第32話
夏だ! 海だ! ゴミ拾いだ! バカタレ!
なんだって、大事な大事な夏休みの時間をこんなことに割かなきゃいけないんだよ。ほんとなら、俺は愛菜之とイチャコラしてたはずなのに。
「たるいっす……」
「同感だな」
「先輩はマジメに働けください、つか働け」
「嫌だが」
そんな軽口を叩きながら、海岸に散らばったゴミを拾っては袋に放り込んでいく。愛菜之の、夏には似合わないジメジメした視線が痛い。
「……私の晴我くんに話しかけないで」
「あ、いたンすね」
鼻で笑う裏愛に、愛菜之は鉄のトングで今にも殺しにかかりそうな雰囲気を出していた。この二人は犬猿の仲って言葉をよーく表してるね、教材になりそう。
で、俺たちは生徒会役員として、海のゴミ拾いなんていう、愛は地球を救うテレビみたいな企画をしてる。夏の風物詩とか言われてるけど、俺はあの番組見ない。なんならオリンピックすら見てない。
「進み具合はどう?」
「ぼちぼち」
海パンにパーカーを着た有人が、片手に缶コーラを持ちながらそう聞いてきた。
ぼちぼちもなにも、めちゃくちゃ荒れてるってわけじゃないからなぁ。やることないってわけでもなく、せっせとやらなきゃってわけでもなく。
「昼は海の家の焼きそばでも食べよう。経費で落ちるよ」
「ちゃっかりしてんな……」
「このコーラも経費だからね」
そういって、ポイっと俺にコーラを投げてきた。炭酸飲料を手投げしてくるなんて、コイツは常識とかないのかしら。
「早く飲まないとぬるくなるよ?」
「絶対に爆発するだろ……」
「しないしない。開けてみなよ」
疑心暗鬼になりながらも、コーラのプルタブを開けてみた。案の定、コーラは泡をブクブクと立てながら派手に散っていく。
腕や腹にまでかかってしまい、さすがに殺意が湧いてしまいました〜! 殺すぞ〜!
「覚えとけよ」
「そうならないわけないでしょ。晴我はおバカだねぇ」
「お前も同じ目に……」
コーラを思いっきりぶっかけてやろうと構えると、愛菜之が俺の目の前にスッと現れる。危うく愛菜之にコーラをぶっかけてしまうとこだった。
どっちかっていうと、愛菜之とは水の掛け合いしながらキャッキャッしたいんですが。
そんな愛菜之は、なぜかご機嫌な様子で俺の腕を掴んでいた。
「舐め取ってあげるね」
「なんて?」
「舐めるね」
「余儀なし?」
愛菜之はチロチロと舌で俺の腕を舐めていく。周りの視線ガーッ! とかそんなこと言ってる暇もなかった。まぁ、どっちかっていうと裏愛の視線が痛い。
「……最低っすね」
「愛菜之がしたいって言ったから……」
「どっちも最低っすね」
愛菜之は最低じゃないもん! 最高だもん! あと愛菜之は舐めるのやめて! 悶々としちゃうもん!
有人は有人とで無反応なのはなんでなんだ。コイツもコイツでおかしいな?
「ほら、休憩は終わり。ゴミ拾いに戻らなきゃ」
「目の前におっきなゴミが」
「さっさと戻りなよ」
ヒラヒラと手を振って、有人は海の家に帰っていった。ちょっと冗談じゃーん! とかも言わせてくんないのね。親友として悲ちい……俺たちっていつから、こうなったんだろうな……。
「次はお腹の方を……」
愛菜之が腹に手を伸ばしてきたが、腹についていた茶色の水滴をペシっと払う。愛菜之が残念そうな顔して、裏愛は相変わらず軽蔑の表情をしていた。
「……先、戻ります」
「はいよ……」
しょぼん愛菜之を抱きしめてあやしていると、裏愛が侮蔑の表情に進化していた。仲直り……っていうか、前みたいな関係に戻れているのかしら? 前から俺が罵倒される側なの、悲しいね。
「晴我くん味コーラ……」
コーラのベタつきのせいなのか、汗のベタつきなのか。
爽やかな夏とは程遠い、ちょっぴり湿度高め。
そんな俺たちの生徒会サマーワークが始まった。
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