一息しようか

 木ノ重商店街このえしょうてんがいにある唯一のレトロな喫茶店の「アラン・ポー」に向かっていた。アズサはドアを開ける。

「お? アズサでないか? 珍しく連れがいるの」

 カウンターキッチンの上でマスターがコーヒー豆を引いていたようだ。

「あぁマスター。いつものブラックコーヒーとダージリンティーちょうだい」

「わかったよ。今入れるから待っててくれ」

 アズサはそのまま窓側の席に向かい反対側にレノフィを座らせた。落ち込んでいたので道中は話せなかった。

「レノフィ……大丈夫か?」

「……大丈夫でないですぅ」

 まだ落ち込み気味だった。彼女がいた世界が崩壊したことを考えると、信じるのは難しかった。

「なぁ……あの依頼受けることを考えてるが……レノフィはどうするんだい?」

 レノフィはアズサを少し見て目を逸らした。

「相棒として……やるしかないのでしょうか……ただ私……」

 少し細い声で自信の無さが表れていた。

「ただ?」

 レノフィはその言葉に迷いもありつつ錯乱しているため上手く意思がまとまってない感じだった。

「……私のようにほかの世界も消えてるのでしょうか……? それがどうしても」

「……」

 消えているか……。

 もしそうなら自分たちの世界も同じことが起きるのではないかと不安がよぎってしまった。

「そうか……消えちゃったから帰る場所がないか……」

 アズサは頭に手を後ろに当ててそう言うとレノフィは黙ったまま頷いた。

「……こう言うのもあれだけど……オレのとこに居なよ」

「え……? でも」

 レノフィはそれを聞いて驚いていた。居候いそうろう? という感じもあったのか遠慮をしていたようだ。

「別に構わない。帰る場所ないのに遠慮する理由はないよ。それに人手欲しかったんだ……だからいいよ」

「うん……ありがとう」

 レノフィは少し笑顔になり安心をしたようだ。そしてマスターが静かにコーヒーと紅茶を置いて行きそのまま去って行く。

 ちなみにアズサの心の中では……

『おっしゃぁぁぁぁ!金髪の巨乳の子だぞ!ある意味が卒業の道が近づいたぜ!』

 机の下でグッを拳を握っていた。

 随分と心が汚れきったモノが溢れてたようだ。あー参った参った……

「あの〜どうしましたか?」

「いや! なんでも!」

 ニコニコしながら誤魔化した。

 レノフィはアズサの顔を不思議そうに伺った。キョトンとしていたがあまり気にしてなかったようだ。

『はぁ……でも変なことは考えてしまったけど1人にはさせたくないな……』

 少し苦い思いを思い出したが、なるべく同じ思いはさせたくはなかった。ただ家族がいなくなった日がどうしても嫌だった。

「と、とりあえず依頼……やりますか?」

 アズサは手を組んで、改めて悩む。

「んー……やるよ。レノフィは?」

「もちろんやります!何もしないよりはいいです!」

 心を切り替えたようにパタパタと両腕を振っていた。やけクソとは違うが断る理由がない印象だった。

「そっか……」

 コーヒーをすすり、少し笑みを浮かべた。するとグゥゥと鳴り響いた。それはレノフィのお腹が鳴ったようだ。

「あ、いやぁぅ……その」

 人差し指をイジイジと合わせながら照れていた。余程お腹すいてたのだろう。

「お腹空いたよな。だからここにしたんだよね……マスター!オムライスを2つちょうだい!」

「はいよ。少し待ってろよ」

 マスターが注文を受けてすぐに調理に取り掛かった。

 そしてアズサはレノフィのことを知りたかったので質問をしてみる。

「なぁレノフィ。仕事仲間ということもあるから色々と話さないか?」

「は、はい。あ、ちなみになぜ依頼を受けたのですか?」

「ん?依頼受けた理由か?……ちょうどねいくつか捜索依頼があって。もしかして何かしら繋がるかなと思ったのよ」

 捜索依頼は今のところだと10件以上。その中には3年も行方をくらませている人もいた

「そうだったんですね……」

 深く聞いてくる感じはなかった。レノフィも探偵としての深入りをしない所はちゃんと分かっているようだ。

「とりあえず関係あるなら受けておこうかなと思ってたんだ」

 そう話してるうちにマスターが料理を持って来た。

「お待ちどうさま。オムライスだぞ」

 オムライスがテーブルに置かれると、半熟なたまごがプルっと震えていた。そしてデミグラスソースが甘くてほろ苦い香りが食欲にそそる。また色のアクセントのパセリと生クリームが豪華に見えてくる。

「わぁぁぁ」

 レノフィは目がキラキラしていた。

 お腹が減っていたのかヨダレを垂らしており、恐る恐るスプーンで突っついていた。

「冷めてしまうぞ? あったかいうちにお食べ」

 と言ってマスターは笑みをこぼした。

 レノフィはスプーンでオムライスをすくい「ふぅふぅ」と冷まして、口に入れて頬張る。

「お、おいしぃぃ!」

 頬っぺが溶けそうな感じに頬に手を当てて、オムライスの味を堪能していた。

 とてもお気に召したのでアズサは安心をした。

「食べ終わったらあの女神に報告しよう。って」

 レノフィの口に食べカスを着いたたまま。

「はい!」

 2人はそう決心し、できたてのオムライスを食べた。

 そしてこの意思がまさかの事態になるとは思ってもいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る