第3話 放課後だョ!全員集合
翌日。5時限目も終わり、割り当てられた昇降口の掃き掃除が終われば放課後という時間。昨日の出来事からたっぷり24時間以上経ったというのに、
(…知らなかった。
「何が知らなかったんだ?二葉」
「わわわっ!!ごっ、ごめんなさい!!違くて!いや違くないんだけど!えっとえっと〜!?」
まるで考え事を読まれたかのような発言に、二葉はとっさに持っていた箒を構えて誤魔化そうと試みる。声をかけたのは誰だか知らないが、とてもじゃないが見れない。
「はは、ごめんって、二葉。お疲れって声掛けたのに反応しないしさ、なんかブツブツ呟いてたからどうしたもんかと思って」
「な、なんだ、
裕人だけなら何とか誤魔化せそうだと安堵しながら振り返ったその視線の先には、
「ひぇっ!?」
今は出来れば顔を合わせたくなかった、一がいた。
「…いちゃ悪いか?」
「あ、え、いや、そういうわけじゃないんだけど…」
『好き、なんだ、二葉』
昨日一に言われた言葉を思い出して、二葉は顔が熱くなるのを感じる。目の前の一は、昨日の出来事など忘れてしまったかのように平然としている。昨日のことなど無かったことにしたいのだろうか。それならば、自分だけが意識してこんなに頭を悩ませているなんて、馬鹿みたいじゃないか。
「……」
「…二葉、もしかして体調悪いんじゃないか?熱は…」
「ふあっ!?」
「なっ!?」
もやもやとする気持ちを膨らませていると、裕人が、二葉の前髪をかき分け、自らのおでこを寄せてきた。裕人の整った顔立ちを至近距離で拝むのなんていつぶりだろうか。女子顔負けの長い睫毛や薄い唇。太めの眉は男らしさを主張していて、しかもなんだかいい匂いもするような気がする。まるでどこかの親友のように裕人の顔立ちの良さを説明してしまうのも、昨日の出来事が影響している。というかそろそろキャパオーバーだ。
「ひ、ひろと…もう、だいじょぶ、だから…!」
「大丈夫じゃないだろ、自分じゃ分からなくなってんだろうけど、凄い熱だぞ。ほら、保健室行くから」
「あ、いや、なんていうかこれは…」
熱がどうのこうの言っているが、傍から見ると箒を奪い合うような形になってしまっている攻防戦。力では裕人に完敗だと分かりきっている二葉は、一に救難信号を送るが、
「…あ、俺、二葉の荷物取ってくる」
「ああっ!バカはじめ!!」
何故か目を逸らされ二葉の教室へ向かってしまった。もはやこれまでかと諦めかけたその時、第二の救援部隊が登場する。
「あれ?まだ掃除終わらんの、あさちゃん」
「むむ、そこにいるのはD組の三木君?先程バk…寺岡君とすれ違ったけど、何かあった感じですか?」
「まいやん!ユキっち!!」
二葉の親友の
「きょ、今日は吹部も休みだし、一緒に遊ぼうって約束してたのにごめんね、すぐ準備するから〜!!」
全くもってそんな話はしていない(部活が休みなのは本当だ)が、こちらとしては一刻も早くこの状況を打破したい。二人に必死にウインクを送りつつ、ついでに箒も奪取し掃除ロッカーへと向かう二葉。
「あの子ウインクへったくそだわぁ、両目ギュッてなっちゃってんし」
「そこが浅野の可愛いとこだよ、まいまい。不器用なドジっ子ヒロイン…浅野はしっかり基本を押さえたいいヒロインだと思うな」
何やら不名誉な発言が聞こえるが、意図は伝わったようだ。余計なことは喋らないように、二葉は後方支援に回った(掃除ロッカーの影から見守ることにした)。
「ええと、日向さんと斉藤さん?二葉、熱があるみたいなんだが、今日の二葉、もしかして朝から無理してたりとかしてなかったか?コイツ、隠し事は下手っていうか、出来ないヤツなんだが…」
「んー、別に体調不良では無いと思うんよ。知恵熱?みたいな感じ」
「そうそう、特効薬はガールズトークでしょうね。それもとびっきりの」
「三木くん部活あるんよね、あの子はうちらが責任持って面倒見るからそんな心配せんでも大丈夫」
「もし本当に体調悪かったら速攻帰宅させますし」
「そ、そうか?じゃあ、悪いけど二葉をよろしくな」
持つべきものは親友だ。二葉は心からそう思う。しかしなんだろう、この胸騒ぎは。
「ほらあさちゃんー、そんなとこに隠れてないで出て来なぁ?」
「そうだよ、浅野。いったい昨日のお昼に何があって今まで何について悩んでいたのか、詳しく聞かせてもらわないと、ねぇ?」
「ひえぇ…」
「おい二葉、荷物…」
「あ、バカわn…寺岡君。浅野の荷物ですね、預かります。彼女?ああ心配しないでください。ただ三人で仲良くガールズトークするだけですから。想像しただけで砂吐きそう」
「は!?いや、待って」
「待ちませぇん。ふふ、寺岡くんまで赤くなっちゃってまあまあまあ」
今更だが、本当にこの二人に協力を仰いで良かったのだろうか。二葉はウキウキニヤニヤ顔の二人に両側からがっちりホールドされ、学校を後にしたのだった。
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