第37話

「だぁ〜っ……」

頭を抱える俺を見て可笑しそうにくっくっと喉を鳴らして笑う有人と、ガハハ、と豪快に笑う表。

俺たち三人は放課後、生徒会室で作業をしているのだが、俺だけはどうにも作業に身が入らない。

「さっきから悩みすぎじゃないか? 周りから見ても、愛菜之さんはお前にべったりなんだからよ」

「そうだね、表くんの言う通りだ」

二人とも、テキパキ作業をこなしながら俺にそう言ってくるが、俺は気が気じゃない。

「愛菜之が告白されるとは……いや、まぁあんな可愛ければ告白の一つや二つ受けるだろうけど……」

「あ? 惚気か?」

からかうようにそう言ってきた表を睨み、プリントを手に持つ。

プリントを五枚順番にまとめてホッチキスで端をとめる作業なのだが、二人は既にいくらか終わらせていて、俺の分はまだまだ残っている。

さっきから頭を抱え、悩んでいるからだ。

彼女が告白を受けた、という悩みに、二人は心配することはないと笑っている。

「なんでそんな心配するなとか言えるんだよ? こっちゃ、不安でたまんないんだぞぉ?」

仕方なくプリントをまとめる作業を始める。ため息が漏れたが、それさえも無意識だった。

ちなみに愛菜之は今、猿寺の家でなにか話をするのだとかで、俺の隣にいない。

いつも隣に居ることが当たり前だったので、隣に誰かいないだけでこんなに寂しいものなのか、と驚いていたりする。

「心配も不安もする必要ないだろ? そもそも二人とも恋人なんだ。それも彼女は彼氏にゾッコン。理由並べてみりゃんな心配する必要、全くないって分かるぜ」

「いやでも、その告白してきた男がもっといい男かもしんないだろ?」

「それを言ったらキリがないと思うけどね」

まぁ確かに、キリがないだろうけど。少しぐらい否定してくれてもいいと思うよ……?

だって不安なもんは不安なんだもん。

「それに、愛菜之さんのこと信用してるなら、不安になることもないと思うけどね。晴我は愛菜之さんのこと、信用してないのかな?」

「い、いや! 信用してる!」

慌ててそう言い、否定する。

信用してる、信じている。……つもりだ。

そもそも、俺は散々愛菜之に俺を信用してくれと言ってきた。

なのに、俺が信用しないなんて、ふざけるのも大概にしろって話だよ。

「……よし! もう不安もなにもない! 作業に集中する!」

「僕たち、もう終わりそうだけどね」

「言ってやるな有人。ほら、半分貸せい。俺たちが手伝ってやるからよ」

そう言って二人が俺の隣にある書類を分けた。

ありがたい、二人には感謝だ。

「おっしゃ! ありがとな有人! 表! やるぞぉぉぉ!」




「全然進んでないね」

「おいおい」

いや、でもやっぱり不安なんです。

おかしいなぁ……俺はこんなにあれこれ心配したり異常に不安を感じたりはしない質なんだが……。

「そんなに心配なら、いっそその告白してきた男に愛菜之さんに手を出すなって言えばいいじゃないか」

有人にそう言われるが、そんな度胸俺にはない。

「いやぁ……な? その男が、俺より良いやつで、かっこよくて……まぁ実際、顔立ちもアイツのほうが良いし、俺は成績も平均並みだし、スポーツもどうにか人並みにできるぐらいだから……つかそもそも、なんで俺なんかを好きになったんだ愛菜之は」

「そんな卑屈になるなよな。仮にその通りだとしても、それでも愛菜之さんはお前のことを選んでくれたんだ。信じてやらなきゃ漢じゃないぜ」

漢と書いて漢な、といらぬ注釈を入れて白い歯を剥き出しにして笑う。様になっている。

「三日耐えなきゃならないのかこの苦しみにぃ……ふざけてやがらぁ……」

愛菜之はどうやら、告白を即断ったようだ。

が、その告白してきた男は

『三日! 三日だけ! 考えてもらえない!?』

そう言ってきたらしい。

だから俺は、この三日間愛菜之の気が変わらないか冷や冷やしないといけないわけだ。

「ほらさっさと仕事。帰れないよ?」

「うぁぁ! もうわかったよ! やりますから!」

有人にそう言われ、ヤケになりながらプリントを手に取る。

はぁ……。さっさと帰って、寝よ……。


「そういや今日はあの日だったな」

「ん? あの日?」

表がプリントを重ねながら思い出したようにそう言い、有人が聞く。

「ああ、今日は───」

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