第2話 歌魔法士と演奏魔法士
「カナタは17歳だったの? 見た目通りの年齢だったのね」
「え? 中身がオヤジ臭かった? 」
「違うわよ。魔力量が多いから見た目よりは年齢がいってると思ったのよ」
リーゼが運転をしながらクスリと笑ってそう言う。
「魔力量と年齢が何か関係あるの? 」
「そのことも忘れちゃったの? 魔力量が多い人ほど老化が遅くなるのは常識よ? 人族でも飛び抜けた魔力量を持ってる人は300歳まで生きたりするでしょ? 」
「ええ!? 魔力量が多いと老けないのか! ち、ちなみにエルフの寿命って? 」
「平均で500歳くらいかしら? あっ、ちなみに私は19歳よ? エルフは18歳で一旦老化が止まるから誤解されやすいのよね。そんなに歳いってないから勘違いしないでね? カナタよりちょっとだけお姉さんなだけよ? 」
「ご、ごひゃく……あ、ああ。リーゼはちょっとだけお姉さんなんだな。了解です」
すげーなエルフ! その辺はラノベ設定通りかよ。
ん? あれ? 俺の魔力量ってエルフくらいあるって言ってたよな? てことは俺も500年生きるのか!?
500年前ってなんだっけ? 織田信長が生まれる少し前か? 鉄砲の無い時代に生まれた人間が、核ミサイルが大量に作られる時代まで生きるのか……
うん、長過ぎて人生設計とか全く思いつかないわ。とりあえず今は考えるのはやめておこう。
俺はこの世界の異物だから、その法則が適用されるかわからないしな。今はとにかく街に行って生計を立てることを考えないと、たとえ長生きできる身体でもその前に飢えて死ぬ。
俺は森から出たあとにリーゼの魔導車の助手席に乗り、南の海岸沿いにあるという街へと向かっていた。
この街はエルフの国の北の国境近くの街で、リーゼはここを拠点に歌魔法士として活動しているそうだ。
車に乗ってから1時間ほどリーゼにこの世界のことを少しずつ聞いたりしたが、まあとってもファンタジーな世界だったよ。
まずこの世界の名前はミローディアというそうだ。
そしてこの世界には人族と魔族、エルフにダークエルフと獣人がいて、それぞれが国を持っている。
どこの国もその時代その時代で争ったり友好関係を築いたりして、滅ぶことなくこれまでやってきたらしい。
大陸には魔族以外の国がそれぞれ東西南北に位置していて、魔族の国だけは北のダークエルフの国のさらに北にある島にあるらしい。
そして魔族の国にはやっぱり魔王とかいるみたいだ。ただ、そこまで世界制覇に積極的ではなく、ダークエルフに兵を貸したりして傭兵家業で収入を得ているようだ。
まあ魔王軍が侵攻してくるような世界じゃなくてよかったよ。
んで気になったリーゼのさっきの歌なんだけど、なんとこの世界では音楽が魔法になるらしい。
呪文らしきものを唱えて放つ魔法ではなく、歌を歌って魔法を放つそうだ。
これはこの世界の名前にもなっている主神ミローディアが、音楽の神ということが関係しているのだという。
ただ誰でも魔法を使えるわけではなく、主神の加護を受けた者しか魔法を使えないそうだ。その加護は首から上のどこかに、天使の翼と楽器のハープの紋章が出るからすぐわかるそうだ。
リーゼの紋章は右耳の下あたりにあった。信号待ちの時に見せてくれて、だいたい10cmに満たないくらいの水色の紋章だった。
紋章を確認する時に、色っぽいうなじにドキッとしたのはナイショだ。
ちなみに俺の首やら顔やらには無かった。まあ音痴の俺に紋章があるわけないし、あったらあったでビックリだ。
魔法使いにはリーゼのような
歌魔法士は曲をイメージして歌を歌うと、エルフやダークエルフには妖精が、人族や獣人族には天使が楽器を持って現れ演奏してくれる。歌魔法士は曲のイメージを保ったまま歌を歌い、攻撃魔法を繰り出す。
そして歌魔法士が歌っている間は、魔物や人間は一切動けないそうだ。
敵に歌魔法士がいる時は魔法戦となり、特殊な戦闘形式になる。基本的にはお互い順番に歌って神の採点を受け、そして点数の高い方の魔法のみが発動するらしい。
カラオケバトルかよと思ったのは俺だけじゃないはずだ。
まあ高ランクの歌魔法士はまた別の形式の戦い方があるらしいし、戦争はまた違う戦闘形式となるそうだ。
なんとなく予想はつくけどな。紅組と白組に分かれるやつなんじゃないかとかな。
歌魔法士はガーディアンをバックダンサーに指名することができるらしく、その際はその歌魔法士が歌っている間のみ後方でダンスをすることができるらしい。これには事前に教会でそのダンスごとに登録が必要だそうだ。この世界の教会は本当に神と繋がってるんだな。
もちろん自分が歌っている時に動けない敵魔法士を攻撃するのは禁止だし、近付くこともできないそうだ。バリアとかそういうのがある訳ではなく、バトル中に歌魔法士に直接攻撃をしようと思っても身体が動かないらしい。
見えざる神の力みたいなもんかね? 歌魔法士同士は歌で勝負しろってことか。
次に演奏魔法士だけど、彼ら彼女らは自らの楽器を奏で、歌魔法士に補助魔法を掛けたり回復魔法を掛けたりするそうだ。
ちなみに演奏魔法士の加護を受けた人にはハープのみの紋章が現れるらしい。
そしてそれぞれの魔法士にはS~Fまでのランクがあって、教会が毎年2回行う試験に合格することでランクアップするらしい。これは魔族の国も共通なようだ。音楽神ミローディアからしてみれば、魔族もエルフも獣人や人族だって等しく自分の子なのだそうだ。
ランクによって薄茶、茶、水色、青、銀、金と紋章の色も変わるそうだ。ちなみに金はS級だ。
まあランクには色々特典があるらしいんだけど、長くなるからその話はまた今度と言われた。
そしてこれから行く街のことを色々と聞いてみたんだけど、そこはエルフの国の最奥の街だから人族はほとんどいないそうだ。つまり人族の企業もないらしい。
「なら俺が街で生計を立てるとしたら、日雇いの肉体労働をやるしかないのか……」
「そうね。探せば工事現場とかあるかもしれないけど、エルフは排他的だから雇ってくれるかはわからないわ。傭兵組合で戦士として働くくらいしかないと思うわよ? あそこなら色々な種族の人が集まってるから受け入れてくれると思うわ。荒くれ者が多いから、こういったダークエルフとの国境近くの街にしかないけど」
魔導車が赤と青しか無い信号で止まったところで俺がリーゼに街での仕事のことを聞くと、リーゼは少し考えたのちに傭兵の仕事の存在を教えてくれた。
「傭兵か……あのゴブリンとかと剣で戦うの? 」
「そうよ。歌魔法士は数が少ないから、敵の歌魔法士がいないエリアで魔物狩りをする人が必要なのよ。それでも人手不足だから私のようなD級歌魔法士は駆り出されるんだけどね。下っ端は辛いわ」
リーゼが言うにはエルフの人口は10万人ほどいて、そのうちの10%の1万人が歌魔法士の素質があるそうだ。
ちなみに人族は1千万人ほどいるらしいが、そのうち歌魔法士は0.1%の10万人らしい。
人族の方が歌魔法士の数が多くて有利に見えるが、種族特性みたいなのがあってそれで均衡を保ってるらしい。
まあ魔力量が多いとか長生きしてるから技量が高いとか、神に愛されている部分が人族よりもあるとか色々あるそうだ。
演奏魔法士はもう少し多いらしいが、それでも数は少ない。楽器が弾けるだけでは演奏魔法士にはなれず、神の加護が必要だからだ。
そういった理由で魔法士は貴重なので、国からランクに応じた高額な給与をもらえるそうだ。さらに依頼達成に応じて別途報酬も出るらしい。その代わり国からの依頼を拒否することは、B級以上にならない限り難しいらしい。
「そういえばダークエルフとの戦争には勝ったの? 」
「痛み分けだったとは言ってたわ。戦争にはB級以上にならないと参加できないから詳細はわからないんだけど、結構被害が出てガーディアンと魔法士不足みたいなのよね。本当に痛み分けだったかは怪しいところね。でもこれでまた良さそうなガーディアンが、生き残った高ランクの歌魔法士に取られるわ」
まあ確かにどれだけ被害が出ても、国ってのは負けたとは発表しないよな。
それにどうやらガーディアンとはD級歌魔法士になると契約できるようになるらしく、ガーディアンがいないと演奏魔法士は危なくてパーティを組んでくれないそうだ。
リーゼは加護を得た幼い頃から歌を練習して上手くなって、成人した18歳から歌魔法士としてFからDまでスピード昇格してきたらしい。
けど肝心のガーディアンが見つからなくて、ここのところ苦労しているみたいだ。
同性のガーディアンは少ないし、異性のガーディアンだと若いエルフは言い寄られたりでめんどくさい。それに神の力をもって契約するから、一度契約すると余程のことが無い限り解除もできない。だから男性のガーディアンの場合は慎重に決めたいそうだ。
ちなみに歌魔法士と契約したガーディアンには、国から給料が出るそうだ。これはそこまで高額じゃないけど、歌魔法士からもその都度報酬をもらえるから結構リッチな生活ができるらしい。
死亡率は高いけど。
現状のD級からC級への昇格には歌の技量だけではなく、多くの戦闘経験が必要になる。そのためにはダークエルフの国のもっと近くに行き、強い魔物やちょこちょこ侵入してくる敵魔法士を倒す依頼を受けていかないといけない。
でもソロだとそれは無理だ。ガーディアンと演奏魔法士を引き連れた敵魔法士と、単独で出会うなんて絶望しかないらしい。
さて、どうするかな。どうも街に行っても選択肢は傭兵一択しか無さそうだ。
ここが中世レベルの異世界なら時計や服などを売って資金を得られたんだろうけど、リーゼが着ている服も靴も地球とそれほど変わらない出来だ。腕にはなかなかクラシカルな時計もしている。
極め付けはこの魔導車……凄い乗り心地いいんですけど! デザインは地球感覚ではかなり昔のっぽいけど、オートマだし揺れないしこれだけ見てもかなりの技術を持ってることがわかる。
これは俺の持ち物は売れなさそうだな……となると人族の国に行くしかないんだけど、かなり遠いらしい。
魔導列車代も高額らしいから、このエルフの国で金を稼がないといけない。
それよりなによりエルフと離れる気が俺にはない。だってここだと俺はイケメンでいられる可能性があるからな。リーゼの話を聞く限りでは、人族はみんな顔が整っているらしい。
つまりは美女も多いということなんだろうけど、恐らく人族の街に行ったら俺は浮くだろう。フツメンなのにブサイク扱いされるとか……それは耐えられそうもない。
となるとやはり傭兵か……ムサイおっさんや乱暴な女性に囲まれて、血と肉が飛び散る森で魔物と命懸けの戦いを……無理だな。それにもしもダークエルフの歌魔法士に遭遇したら蹂躙されそうだ。
だったら魔法士の側にいた方がまだ生存率は高い。それにちょうどリーゼはガーディアンを探している。
だがついさっきまで身体強化すら知らなかった俺を、D級歌魔法士だと1人しか契約できないガーディアンにするとは思えない。ならガーディアンとしての価値だけではなく、俺を側に置くメリットをリーゼに認めてもらわないと……
「リーゼ、街に着いてからなんだけど……」
「ふふふ、心配しなくていいわよ。協会に行ってちゃんと国に帰れるように手配してあげるわ。お金も心配しなくていいわ。私も助けた責任があるから、国に着くまでに不自由しない程度は渡してあげる。これでも結構稼いでるから気にしないで」
リーゼは天使のような優しい笑みを俺へと向けてそう言った。
俺はその笑みに心臓が飛び出るくらいドキドキしていた。
な、なんて優しいんだ! 見ず知らずの俺にここまで……やばい! 久しぶりに人に優しくされたから泣きそうだ。これは惚れるわ。
ラノベで危ないところを主人公に助けられて、衣食住を世話されたくらいで落ちたヒロインたち。
チョロインとか言ってごめんなさい! 困っている時に見返りを求めない純粋な優しさを向けられることが、こんなに破壊力があるとは知らなかったんです。これは惚れなきゃおかしいわ。
くそっ! こんないい子と離れて国に帰れるか! ってか電車で帰れる所じゃないし!
これはなんとしてもこの子の近くにいないと! ストーカーとかじゃなく正攻法で!
俺はリーゼに車を止めてもらえるようにお願いし、リュックからこの世界なら価値があるであろう物を取り出した。
頼む! 食い付いてくれ!
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