第4話 エフィルの街
「見えたわよカナタ。あそこが私たちエルフの国『エルファソラ共和国』最北の街『エフィル』よ」
「おお〜! あれがエフィルの街か、見事に肌色一色だな」
俺はリーゼの拠点とするこの街に、森から車で3時間掛けてやってきた。途中俺が止めなければ2時間で着いたと思う。
俺は丘を走る車の助手席から眼下に広がる壁に囲まれた街を見て、最初に思ったのは肌色一色という印象だった。それは壁も含め、街に建つ石造りの建物全てが肌色だったからだ。
「ふふっ、建築に使う頑丈な石材があの色なのよ。人族は塗装したりしているけど、私たちは建物とかは自然のままの色を好むの。だからどこを見ても肌色よ」
「いや、統一感があってとても綺麗な街だと思うよ。建物の高さも5階までかな? どうやら決まってるみたいだね」
「ええ、それ以上の高い建物はこの国には無いわ。地震もあるし」
地震という部分でリーゼが運転しながら肩をすくめた。
地震があるのか。それならば納得だな。
それから街に着くまでにリーゼが簡単にこの街のことを説明してくれた。
この街より北にも街があるのだそうだが、そこはダークエルフたちが主張する土地で戦争で取ったり取られたりしているらしい。現在は辛うじてエルファソラ共和国軍が占拠しているが、国境沿いにある最前線の街なので高ランクの魔法士とその補給のための資材基地となっているそうだ。
過去にはその街を取られこのエフィルの街まで攻め込まれた事もあるそうだが、この街の守りは堅く今まで一度も占領されたことがないそうだ。
現在は最前線の街がなんとか敵魔法士を食い止めているので、ここまで敵は来ないから安全だそうだ。
魔物も俺がいたさっきの森から南にはやってこないとの事。森には国境で戦闘がある度にダークエルフたちが操る魔物が迷い込んでくるらしい。
傭兵はそういった魔物や敵ガーディアンの残党狩りが仕事だから、最前線には行かないそうだ。魔法士の傭兵は少ないらしいから、敵魔法士に出会ったら勝てないかららしい。
魔法士への待遇はどの国でも良いのに傭兵になるって事は、なんか国でやらかしたからなんだろうな。やはりお近付きになりたくはないな。
残党狩りは下級魔法士も駆り出される。だからリーゼもあの森に依頼を受けて来ていた。
ほかの魔法士とパーティは組まないのかと聞くと、残党狩りくらいだとパーティを組んでもあまりメリットがないとのこと。それに基本的に歌魔法士はみんなプライドが高いから、同じ歌魔法士と一緒に戦うことはあまりないらしい。それぞれが演奏魔法士とガーディアンを囲い、自分だけのパーティを作るのが普通だそうだ。
なるほどね。ツインヴォーカルユニットは確かにあまり見ないよな。
でも戦争になると歌魔法士が大勢集まるのに、普段からほかの魔法士と連携してなくて大丈夫なのかね?
この疑問についてはリーゼは戦争は戦争よと言っていた。なんか憧れてる風にも見えるけど気のせいだよな? できれば戦争は遠慮したい。
まあBランク以上じゃないと召集されないみたいだから大丈夫か。
そんなことを話しているうちに街の入口の門にたどり着いた。
ここま東門で門の前には数台のトラックや乗用車が街に入るために並んでいた。
そして数分待ったのちにリーゼの番となり、門の前にいる白いハーフプレイトメイルを着込んだ衛兵に胸に付けていた青いバッジを見せ、俺のことを見てなにやら話していた。
どうやらリーゼが俺の身元保証人になると話しているようだ。
そして衛兵が頷くと門を通る許可を得られたようで、リーゼは車を前へと進めた。
「何か疑われたりしなかった? 」
「ふふっ、そんなことはないわよ。ダークエルフでも乗せてない限り大丈夫よ。そもそもここみたいに前線に近い街以外は壁もないし出入り自由なのよ。検問があるのはここといくつかの街だけね」
「そうなんだ、よかったよ」
確かに戦争中のダークエルフを街に入れるわけにはいかないもんな。
今の時代は人族とは関係は悪くないらしいから大丈夫だったんだろう。
今の時代と言うところがエルフらしい言い方だよね。さすが長寿な種族だよね。
そして街に入り建物が両サイドに建ち並ぶ二車線の道路を車で数分進んだ。すると左側のホテルの看板がある建物の中へとリーゼは車で入っていった。
そこは1階が駐車場となっており、リーゼは適当な場所に車を駐車した。それから俺に荷物を持って車を降りてと言い、2人で駐車場の端にある扉へと向かった。
そしてその扉を開くとそこはホテルのロビーだった。
ロビーには10人ほどの革鎧を着て大きな盾を持つ客らしきエルフと、フロントに3人ほどのエルフの従業員がおりそのうち2人が接客中だった。
俺がリーゼとロビーに入ると人族とエルフが一緒にいるのが珍しいのか、それとも俺の髪の色が珍しいのかわからないが全員の視線を感じた。
くっ……アウェー感ハンパないな。
気にしちゃダメだ。これから毎日こう言う視線に晒されるんだ。
そうだ! きっとエルフには俺がイケメンに見えるから注目を集めてるんだ。これが芸能人が日々経験している視線か。なかなかに視線が熱いぜ。
ほら、あのエルフのイケメン男性とか……おいっ! やめろ! 目を潤ませて見てんじゃねえ!
俺は背筋に寒い物を感じつつ、リーゼがフロントの女性との手続きが終わるのをジッと待っていた。
そして5分ほどしてリーゼが受付を終え俺へと振り返り、鍵を持って俺の腕に腕を絡ませて歩き出した。む、胸の谷間が……
「ふふっ、カナタはモテモテね。フロントの子もカッコいい人族ですねって言ってたわよ? 一緒にきた私もいい気分だったわ。これなら強さと生活力を付けたらエルフのお嫁さんを何人も持てるわよ? 」
リーゼがエレベーターらしき物の前で止まり、ボタンを押しながら俺にそう言って笑いかけた。
「え!? 何人もって……結婚は1人とだけじゃないの? 」
ま、まさか……異世界定番の一夫多妻制!? 夢のハーレムOK世界!?
「能力が高い女性は複数の男性と結婚できるし、男性も複数の女性とできるわ。争わないように序列は必ず決めないといけないんだけどね。人族は寿命もそうだけど見た目がアレだからエルフと一緒になることは滅多にないんだけど、愛があれば神様も認めてくれて母方の種族の子供を授けてくれるわ。子供ができ難いのは変わらないんだけどね」
グハッ! 多夫多妻制だった!? これは俺的にはキツイ!
実力と生活力をつけねば……これはなんとしても甲斐性のある男になって、多くの女性をはべらす側に立たねば……でもそれよりも気になるのは……
「リ、リーゼも高ランクになったらたくさんのエルフ男を? 」
「私は愛する人は1人でいいわ。でも子供は欲しいからその人との間に百年経ってもできなかったら考えるわね。300才になる前にはどうしても欲しいわ。愛する人以外ととかは嫌だけど、エルフにとって子供を授かることはとても大事なことなのよ」
「子供か……数の少ないエルフにとっては切実な問題だもんね」
確かただでさえ子供ができ難い種族なのに、男と女も精神的な繋がりを第一に考えるとか言ってたな。遠回しにだったけど、男性もそっち方面は淡白だって言ってたな。だから複数の伴侶を持つことを許す社会を作り、教育で子供を作る大切さを幼い頃からすり込んでいるのかもな。
そういえばここに来る途中で見かけた街を歩る女性は、肩と胸もとを露出させている服装の人ばかりだった。ホテルのフロントの女性の着ていた制服もそうだったな。恐らく本来は貞淑なエルフ女性だけど、男エルフが淡白すぎるからファッションで少し刺激するようにしているのかもしれない。思春期の俺にはなかなかに刺激的だ。
でもこれくらいしないといけないほど、種の存続が危ぶまれてるのかもな。ラノベなんかの知識で考えれば10万人とか多く感じるけどな。この世界ではこれが普通なんだろう。
まあでも大丈夫だ。俺は淡白さとはかけ離れた男だ。
エルフ視点の見た目のハードルを越えたのなら、あとは能力さえ高ければ俺はエルフ種の救世主になれる!
そうだ力だ! とにかく俺には力が必要だ!
試験を受ける前に30点加点されることが決まってるようなもんだ。
俺はこのチャンスを生かさないといけない!
俺は目の前でガコンッという音を出しながら開く、古い映画で見るような檻のようなエレベーターに乗り込みながら裏口入学をする学生の気持ちになっていた。
「そうね。子供ができ難いのは切実な問題ね。ダークエルフとは定期的に争っているし、ひとたび人族との戦争が起こればかなりの数が減るらしいわ。だからカナタ頑張ってね。カナタの見た目で強くなれば、たくさんのエルフ女性から子作りの依頼が来ると思うわ。私も結婚してとお願いするかもね」
「いやいや、俺なんてそんな……でもリーゼのために頑張るよ」
マジか!? 人の奥さんなんてごめんだけど、リーゼをお嫁さんにできる可能性があるのかよ!
これは頑張らねば! 名誉ある職種らしいガーディアンで結果を出せば、リーゼと恋人同士になれるかもしれない!
そして黙っていてもエルフ女性が寄ってきて……知らないうちにハーレムができているかも!
俺はリーゼにはハーレムなんて興味ありません的な風を装いつつ、内心ではやる気が漲っていた。
こんなにやる気になったのは生まれて初めてかもしれない。
「ふふふ、目がギラギラしてるわよ? カナタは正直ね。そんな所も可愛いわ。期待しているわ、私のガーディアン見習いさん♪ 」
リーゼには思春期の少年の心は読まれていたようだ。
俺は考えていることがバレて恥ずかしくなりつつも、え? なんのこと? って感じのポーカーフェイスを装った。それを見たリーゼがさらに笑いだしたけど、俺は頬をピクピクさせながらジッと部屋のあるらしき5階にエレベーターがたどり着くのを待っていた。沈黙は金、沈黙は金。
「着いたわ。ここがカナタの部屋ね。これが部屋の鍵だから失くさないでね? 私は隣にいるから何かわからないことがあったら、部屋にある魔導通信機に私の部屋の番号を打ち込んで。私の部屋は509号室よ。それじゃあ着替えてシャワーを浴びたら、あとでここに来るから音楽聴かせてね」
「ああ、ありがとう。わかった、待ってるよ」
エレベーターを降りて通路を少し歩くと、508とこの世界の数字のプレートのついた部屋の前でリーゼが止まった。そしてここが俺の部屋だと鍵を渡しながら教えてくれた。
魔導通信機がどういうものかは知らないが、恐らく内線電話みたいなもんだろう。
俺はあとで部屋に来るというリーゼの言葉にドキドキしながら、隣の部屋へと入っていくリーゼを見送り自分も部屋へと入った。
しかし文字まで読めるとはどういう……いや、深く考えるのはやめておこう。俺にとっては良いことだしな。
俺は言語のことについては深く考えるのをやめ、部屋に入ってから荷物を置いて部屋を見回した。
部屋は思ってたよりは広く15帖くらいはありそうだった。そこにセミダブルほどの大きさのベッドと3人掛けのソファとテーブルが置かれており、窓からは街の風景と青い空が見えていた。
ベッドの横には電子レンジかと思うほどの大きさの黒い箱があった。
そこには受話器らしきものと数字が彫られたボタンがいくつも付いていて、箱の上には受話器を取って掛けてくださいと書かれていた。
エレベーターといい街並みといいこの電話といい、なんというか映画なんかで見た50年前くらいのヨーロッパ的な文明って感じがする。
ファッションは民族衣装をベースに色々と組み合わせた感じだ。基本的にはワンピースっぽくて、膝丈くらいのスカートの人が多かった。
前にツイッタラーでまわってきた、ドイツとかオーストリアとかの民族衣装に近いかもな。
俺は電話の存在を確認した後に、その他の設備を確認するべくドアというドアを開けて回った。
シャワー室とトイレは入口横にそれぞれ別にあった。トイレは広く便座が二つあり、一つは用を足す用でもう一つは真ん中だけに穴が開いており、蛇口をひねるとそこから水が噴水のように吹き出した。
どうやらお尻を洗う用の便座のようだ。これは一体型になるのは時間の問題だな。
一つ気になるのは用を足す用の便座だ。これはトイレの便座の向きが逆で、通常背を向ける側にどうみても手で掴む手すりがあった。
つまりはおまるのように使うのだろう。
おまるの大人版か……水洗だけどこれはなかなかに勇気がいる。この歳でおまる座りするのかよ……
というか鍵をかけ忘れたら俺のプリティなお尻が丸見えじゃん!
俺は鍵を絶対掛け忘れないようにしようと心に決めるのだった。
ひと通り設備を見て回り白いソファへと腰掛け、着ていた青のアウトドア用ジャケットを脱いでリュックからコーヒー缶を取り出した。
それにしても朝普通に家を出て、飯田たちと合流してキャンプに行ったら異世界にいるんだもんな。
そしてゴブリンに襲われてリーゼに助けられて……
今頃みんなは俺を探してるんだろう。飯田の荷物も持ってきちゃったしな。
これは寝て目が覚めたら夢でしたってなんないかな?
こんな危険そうな世界だ。リーゼと出会わなければ夢であることを切に願ったけど、リーゼと別れるのは嫌だな……
あんないい子なかなかいないと思うんだよね。なにより妖精のような美しさと抜群のプロポーション。
完璧すぎだろ。
魔物か……怖いけどリーゼを守らないと。
俺がどこまでできるかはわからないけど、少なくともこの世界の人族よりは魔力が多いんだ。
ほかのエルフのガーディアンと同じレベルにはなれるはずだ。
飯田たちや両親を亡くしてから育ててくれた爺ちゃんには申し訳ないけど、俺はリーゼから受けた恩を返したい。そして彼女を守りたい。
俺はそんなようなことを窓から見える青空を見つつ、リーゼが部屋を訪れるまでずっと考えていた。
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