第4話 とびっきりのガールズトーク

「それで?昨日のお昼休み、一体全体どんなことがあったのかな~浅野??」

「あさちゃん、お姉さん達に教えて??悪いようにはせんからね〜」

「は、はわわ…」


 怖い。怖すぎです。まいやん、ユキっち。







 放課後、駅前にある有名ファストフード店は、帰宅部の学生で賑わっている。もう少し遅くなると、今度は運動部の学生が夕食前の腹ごしらえにやって来るのだが、その時間にはまだまだ余裕があった。

 そんな賑わう店内で、ガールズトークという名の事情聴取を受けている人物は、どこを探しても二葉ふたばしかいないだろう。だって、ほかの席の女の子たちの周りには花がちゃんと咲いているもの!!ここはなんていうか、食虫植物二体とその巣窟に迷い込んでしまった哀れな羽虫一匹しかいない気がする。下手に動いたら絡みつかれてあることないこと根掘り葉掘り言わされてしまいそうだ。そりゃあ、あの場で嘘の約束をでっち上げたのは私なんだけどね!?

 

「え、えとですね。私とっては衝撃的すぎて未だになにがなんだか…なんだけど。えーと、えーと」

「寺岡くんに告白でもされたん?」

「ヒョエッ!?」


羽虫はついに絡め取られてしまったようだ。二葉の心を読んだかのようなまいの発言に思わず変な声が出る。


「うっそ当たり!?そっかあ、ついに漢魅せたなぁ、てらやん」

「テラヤン??」

「あーそっち!?やっぱ王道行ったかー!いやでもまだ優等生くんルートも存在はするよね?ドキサバの三角関係みたいな?いやでも割り込みルートからの勝利の方が私は好みなんだけど!」

「サン…ワリ…??」

「でも浅野は3次元だしね、人の恋愛にどうこう言うのなんて失礼だし。全然応援するよ!あっ、でもなるべく詳細を教えてくれると斉藤的には美味しいな!?」


友紀ゆきに至ってはもう何を言っているのかさえ分からない。

 

 悩みの種をあっさりと言い当てられ、しかもあっという間にその話題で盛り上がる二人に二葉はついていけず、ただただ固まるばかりだ。ガールズトークがこんなにも恐ろしいものだったとは。でも恋愛経験豊富(?) そうなこの二人なら、きっと二葉に正解をもたらしてくれるかもしれない。二葉は唾を飲むと覚悟を決める。

 

「ゆきちゃんがっつきすぎ…でも、初めての告白って、やっぱ超ドキドキするよねぇ。青春って感じじゃん?ね、どんな風に告白されたん??」

「あ、えと……好きなんだ二葉、って…」 

「ど直球ー!!ストライクバッターアウツッ!!(??)マジもんの王道展開じゃん興奮してきた」

「てらやんめちゃ男らしいじゃん!え、状況は?やっぱ真正面から??」

「さ、最初はだ、だだ抱きしめられて、肩越しっていうか…!」

「ええいあのヘタレわんこが!いやでもよくやった!!褒めて遣わす!!(??)」

「ゆ、ユキっちキャラ変わってない?あ、あと、幼馴染としてじゃなくて男として見てほしいって…前からずっと、す、好きだったって、一、真っ赤だったけど、真っ直ぐこっち見てきて……っ!!も、もう無理ぃ!」

 

 話していくうちに、あの泣き出しそうで、しかし覚悟を決めたような一の表情をまざまざと思い起こし茹でダコになって自滅する二葉。その余波を盛大に浴びた二人はそれぞれに黄色い声を出した。いや、片方はCV内〇賢二だったかもしれないが。

 

「やーんもう青春!!お姉さんもつられてドキドキしちゃう!あたしもそんな、甘酸っぱい恋がしたーい!!」 

「…我が生涯に一片の悔い無し!!」

「ゆ、ユキっち!?し、しなないで…!」

「あさちゃん。ゆきちゃんは、愛を持つものに倒されることを、そして、この荒野に再び温かい光が降り注ぐことを、きっと願っていたんよ…」

「まいやんまで…!?」

 

なんだかよく分からないが、友紀が幸せそうに眠っているのでしばらくそのままにしておくことにした。 

 

「で、あさちゃんはてらやんになんて応えてあげたん?」

「あう、それが…返事はいつでもいいからって」

「そっかぁ、返事はまだしてない感じかあ。それはやっぱり、三人で仲良くお昼ご飯食べれんくなるって怖がってるん?」

「……うん」

 

 舞にずっと考えていたことを言われ、二葉は全てを打ち明ける。

 

「…一がずっと、私に好きって感情を持ってたのも知らなかったし。そりゃあ、腐れ縁とはいえ一緒にいて楽しいし幸せだけど、でも、それはやっぱり、三人でいるからこそっていうか…」


 今の自分の気持ちを確かめるように、整理するように二葉はゆっくりと言葉を紡いでいく。

 

「あの時、一に告白されてすごくドキドキしたの。でもあたしのこの気持ちが、本当に好きって気持ちかって言われると分かんなくて。中途半端な気持ちで、一と、つ、付き合うのは一に失礼だし。でも、断っちゃったら今までの仲良し幼馴染三人組ではいられなくなっちゃうような気がして…」

「…そうだね。てらやんは、それを壊してでも、あさちゃんを手に入れたくなっちゃったんだもんなあ」

「だって、そしたら」

「私たちも、いつまでも子供のままじゃいられないってことだよ。皆いつか、必ず好きな人が出来て、その人と友達じゃなくて恋人同士になりたいって考えるようになるんよ。たまたまてらやんは好きな人が身近にいて、あさちゃんにただ好きって言いたくなっちゃっただけ。それは、分かる?」

「…分かる、ます」

「ふふっ、あさちゃん拗ねんといて。だから、あさちゃんはその思いをなるべく真摯に受け止めて、何かしらの答えを出してあげないといけないんよ。ゆっくりでもいいけど、中途半端な答えを出して両方、いや三人?傷ついちゃうのは見たくないなぁ、あたしたち」

「まいやん…」

「あっ、まいまい、浅野を泣かせたな?みんなのヒロイン浅野二葉を泣かせていいのは……誰もいなかったわ!とりあえずここの食事代奢るの刑を言い渡す!」

「悔いなく倒されたんじゃなかったんかい!」

「ふふん、斉藤は二人の友情パワーで復活したのだ☆マックスハーツッ!」

「はいはい、まあいいけどね。あさちゃんの恋愛話が聞けたし?これも青春だよねぇ」


 時々(結構)、二葉にはわからない用語を使って会話を繰り広げて置いていかれることがあったりするが、二葉を友達だと認めて大切にしてくれる二人。そんな二人が友達でいてくれて良かったと、二葉は強く実感する。


「…二人ともありがと。大好き」

「はいデレ頂きましたぁ!私も大好きだよ浅野〜あ、さっきの大好きボイス録音したいからもっかいオナシャス!!」

「ゆきちゃん珍しく照れてんねぇ。あたしも二人のことが大好きだよぉ」

「わ、ちょっと二人とも…!」

 

 テンションが上がったのか二人が席を立ち上がり、両側から抱きしめられる二葉。

 一の気持ちにどう応えればいいのか。その答えはまだ分からないが、もう既に何かが変わり始めているとしても、誰も傷つかない正解を導き出せればいいなと二葉は願うのだった。それはただの高校生である自分には過ぎた願いだとしても、出来るだけの努力をすることは可能だと、彼女は思うのだ。だって今までもそうやって皆が笑って過ごす毎日を送ってきた。小さな衝突はあれど、それぞれが努力して再び幸せな毎日にしてきたのだ。

 だからきっと、真正面から受け止め、悩みに悩んで後悔しない答えを導き出せれば、願いは叶えられるだろうと、二葉は考え、いまだ抱きしめてくる二人からの熱を享受した。

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