第4話接待
くそ、大魔王のやつ。ジュエルウエポン軍との接待が面倒だからってわたしに丸投げしやがって。なにが『新進気鋭の技術者らしいからよろしくな』だ。『この先大魔王軍とジュエルウエポン軍は技術提携をしていく予定だから、がっちり向こうのエンジニアをうまく接待しておくんだぞ』だ。
まったく、あれでも一軍を支配する大魔王かね。ただ部下に仕事を丸投げしてるだけじゃないか。パワハラもいい加減にしてもらいたい。スピンオフだからってギャグキャラになればいいものじゃないんだぞ。
とは言うものの、上官の命令には絶対逆らえないのが軍隊の恐ろしいところだ。気は進まないが、その新進気鋭の技術者の太鼓持ちをしっかりこの、マオウちゃんが果たせねばならない。エリートの誇りにかけて。
「はじめまして。わたしは大魔王軍のマオウ課長です。以後よろしくおねがいします」
「……マッドドクターです」
それだけか。間違いない。こいつ絶対根暗な理系のエリートだ。人づきあいが苦手なタイプの。
なんですって? エリート同士なら文系だろうと理系だろうと仲良くできるんじゃないかって? これだから文系も理系も区別がつかない低学歴は嫌なんだ。いいこと? わたしみたいな文系エリートが小学校のころ、足が速いだけでスクールカーストの頂点に立ってた脳みそ筋肉の乱暴者をうまく持ち上げてご機嫌取りをしていたころああいう理系オタクはどうしてたと思う?
ひたすら自分の世界に閉じこもっていじめられてたのよ。見ているだけでいらいらするんだから。なんでからかわれたら言い返さないのよ。あれだけ見事に算数の問題すらすらと解けるんだから、言い返すくらいできないの?
あれですか。自分は『たけし君とつよし君がお互いの家を同時に出発し、であったらたけし君は自分の家に引き返し、家についたら再度つよし君のところに向かいます。つよし君がたけし君の家に着くまでたけし君はどれだけ移動するでしょうか』なんて意味不明な問題を解くのに忙しいから、文系は作者の気持ちでも考えてろと言うことですか。
理系は高尚な学問の世界に没頭しますから、馬鹿な大衆を相手にする暇はないんです。愚民の相手は文系に任せますと言うことですか。
そりゃあ、わたしだって技術開発の重要性は重々承知してるわよ。研修でも、大魔王軍の開発部に参加したもの。でも、大魔王軍の開発部は職人の世界的なのよね。で、職人の世界ってのは、体育会的なところがあるから、いちおう野球部だったわたしもそれなりに職人さんたちとうまくやっていたけど……
でも、こういう大学時代は研究室にこもりっきりでしたって感じの理系オタクってどうも苦手なのよね。なんでキャンパスライフを楽しもうとしないのよ。
しかも、出場すればミス帝都大間違いなし。だけど、わたしそういうものには興味ありませんから。いまは野球に集中したいですからと断ったわたしの美貌を目の前にしながら、なによその『こういう接待は苦手だなあ。早く研究室に戻りたいなあ』なんて態度は。
こんな理系オタクと結婚するようなやつはよっぽどのもの好きね。決まってるわ。
そりゃあ、外見は合格点をあげてもいいかもしれないわね。四六時中研究室に閉じこもってるだけあって、色の白い肌してるわね。わたしの日に焼けた小麦色の肌と良いコントラストになるんじゃないかしら。
ロングストレートの黒髪もいい感じね。わたしは野球に打ち込んできたから髪はショートだったけど、女の子だもん。ストレートの長髪ってやっぱりあこがれちゃうわね。
化粧っけがまるでない感じも高ポイントよ。香水やらなにやらのにおいをプンプンされちゃあ、食欲がまるでなくなっちゃうものね。人間は人間らしく、わたしみたいなモンスターに食べられるにふさわしいコーディネートをだね……人間……人間?
「マッドドクターさん! あなた人間なの?」
「はあ、そうですけれども」
「なんで? どうして? ジュエルウエポン軍って人間を全滅させようとしてる武闘派の、それも一番過激な軍隊じゃない。そこになんで人間が?」
「いけませんか? マオウ課長? たしか、大魔王軍にも人間の殺人鬼がいたと思うんですが」
「それはそうだけど……」
いけない、このマオウ、人間を目の前にしたらこう言おうって決めていた台詞があったんだった。いまこそそのとき!
「ヨクキタナニンゲン。コノマオウガキサマノハラワタヲクライツクシテヤル」
「どうしたんですか? マオウ課長。突然変なことを言い出して」
われながらなんという棒読み。自分で自分が情けなくなってくるわ。このマッドドクターも呆れてるし。やっぱりこいつ気に入らない。
わたしはモンスターで、あんたは人間なのよ。そんな二人が初対面なんだから、もっと、こう、あるでしょ、リアクションが。それをああも淡々と。
これだから理系ってのは大嫌いなのよ。
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