番外編:小さなあなたへ(ネタバレ無)

 ネタバレなしです。ある程度、二人が仲良くなった後の話です。



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「……ふあぁ」


 欠伸をしながら、隣に眠る愛しい人を起こさないように起き上がる。こんなに大きく口を開けて欠伸してるところ、見せたりしたら嫌われちゃうかもしれない。

 今日はお休み。朝ごはんはホットケーキにしようかな。チョコでハートマークを書いてあげたら、喜んでくれるかな。


「ん……」


 いけない、起こしちゃったかも。

 少しヒヤリとしながら、隣を見る。……あれ? 晴我くん、だよね?

 晴我くんが、小さくなっちゃった。




「おはよう、晴我くん」

「……お姉さん、誰ですか?」


 とりあえず挨拶したら、誰なんて言われた。晴我くんが、小さくなってる。小学生ぐらいのころ、かな?

 私のことを知らないみたいだし、もしかして記憶まで小さい頃に戻っちゃってる? 確かに、私たちが出会った頃の年齢じゃないもんね。

 

「私は晴我くんのお嫁さんだよ」

「……ぼ、僕はお姉さんのこと知らないです」

「うんうん、そうだよね。私は将来のお嫁さんなんだよ」

「将来の?」

「そうだよ。小さい頃の晴我くんに会いたくて、未来に連れてきちゃったんだ」


 我ながら口が回るなぁ、なんて他人事に考える。お嫁さんってところは嘘じゃないし、小さい頃の晴我くんに会ってみたいのも本当。晴我くんからしたら、ここは未来みたいなものだし、嘘はひとつもないよね。


「お、お家に帰らせてくれますか?」

「……どうしよっかなぁ?」


 少しイタズラ心が働いちゃって、そんなことを言ってみる。するとみるみるうちに、晴我くんの目には涙が溜まっていった。でも、口を引き結んで我慢してる。か、可愛い……。


「うそ、嘘だよ。ちゃんとお家に帰してあげるからね。大丈夫、大丈夫だよ」

「ほんとですか?」

「うん、晴我くんな嫌なことなんてしないからね」


 そういうと、こくこくと頷く晴我くん。可愛い、可愛すぎるよぉ。一挙手一投足が可愛いなぁ、肌もツヤツヤで羨ましい。あぁ、もちもちしたいなぁ。

 いけない、晴我くんの嫌がることはしないって言ったんだ。我慢しなくちゃ。


「あ、朝のチューしないと」

「ちゅ、チューですか?」

「うん、未来では毎日してるんだよ」


 朝も昼も夜も、どんな時でもしたくなる。あんなに幸せなこと、他にないもの。

 晴我くんは顔を赤くして、布団の中に引っ込む。わあー、全部可愛いよぉ。


「お姉さんとチューは嫌?」

「……」


 耳まで真っ赤になって、うつぶせになって顔を隠してる。可愛い、どうしよう、可愛い。

 チューしたら、どんな顔するかな。もっと恥ずかしがっちゃう? それとも、耐えられなくて逃げちゃう? どんなお顔、見せてくれるのかなぁ……。


「ほら、チューしよ? してくれないとお姉さん、寂しいなぁ」

「……ほ、ほっぺたですよね」

「口だよ?」

「……」


 カタツムリみたいに顔を出してくれたのに、口だって言った瞬間にまた引っ込めた。どうしよう、もう我慢できないかも。

 布団をバッと投げ飛ばして、中から可愛い晴我くんがこんにちはしてくれた。


「将来のお嫁さんなんだから、恥ずかしがることなんてないよ? はい、チューしましょうね〜」

「は、恥ずかしいから……」

「大丈夫、夫婦だから恥ずかしくないよ」


 そう言っただけで、晴我くんは覚悟を決めた顔をする。もう逃げられないんだって悟ったみたい。

 唇を少し突き出して、目を瞑ってる。ドキドキするよね、キスは初めてだもんね。それを私が貰っちゃうんだね。

 どうしよう、途中で止まれるかな? 無理だよね、こんなに可愛いんだもん。いっぱいキスしてハグして……それ以上は、していいのかな?

 もう、どうでもいいよね。夫婦だもん、お嫁さんとお婿さんだもん。


「晴我くん、大好きだよ」


 その言葉を最後に、私は。




「─────んっ」


 夢から、醒めた。




「愛菜之が俺より後に起きるって、珍しいな」

「ごめんね」

「休みだしいいよ。本当は朝ごはんの用意くらい、俺がするべきだけどさ」


 そういって、晴我くんはよく焼けたトーストとホットミルクを用意してくれていた。すっごく幸せな朝食、もう今日はいい日になっちゃった。


「寝てる時の愛菜之、すっごい幸せそうだったけどさ。なんかいい夢でも見てた?」


 隣に座る晴我くんが、そう聞いてくる。夢の中の晴我くんとは違った、成長した身体、声変わりした低い声。私よりも高い身長。

 夢の中だけでも、小さな晴我くんに会えてよかった。今の晴我くんのカッコよさも可愛さも、今だけのものだって分かったから。


 でも、昔の晴我くんも可愛かったな。また会えたら、その時は……。


「……寒気するな。今日って気温低かったか?」

「ふふっ」


 また好きだって、伝えさせてね?





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 あとがき


 書くのが楽しくない、というダークサイドに落ちかけていたので好きに書かせてもらいました。


 皆さんの好きな歌はなんでしょうか。

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