第19話
整理しよう。
俺は監禁された。家まで用意されて、自宅も改造されて監禁された。
学校に連絡は一応しておこうと思ったが、なぜか電話が繋がらなかった。これも愛菜之のしわざなのだろうか。
外に助けを求めることもできない、窓や扉は愛菜之じゃないと開けられない。俺は一生、外の世界を拝めない。
こんな時にロケットランチャーをぶっ放してくれるヤクザのおじさんがいてくれれば……。とか言ってる場合じゃないんだよ。
ここまで本格的な監禁は初めてだ。確かに旅館や愛菜之家で、手錠をされて自由を奪われるくらいのことはあった。その時はどうにか解放してもらえたから良かったが。
手錠がないだけマシか……トイレも好きな時にいけるし、手伝ってもらわないといけないわけじゃない。それだけで幾分、心が救われる。あれ、結構メンタルにくるからな。
「晴我くーん」
打開策を考えていると、愛菜之が部屋に入ってきた。ぽわぽわな雰囲気の愛菜之は、すぽっと俺のベッドに入ってくる。
「ノックしてな?」
「なんで?」
「俺が一人でシてたらどうすんの?」
「お手伝いするよ?」
冗談っていうか、忠告のつもりで言ったんだが。マジレスは勘弁、あと手伝わなくていい……手伝わなくていい! うそです! ほんとは手伝ってほしい!
「それは置いといて、俺はもう外に出れないのか?」
「出る必要ないでしょ?」
確かにそうだけどね! 俺は友達が多いわけじゃないし、外で遊ぶことは滅多にない。
買い物は通販で済むだろうし、なんなら愛菜之が必需品を買い揃えている。
しかし愛菜之と買い物したり、外でデートしたりしたい。お家デートもいいが、やっぱり外デートでしか味わえないものがある。
「外デートとかできないじゃん」
「……そんなに外に出たいの?」
俺はどっちかっていうとインドアだが、アウトドア全面禁止っていうのもそれはそれでキツい。
「外に出たいんじゃなくて、愛菜之と外デートがしたいだけなんだよ」
「そ、そうなの? えへへ……」
照れているのか、自分の髪の毛で顔を隠す。サラサラヘアーを俺は撫でながら、お願いしてみる。
「だから外に出してくれよ、な?」
「む〜……」
悩んでいる愛菜之のおでこにキスをする。くすぐったそうにしている愛菜之を抱きしめて、もう一度キスをした。
「……キスしてくれても、ダメなものはダメなの」
このままいけば許してくれると思ったが、意外にも強情だった。愛菜之は俺の胸に顔を擦りつけ、俺を見つめた。
「私以外、いらないんでしょ?」
「それはそうだけど」
「私だけがいる世界はやだ?」
「最高だな」
実際、俺にとって大切なのは愛菜之だけだ。俺が外に出たいのも、愛菜之と外でデートしたり、色んなところに行きたいだけだ。学校に行くのだって、色んなことを勉強して、愛菜之の隣にいて恥ずかしくない人でありたいからだ。
「愛菜之さえいればなんでもいい。愛菜之以外いらない。俺は愛菜之が大好きだよ」
愛菜之が俺をじっと見つめる。くりくりした大きい瞳。緩んでいるのが隠しきれてない口元。
俺の思いを伝えれば伝えるほど、こんなに嬉しそうな顔をしてくれる彼女が大好きだ。この子と一緒にいられるなら、なんでもいいと思っていることは本心だ。
「だからさ、俺は愛菜之以外に興味ない。外に出たって、愛菜之以外眼中にも入らないよ」
「……私、以外」
反芻して、言葉を飲み込んだのか。愛菜之はぎゅっと俺を抱きしめて、俺を見上げた。
「私以外は、いらないもんね」
愛菜之は嬉しそうに、黒い思いを込めてそう言った。
無事に解放(?)されたが、学校は休むことにした。今さら行ったところで面倒だし、周りから変な詮索を受けるのも面倒だ。俺は学校にはちゃんと行くいい子ちゃんだが、学校が好きな真面目ちゃんではないんだ。
「えへ、ふへへ、ふへぇ〜……」
蕩けきった愛菜之が、俺の膝の上でおさまっている。ぎゅむっと俺を抱きしめているので胸が押しつけられているのだが、この体勢にも慣れてきた……と、思っていたのだが、愛菜之がからかうように体を擦り付けてくる。おかげさまで、今も理性が潰れそうになっている。
「すきぃ〜……」
「俺もだよ」
ほのぼのとした雰囲気、好きな人との最高な時間。とはいえ、理性がもう保たない。そろそろ離れてもらわないと……。
そんな時、ちょうどよくポケットに入れていたスマホが震えた。どこのどなたかは知らんが、ありがたく利用させてもらうぜ!
「ごめん、愛菜之」
「あっ……」
なんでそんな悲しそうな顔と声を出すかね。心が引きちぎられそうになるからやめて欲しい。
捨てられた子犬みたいな顔をしている愛菜之を尻目に、電話をかけてきた相手も見ないでサッと応答した。
「もしもし……」
『あ、先輩。なに休ンでンすか、サボりすか?』
……まずい、と反射的に思ってしまったが、そういえば許可が出たんでした。それに愛菜之には、いっぱい愛情を伝えておいたんだ。
これくらいなら怒ったりは……。
そう思っていると、ピッ、と機械的な音が聞こえてきた。
恐る恐る振り返ってみると、愛菜之が笑顔でスマホを操作していた。
途端に、ドアや窓からガチャガチャと機械的な音が聞こえてきた。
『せンぱーい、もしもしー?』
「……私、良いって言ったよ? お話、続けて?」
「い、いえいえいえ……」
『は? 家? サボり認めるんすか?』
「き、切るぞ! 後でな!」
通話終了のボタンを押して、スマホをポケットに突っ込んだ。
愛菜之は首を傾げ、俺に尋ねてくる。
「もうお話、良かったの?」
「い、いいいいいんだ。愛菜之と話したいから……」
「えへへ、そっか」
……後輩と話してもいいって条件は、あってないようなものだった。
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