第21話

「……」

 人がどんどん流れていく。男子、女子、女の子、男の子、たまに大人の人、たまに小さな子。

 たまに、仲の良さそうな男女。


 私もきっと、そうやって歩いてるはずだった。でも、晴我くんのお友達からのお願いなら、聞かないわけにはいかない。晴我くんのお友達からの心象が悪いと、晴我くんに迷惑をかけちゃう。

 とはいっても、私を差し置いてあの女が晴我くんと一緒なのはどうしてもムカムカする。私の晴我くんが汚されていくなんて、許せない。

「あの子、良くね?」

「やばっ、声かけてこいよ」

 そんな下卑た、醜い声が聞こえてくる。大学生に上がったばかり……そんな見た目の男が、集団で歩いてる。気が大きくなったら、声も大きくなるのかな。

 私は、私の容姿が他の人よりも優れてるのを知ってる。

 だって、晴我くんが好きだって言ってくれたから。晴我くんが醜いと言えば、私の容姿は醜い。晴我くんが綺麗と言えば、私は綺麗。

 周りの人が、私を綺麗だのなんだの言ったってなんとも思えない。どうでもよくて分からない。

「あ、すんませーん。自分参加します」

「……はい。お名前と住所、告白する内容を……」

「内容は、君に告白することって言ったらどうする?」

 ……誰? この人。なんでこんなに自信満々で、こんなこと言えるの?

「彼氏がいます」

「マジ? でもさでもさ、彼氏ってたぶん同い年とかでしょ? そんなガキより、大人の俺と付き合ったほうが……」

 ついこの間まで高校生とかだったんだろうけど、なんでそんなこと言えるんだろう。大学生になったら大人になるわけでもないのに、頭がおかしいのかな?

「結婚の約束もしてるので」

「ケッコン!? やば、マジおもろいんだけど!」

 バカにしたような笑い、これで何回目かな。あの女も笑ってたな。他の有象無象どもも笑ってた。私たち、ほんとに結婚を誓い合ってるのにね。

「参加するんですか、しないんですか」

「あー、いいよいいよ。君にちょっかいかけただけだから」

「……」

 気持ち悪い……はやく晴我くんに会いたい。本当に運がないや。まぁ、晴我くんに会うために人生の運を全部使っちゃったから、しょうがないかな。

「お前引かれてんじゃん」

「うわツラー、じゃあね。気が変わったら声かけてー」

 私の無言が辛くなったのか、慣れないことをしてスタミナ切れなのか知らないけど、ようやく帰ってくれた。晴我くんにあったら、いっぱい消毒してもらわなきゃ。

「はぁ……」

 ため息が喧騒にかき消される。ガヤガヤと騒がしい有象無象の声。仕事だから仕方ないけど、やっぱり去年みたいに、晴我くんと二人きりで楽しみたかった。

 今頃は晴我くん、どうしてるかな。あの女に変なこと、されてないよね。

 晴我くんに会ってから、毎日が幸せ。最近は同棲まで始めて、幸せがどんどん溜まっていく。

 でも、どんどん抜け落ちていく。あの女のせいで、晴我くんとの時間が削れていっているから。

 私、やっぱり晴我くんがいないとダメだなぁ。晴我くんが隣にいないと息が詰まる。晴我くんを感じれないと、世界がモノクロになる。

 私は晴我くんがなによりも大事で、誰よりも必要としてる。それなのに、こうして離れ離れになって。


 もしも、もしも晴我くんが私を必要としていなかったら。


 あの女が来てから、毎日そんなことを考えてる。その度に晴我くんを求めて、感じて、安心していた。

 けれど今、晴我くんはあの女と二人きり。晴我くんは、どうしてるんだろう。苦しんでるのかな、辛いのかな。

 それとも、楽しんでるのかな?

 私を必要としてくれていないなら、私は。私はどうすればいいんだろう。

 私は晴我くんに必要とされて、初めて価値のある人間なのに。



 晴我くん、私のこと。



 求めてくれてる、よね?

 

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