第3話おごり
ふっふっふ。わたしはとんでもない部下の人心掌握術を閃いてしまったぞ。部下のスライムたちに食事を御馳走してやるのだ。それもケチな食事じゃないぞ。血の滴るようなジューシーな肉をこのマオウ様が自らの灼熱ブレスによってバーキューにしてふるまってやるのだ。
スライムのやつらも仮にもモンスターだ。マオウ様の灼熱ブレスがこれまで何人の人間を消し炭にしたところで、なんのトラウマも感じずにうまいうまいと焼き肉をほおばるに決まってる……
待てよ、スライムって肉食か? 肉食のモンスターもいるが、草食のモンスターもいるしなあ……ここは野菜も用意しておくべきか……
スライムと言えば、わたしみたいなかわいい女の子にまとわりついて服だけ溶かすシチュエーションが鉄板。しかもその際人体にはさほどダメージが与えられない。となると、スライムは肉を食べない菜食主義者なのか?
いやいや、モンスターには踊るニンジンと言ったたぐいの意思を持った植物もごろごろいるし、植物しか食べないベジタリアンがイコール残虐でない人間性あふれる行為とは限らないんじゃないのか。
その場で遠慮されるならまだしも、その時は『おいしいです』なんてたいらげておいて、後になって総務に『パワハラされました』なんて駆け込まれたとしら……しかも、わたしが食べさせたものが宗教的な理由やアレルギー的な理由で食べられないものだとしたら……
ここはとりあえずスライムのやつらの様子をうかがうのが得策だな。ちょうど昼休みだし、やつらもなにか食べているところだろう……よし。スライムの部屋についたぞ。さてさてどんなものを食べているのかな?
「スライムA2、そろそろいいんじゃないか」
「スライムA1、そうだね。もうころあいかな」
「スライムB2、今日のお前顔色いいんじゃないか?」
「スライムB1、やだなあ。いつもどおりだって」
「スライムC2、あんまり離れるんじゃないぞ」
「スライムC1、わかってるよ。いつもうるさいなあ」
「スライムD2、相変わらずハンサムだね」
「スライムD1、きみこそ素敵だよ」
「スライムE2、俺のエロ本勝手に見るなよ」
「スライムE1、いいじゃないか、お前のものは俺のもの、俺のものはお前のものだろ」
「スライムF2、その……」
「スライムF1、わかってる……」
「スライムG2、そろそろいっちゃう?」
「スライムG1、いっちゃおっか?」
「スライムH2、合体だ!」
「スライムH1、了解だ」
「どうしたんだ! お前ら! 増えてるぞ? ひいふうみい、八人が十六人になってるじゃないか。どういうことなんだ」
さすがに十六人ものスライムもの顔と名前を一致させるのは厳しいものがあるんだが……
「あっ、マオウ課長。食事中ですけど……ひょっとして、無断での食事は、まずかったですかねえ」
「食事中?」
「そうです。われわれスライムは、いったん分裂して再度融合することで食欲を満たすんです」
「それは……肉や野菜を摂取する必要がないということなのか?」
「まあ、そういうことになりますかね。その、融合してもいいですかねえ」
「あ、ああ、いいぞ。わたしにかまわずやってくれ」
分裂してからの融合と来たか。それにしても、十六人のスライムか。こんがらがったりしないのかな?
「スライムBA! 俺のスライムA2を取るなよ!」
「スライムAB! うるせえな。お前こそ俺のスライムB1取ったじゃないか」
「スライムDE! スライムCDなんて、俺やだよ。なんだか古臭い音楽メディアみたいで」
「スライムEC! 我慢しろ。スライムEDがいないだけ良しとするんだ」
「スライムCD! 俺なんてスライムECだから、ヨーロッパかぶれみたいなんだぞ」
「俺はスライムFFだから、混ざり合ってないぞ。でも、これはこれでなにかが混ざり合ってる気がするな」
「スライムHG、さすがにネタが古いのではないか」
「スライムGH、そんなの俺だってわかってるよ」
しっかり混ざり合ってるじゃないか。お前ら、せめて自分で自分たちの区別くらいつけろよ。
「お前ら落ち着け。とりあえず、いったんキングスライムになれば、なんとかなるんじゃないか」
「「「「「「「「さすがマオウ課長。それもそうですね。よしみんな、合体するぞ」」」」」」」」
ぼわわーん
「ほう、これがキングスライムへの合体というものか。実際に目にすると、なかなか面白いな」
「その、マオウ課長……」
「どうした。なにをもじもじしているんだ。また元のスライムに戻らんか」
「それが、キングスライムの状態でおなかがすいたらどうすればいいんでしょうか? キングスライムになったら、分裂も融合もできません」
「……なにか食べたいものはあるか。いっしょに昼ご飯にしよう。代金は気にするな。面白いものを見せてもらったお礼としておごってやる」
「本当ですか、マオウ課長。わーい。僕のいきつけの店があるんですけど……」
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