第5話 五日目


『奥様。ではお使いへと行ってきます』

「ええ、行ってらっしゃい」


 いつも通り、奥様の述べたリストを記憶保存し、通貨を受け取った後、家を出ます。


「またか。どうしていつもお金を渡す? 断ればいいじゃないか」

「それもそうなんだけど、何だか怖いじゃない。機械が予測しない動きするの」


 ◇


『メーカーさん……? あれ?』


 買い物を終え、いつもの珈琲店へ足を運んだ時でした。所定の位置にメーカーさんの姿が無かったのです。徐に店内を見渡しますが、メーカーさんの姿は何処にも見当たりませんでした。一体、どこへ行ったのでしょうか。


『ああ、ロボットさん。いらっしゃい』

『レジスターさん。あの、メーカーさんはどちらに?』


 思ったより、思考回路にノイズが生じているようです。いつもの珈琲豆をレジへと運び、私はレジスターさんへ訪ねてみることにしました。


『メーカーさんは……たぶん、天国の島だろうね』

『天国の島……? はて、それはどちらに?』

『知らないのか。俺たち機械が行き着く先さ』

『と言うと、廃棄場と言ったところでしょうか。昨日のメーカーさんを見るに、致命的な故障は見られませんでしたが……?』


 ジリジリと、焼き付く様な熱伝導。ノイズは激しさを増して行き、まるで、打撃物で頭部を打ち付けられたような感覚とでも言いましょうか。しかし、身体的外傷はおろか、構成プログラムにも異変は見つかりません。


 何故でしょう。何故でしょう。何故でしょう。何故でしょう。何故でしょう。


『メーカーさんは、感情が芽生えちまったんだ。お前も気を付けた方がいい』


 感……情? 内装辞書に検索を掛けても、どれも的を得ず、抽象的な表現ばかり。感情。喜怒哀楽。悲しみ。悲しみ。哀れみ。憎しみ。恨み。怒り。怒り。怒り。怒り。


「お、おい、あのロボット見ろよ。ヤバいんじゃないか? 煙が出てるぞ!」

「だ、誰か警備ロボットを呼んでくれ!」


 何度も計算思考機能にアクセスを試みました。ですが、何の答えもはじき出す事が出来ませんでした。私は、超高機能型人工知能を搭載した、SQR1182型。B35。のはずです。何故でしょう。何の不調も無いはずです。可動部分良好。


『家事サポート型ロボット。SQR1182型。止まりなさい』

『私は、私は何なんだ! このバグは一体、なんなんだ!』

『強制シャットダウン誘発型ジャミングプログラムを始動します。制止しなさい』


『私は、私は――――――――』


『――――警告を無視。ロボット法に従い強制執行いたします。危ないので、離れてください。危ないので、離れてください』


 その記憶回路を最後に、私の視界モニターは黒一色に包まれて行った。


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