番外編:シャツの返却期限(ネタバレ無)
以前になろうで投稿していた番外編をリメイクして書きました。
2、3年ほど前のものをリメイクしたので雑です。
なお、この番外編は1年生編13話を読んでから読むとスムーズに読めます。
本筋には全く関係ない話です。
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「そろそろ俺のシャツ返してくれないか」
「ええ!?」
ええ!? って、そんなに驚くことかね。そもそも渡したシャツは俺のだし。ていうか、俺のシャツのなにがいいんだ?
「あ、あれは私の命っていうか、私の生きる糧っていうか……」
シャツは別に血が通ってるわけでもないし、シャツでご飯を食べられるわけじゃないんだよ……。
「とりあえず、愛菜之の家に取りに行くからさ。シャツがなくても、本物がいるからいいだろ?」
「……晴我くんがいてくれるの?」
「ん、好きなようにしていいぞ」
「ほんと!? えへへ、えへへへへ……」
……笑いの中に、黒い部分がふくまれてるのは気のせいだろうか。
まぁ、愛菜之は優しいから大丈夫だろ。
「じゃあ、お部屋で待っててね! えへへ、えへ……」
軽やかなステップで、愛菜之が部屋から出ていく。
愛菜之の家について、シャツを返してもらったらさっさと帰ろうと思ってたんだけどな。迷惑かけたくないし、俺も俺でやることがあるし。
しかし、なんでかは知らんが愛菜之の部屋は安心する。好きな人の匂いがするからか、はたまた、そう感じられるように愛菜之が工夫してるのか。
部屋を観察しながら待っていると、部屋の扉が開いた。
愛菜之が顔を真っ赤にしながら、俺のシャツを片手に立っていた。
「愛菜之……?」
「晴我くん……」
普段とは違うその声に違和感を感じつつも、おぼつかない足取りでこっちへ向かってくる愛菜之を抱き止める。
「晴我くん、好き、大好きぃ……」
「ちょ、愛菜之?」
「いい匂いする、好き、好き大好き大好きだよぉ……」
「まな、ちょっと待っ……」
俺の胸元でスンスンと鼻を鳴らす愛菜之。なんでかは知らんが、トリップ状態になってるらしい。
俺のシャツを持ってるし、持ってくる途中で匂いを嗅いでトリップしたか……待って、俺の匂いって麻薬かなにかなの? やだよ、普通に。
このまま嗅ぎ続けられると恥ずかしいのと、時間がなくなるのでダブル困る。そもそもこんなところを愛菜兎に見られたら終わる。
「すき、キスして? 愛してる、愛してる愛してる、好きぃ……」
言葉で愛を伝えられながら、今度はキスで愛を伝えられる。絶え間なく伝えられる愛情に、身悶えしそうなくらいに身体が熱くなっていた。
しかし、このままされっぱなしじゃ困る。早めに離れてもらわないと、このままじゃ愛菜兎に木っ端微塵にされる。
こんな時にどうするか。離れてもらおうと引き離すのはいただけない。愛菜之を拒絶するようなことはしたくないし、無理に離して怪我でもさせたらもっといけない。
というわけで、引いてダメなら押してみろだ。
「ンッ!? んん、ン〜……!」
愛菜之の舌に、自分の舌を執拗に絡めつかせる。キスの上手い下手も分からない、そんな初心にも程がある俺なりに、愛菜之を気持ちよくしようとしていた。
愛菜之はさっきまでの勢いはどこへやら、目を蕩けさせ、肩から次第に体全体への力が抜けていった。
「ン、ンんぅ……」
蕩けきった声がよく頭に響いてくる。寸分の隙間もなく口を合わせているからだろうか。
脱力した愛菜之を抱きとめ、そして優しく引き離す。恍惚とした表情を浮かべる愛菜之に、俺は頭をポンポンと撫でながらお願いした。
「シャツ、返してくれるか?」
「ひゃい……ひゃれがくんの言うこと、なんでもききます……」
呂律が回っていないのが怖いが、まぁいいでしょう。許しはもらえたんだ。
愛菜之の手からシャツを取り、最後にもう一度軽くキスをしてから、愛菜之を抱きしめた。
「ありがとうな、愛菜之はいい子だ」
「いい子……?」
「そうだぞ。愛菜之はいい子だし可愛いし、大好きだよ」
「だいすき、えへ、えへぇ…………ふえぅ」
愛菜之が変な声を出したかと思うと、こてりと、体から完全に力が抜けきってしまった。
一瞬、本気で悪い方向のことを想像してしまったが、すやすやと寝息を立てるところをみると、ただ寝てしまったらしい。キャパオーバーってやつですかね、これ。
「……帰れないんだが」
その後、愛菜兎が帰ってくるまでに必死に愛菜之を起こし、シャツを返してもらって無事に家に帰った。
シャツは洗濯するか迷うくらい、愛菜之の甘い良い匂いがした。
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