第11話 黒い紋章





「「「 ヒッ! 」」」


「う、歌魔法士だ! 」


「も、紋章なんてあの坊やの首にもどこにもなかったよ! 」


「そ、そんなことよりあの威力!上級魔法並みだったぞ! 」


「ありえねえっ! あんなヘタクソな歌で! 」


「と、とにかく逃げろ! 歌魔法士相手に密室は不利だ! 」


「動けるようになった途端に言いたいこといいやがって! 逃がすかよ! 『Song Magic』! 」


俺は魔法が発動して下半身の吹き飛んだガーディアンを見て、逃げようとする者たちへ再度歌魔法発動のキーを叫び動きを止めた。

その瞬間再び周囲は暗くなり天から光が降り注ぎ、背を向け顔だけこちらを向いている9人の男女がライトアップされた。


俺が歌っている時は魔法は発動しないって安心していたくせに、発動した途端逃げようとしやがって!



それにしても27点でなぜ魔法が発動したんだ? しかも矢が10本も出現したうえに、魔力の減りはそれほどでもないのにあの威力。


う〜ん……もしかしたらこの黒い紋章が関係しているのかもしれないな。

異世界人特典で20点加点されたとかか? でもそれだとあの矢の本数はおかしい。

リーゼが発動した初級魔法と数も威力も何もかもが違い過ぎる。


ダメ元で広範囲の魔法を試してみるか……中級魔法だから60点必要だったな。

簡単な歌にするか。短くて簡単な曲は点数が取りにくいと言ってたしな。これでもしも発動するようなら、俺の歌魔法は中級までは点数に関係なく発動するってことだろう。



俺は次の曲を決め、ギターとドラムとベースをイメージして頭上に堕天使を出現させた。

そして全シリーズを見まくった懐かしのアニソンを歌うことにした。

最初から魔法効果をイメージして一気に歌い切る!


俺は軽快なメロディをイメージし、堕天使たちに演奏させると同時に歌い始めた。



『燃え盛〜れ! 燃え盛〜れ! 燃え盛〜れ! ガンドム〜! 君よ〜 燃えろ〜♪ 』



俺は9人とついでにマルディルと下半身を失って死んでいるガーディアンもターゲットとして、人体のみが勢いよく燃え塵となるイメージで歌い続けた。

凄く短い曲なのであっという間に最後のパートとなり、俺は青ざめた顔でこちらを見ているガーディアンと傭兵たちに手を突き出し一瞬躊躇ったが歌いきった。


『希望〜戦士〜ガンドム〜ガンドム! ♪ 』


そしてラストのフレーズを歌い終わり少しして、俺の前に採点結果が表示される。



ダラララララ……ダンッ!


【39】……36……31……29……23……


ドラムの音と共に表示された点数は、相変わらずの減点方式で俺はそれを黙って耐えてみていた。

いいんだ。この曲は高得点狙ってないし。短いし。


そして24点のところで点数が減るのが止まり、総合得点の表示板がピカッと光った。どうやら確定したようだ。



得点が確定した瞬間、突然ガーディアンと傭兵たちの身体が黒い炎に包まれた。

その黒い炎は足もとから勢いよく吹き上がり、あっという間に転がっていた死体も立っていたガーディアンや傭兵たちも黒焦げにしていった。

しかもイメージ通り人体だけを焼き、装備は溶けておらず残っていた。黒いあの炎は普通の炎ではないのだろう。さすがに着ていた服は一緒に燃やされたようだが、ほぼイメージ通りの燃え方だった。


マジか……範囲魔法まで発動した。しかも威力が凄まじい……

やっぱり俺は点数に関係なく魔法を発動できる? もしかしたらより難易度の高い曲と、強力な魔法効果を詩に入れると発動するらしい上級魔法も使えるんじゃないか? 詳しい発動ルールを知らないからここでは試せないが……


それにしても中級でこの威力……人が燃えて黒焦げに……


「うぷっ……オエェェッ……オエッ……ハァハァ……キツ……」


殺してしまった……人を……いや、殺らなきゃ殺られてた。

コイツらは俺を利用してリーゼを襲おうとした。人の情を利用しようとした悪魔だ。

そうだ、ゴブリンだって言ったばかりじゃないか……でも女性まで手にかけ……くそっ! くそっ!


俺は誰もいなくなったこの広い地下室で、自分のした事に押し潰されそうになっていた。

必死だった。リーゼを守るために、自分を守るために。


俺はフラつきながらもここにいつまでもいたらダメだと思い、出口へと歩き出した。

そして途中に転がる黒い人だったモノの側にあったリーゼから借りていて奪われたマジックポーチと、ガーディアンや傭兵たちが持っていたマジックポーチ8つにマジックバッグ1つを回収した。

ほかにコイツらの身元がわかるような武器や装備を適当にマジックバッグに詰め、リーゼのマジックポーチにマルディルから奪ったマジックバッグとその他のマジックポーチとバッグを入れた。


「これでこの黒い物体が誰かわかんないだろう……念のため吹き飛ばししておくか……『Song Magic』! 」


俺は歌魔法を発動し、今度はヴァイオリンとピアノを持つ堕天使を出現させ歌い始めた。


『万の風に〜 万の風に乗って〜 あの〜部屋の隅に〜まとまってくださいぃ〜♪ 』


そして歌い終わるとまたもや減点方式で49点から28点まで下がり、点数が確定した途端に突風が俺を避けて吹き荒れた。

その風は黒い人だったモノを粉々にし、地下室の隅に追いやった。

俺はそれを確認して地下室から外へと出たのだった。



警戒しつつ外に出た俺は、特に見張りがいない事を確認して避難施設らしき建物の裏側へ回った。

そしていつのまにか夜になっていて、二つの月と街灯に照らされた明るい道を避けるように外壁沿いを移動していった。

15分ほど歩いただろうか? 見覚えのある道が見えたので、俺はなるべく人目に付かないようその道を進みホテルへとたどり着き、裏口から中に入った。そして初級ポーションを飲んで打ち身や傷を治し部屋へと戻った。


「カナタ! あなたどこに行って……ど、どうしたのその服!」


「ああ、ちょっと傭兵たちに絡まれてさ」


部屋に入るとリーゼが完全装備で立っていた。

どうやら俺の帰りが遅いから、なんらかの事件に巻き込まれたと思ったのだろう。時計を見るともう23時を過ぎていた。

俺は高確率でリーゼがいると思っていたので、用意していた言い訳をすぐに口に出すことができた。


「傭兵ですって! どこにいるの! 私のカナタをこんなにボロボロにして! 許さない! 私が報復してきてあげるわ! 」


「ちょっ! もう倒したから! 相手も酔っ払っていたから俺でもなんとか勝てたんだ。最後は同じ人族同士和解したから。落ち着いて……ほら、傷はもうないから。ポーション使っちゃってごめんね。心配も掛けてごめん。それと怒ってくれてありがとう」


俺は怒って外に出ようとするリーゼを後ろから抱き止め、問題ないことを必死に説明した。


「あっ……そ、そう……それなら……カナタが納得してるのなら……」


「男同士はよくあることだよ。どうもリーゼのような美人と仲良くしている俺が羨ましかったみたいだ。さあ、革鎧を脱いで落ち着こう」


「び、美人って……もうっ! 心配したんだから……今度遅くなるときはホテルに通信いれてね」


リーゼは顔を赤くして後ろから抱きしめる俺へと振り返った。

うまく誤魔化せたようだ。


「ああ、悪かったよ。ついつい長居しちゃって。次からは必ず連絡を入れるよ。さて、俺も着替えてシャワーを浴びて血を流してくる。リーゼも一緒に入る? 」


俺はリーゼを抱きしめる手を緩めてそう言うと、リーゼはさらに顔を真っ赤にして俺から離れた。


「は、入らないわよ! もうっ! 部屋にいるわ。どこか身体が痛むようなら無理せず中級ポーションを飲んでね。それじゃあおやすみ」


「大丈夫だよ。でもありがとう。おやすみ」


「おやすみ。無事でよかったわ」


リーゼはそう言って最後は俺に笑顔を見せて部屋を出ていった。


さすがに50万もする中級ポーションはおいそれとは飲めない。

これもエルフの演奏魔法士が作っていて、需要が多いのに製造が間に合っていないから高価だ。

止血や打ち身や軽い切り傷に効果のある初級ポーションでさえ10万もする。

骨折や切断された部位をくっつけることができる上級ポーションなんて300万ディアだ。

魔道具店で値札を見た時は、歌魔法士は収入はいいけど出費も激しいもんだなと思ったよ。


「ふう……肋骨いってるよなこれ……あっ、アイツらの荷物にないかな? 」


俺はずっとズキズキと痛んでいた胸あたりを押さえ、初級ポーションで治らないことから骨がいってると判断した。

そして先ほど回収した傭兵のマジックポーチを漁ると、中級ポーションがあった。

俺はラッキーと思いながられを飲むと、すぐに胸の痛みが治まりウデの傷跡も綺麗に消えていった。


「すげー、ファンタジーだよな。これが地球にあったらいくらで売れるんだ? まあいいか。とりあえずシャワーだな」


俺は回収したアイテムの整理は明日でいいやと、汚れた服を脱ぎシャワーを浴びてスッキリとした。

そしてシャワーから出るとベージュのワンピースの部屋着に着替えてきたリーゼが、ソファに座って音楽を聴いて待っていた。


「心配性だなリーゼは」


「今日のカナタはいつもと様子が違うのよね……」


どうやら俺が普段と様子が違うことを心配して来てくれたようだ。

リーゼのこういう優しいところが好きなんだよな。


「そう? 別に変わらな……いや、ちょっと嫌なことがあったかな」


「やっぱり……話して楽になっちゃいなさいよ。お姉さんが聞いてあげるわ。カナタがぐっすり眠れるまで側にいてあげる」


「たいしたことじゃないんだ。でも側にいてくれると眠れるかも」


別にたいしたことじゃない。けど、今日はリーゼに側にいて欲しい気分だった。


「ふふふ、子供みたい。可愛い。じゃあ横になって、カナタが寝付くまでお姉さんが手を握っていてあげる」


「あははは、それは完全に子供扱いし過ぎだって。俺も男としてカッコ悪いよ。ただ、いつも通り話をしてくれればいいんだ。リーゼと話してると落ち着くから」


俺は慈しむような顔で俺を見て、ソファの隣でピッタリと身体を付けてくるリーゼにドキッとしつつも、さすがに子供扱いは恥ずかしくていつも通り他愛もない話をすることを望んだ。


「そう? 一度やってみたかったのよね。それじゃあなんの話をしようかしら? 」


「リーゼの子供の時にしたイタズラなんかを知りたいな」


「してないわよ。私はおとなしくて有名な子供だったんだから。イタズラなんてしてお母さんを困らせたりしたことは少ししか無かったわ」


少しねえ……好奇心旺盛なリーゼがおとなしかったなんて、到底信じられないんだけどな。


「そうか、ならその数少ないイタズラを知りたいかな」


「んもうっ! たいした事じゃないわよ……歌魔法の練習でお庭の花壇を全部燃やしちゃって家まで燃えそうになったとか、食器を洗うのが面倒だったから、歌魔法で洗い流したら全部割ってしまった上に家中水浸しになったとかその程度よ。どの家庭でもよくあることよ」


「そ、そう? エルフの家庭環境って結構バイオレンスなんだね」


日本でそんなことやったらイタズラどころの騒ぎじゃ無いんだけどな。価値観の違いなのか?

それともたいしたことが無いと思っているのはリーゼだけとかか?

これまでのリーゼの大雑把さを見てると、後者の可能性が高いよな……


この後もリーゼの少しだと言うイタズラ話をたくさん聞いた。

俺は魔法のある世界のイタズラの規模に時折ドン引きしながらも、リーゼの子供時代の話を聞いて楽しかった。

そしてそんな話をしているうちに眠くなり、俺はいつの間にかウトウトとしていた。


今日は色々あった……本当に色々……でもリーゼが無事でよかった。俺も生き残ることができた。

強くならないと……また俺をダシにリーゼを危険な目にあわせるわけにはいかない……

この世界にはあんな屑がいる……守らなきゃ……リーゼを……


「カナタ? ふふふ、眠くなったのね。おやすみ……私のカナタ……」


俺は薄れゆく意識の中でリーゼに頭を撫でられているような感覚を覚え、その手がとても優しくて安心して……そのまま意識を手放したのだった。






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