。しかし、そんなことをここで自慢しても少し嫌味だしな。ここは謙遜しておいたほうがいいだろうな。
「で、それ以上数えたくなったら、スライムDの出番ということだな。そうか。『8』ではなく、『1000』と言えばお前らはそれがお前らの人数だとピンとくる。そういうことだな」
「そうです。その通りです、マオウ課長。一応、僕たちも、マオウ課長がやってるような十や百って言う数え方も勉強したんですけれど、どうもピンとこなくて、それで僕たち落ちこぼれだったんです」
なるほど。生徒の個性を尊重せずにただひたすらに画一的な教育を強制するシステムの被害者だったのか、こいつらは。それならば、その教育システムで成功したわたしが手を貸さないわけにはいかないな。
「それで、さらに数えたくなったら、スライムEの出番になるんだな」
「え、なにを言ってるんですか、マオウ課長。さらに数えたくなんてなりませんよ。だって、僕たちは全部で1000にんなんですから、それ以上数える必要なんてないじゃないですか」
前言撤回だ。やはりこいつらは落ちこぼれるべくして落ちこぼれたのだ。向上心というものがまるでない。いや、自分たちが何人いるか数えられたらそれで満足なのか? もっと数えたくはならないのか?
「いいか、お前ら。お前らはこの前分裂してたな。一人が二人になったんだ。つまり、二倍の人数になったことになる。それが何人か気にならないのか」
「気になります、マオウ課長!」
「よし。じゃあ、考えるんだ」
「はい、マオウ課長。ええと、1000から一人増えていくごとに、1001、1010、1011、1100、1101、1110、1111……マオウ課長。桁が足りません」
「だから、そんな時こそスライムEの出番なんだろう。ほら1111の次は……」
「あ、10000ですね、マオウ課長。僕たちが全員分裂すると、10000人になるんですね。なんだか面白くなってきました」
やれやれ。こいつらも自分で考えることの楽しさがわかってきたようだな。それにしても、こいつらの数え方だと、1000を二倍にすると10000になるのか。これは偶然じゃなさそうだな。なにか秘密がありそうだ。
「じゃあ、お前らの言う10000は、わたしの数え方だとどうなるのかな?」
「ええと、マオウ課長の数え方だと、1、2、3、4、5、6、7、8、9の次が10で、そこから11、12、13、14、15になるから……16ですね、マオウ課長」
「正解だ。では、わたしの27をお前らはどう認識する?」
「えっと、10001、10010、10011、10100、10101、10110、10111、11000、11001、11010……11011です。マオウ課長」
「正解だ」
「うお、すげえ。僕たちだってやればできるんじゃん」
わたしとしては、ひとつひとつ数え上げなくてもすぐに答えて欲しいのだが……わたしとしてもスライムがひとつずつ数えるのにあわせて17、18、19と数えていたのだから大きんことは言えない。ここは部下を褒めて伸ばすことにしよう。
「そういうことだ。わたしの指導についてくる勇気はあるかな。スライム君たち?」
「「「「「「「「はい、もちろんです。マオウ課長」」」」」」」」
「よろしい。しかし、わたしは厳しいぞ」
「「「「「「「「覚悟しています、マオウ課長」」」」」」」」
いい返事だ。しかし、ひとつ問題がある。このスライムの数え方だが……わたしには今ひとつピンとこない。スライムの奴らが、わたしの十や百と言った数え方にピンとこないのもこんな感覚なんだろうな。
それにしてもどうしよう……そう言えばいたなあ。こういう数の話題が三度のご飯よりも好きそうなやつが。一応ビジネス上の作法として、お互いの連絡先は交換したけども、あいつはちっとも興味を示そうとしなかったし……
しょっちゅう軍のスケべな上司からいやらしい誘いを受けるこのマオウちゃんの連絡先を手に入れておいて、眉ひとつ動かさないってのはどう言うことなのよ、あの理系オタクは!
あいつに借りを作ることになるのか……それを盾にあいつなにか変態的な要求してこないだろうな。ああいうのって、アブノーマルな性癖持ってそうだし……なーんて、あいつにそんな度胸あるはずないか。
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