緋彩、成人式 〜自覚〜
連絡先を交換してから母校の集合場所に行くと懐かしい顔ぶれがそこにはあった。
「懐かしいな、全然変わってない奴いるし」
そう言う綾瀬くんは楽しそうだ。綾瀬くんは友達が多いから誰とでも話せそうで勝手に少しだけ寂しくなる。
「ん?讃岐さん座らないの?」
「え」
声をかけられたと思うと目の前の椅子には綾瀬くんが座っていた。
「席自由みたいだしここ座ったら?」
「あ、はい......」
彼の隣の椅子がペシペシ叩かれていたので流れでその席に座る。座りながら私はバレないように隣を見た。
てっきりさっき見ていた面々の方に行くものだと思ってたのに、綾瀬くんは私の隣に座ってくれている。その事実に胸の奥がじんわりと温かくなった。
この人はどこまで優しいんだろう。
人の優しさに触れるのが久しぶりで戸惑ってしまう。
「お、始まるっぽい」
勝手に照れているとそれを知りもしない綾瀬くんがそう呟き前を見る。私もつられて前を向くと、成人式がいよいよ始まった。
成人式は話を聞くのがほとんど。一人一人の話が長いのもあって内容は半分くらいしか頭に入らなかった。
「疲れた......」
「ね、めっちゃ長かった」
終わった頃には私も綾瀬くんも疲れが出ていた。ただでさえ慣れない格好をしているのだから当たり前だと思う。
それなのに周りの同級生達はこれから二次会らしい。元気だなあと思いながら騒ぐ皆をぼんやり見ていた。
「綾瀬!二次会行くだろ?」
「あーうん、一応」
流石は人気者。やはり彼も誘われていた。
「けど先に行ってて、俺ちょっと遅れるから」
「おーわかった
...そっちの女子は?」
綾瀬くんに話しかけていた一人が私を見た。よくよく見れば彼は中三の時のクラスメイトだったが私だと言うことに気付いていないらしい。
「いや私は大丈夫、です」
いくら羽芽ちゃんがいるとはいえ浮きそうだしトラブルに巻き込まれたくない。
目を逸らしながら断った。
「そっか残念...じゃあ綾瀬、後でな」
「おう」
周りに座っていた同級生達が会場を後にしていく中綾瀬くんは席に座ったままだった。
「あの、何か用事でもあるの?」
「まあね」
「そうなんだ」
誰かから話したいから待っててって言われたのだろうか。
そう思いながら私も座っておく。羽芽ちゃんがこちらに迎えに来ると言ってくれたのでどうせなら綾瀬くんの隣で待っておくことにしたのだ。連絡先を交換したとはいえ滅多に会えないだろうから。
「緋彩!」
数分後羽芽ちゃんがこちらに駆け寄って来た。
「羽芽ちゃん!」
ようやく会うことが出来た友人を見て一気に安堵する。
「あー...綾瀬、ありがとね
緋彩の傍にいてくれて」
「どーいたしまして」
綾瀬くんはそう言うと立ち上がった。
「俺も用事終わったし行くわ
...讃岐さんまたね」
「う、うん!」
ひらひらと手を振りながら歩いて行く綾瀬くん。数秒も経たないうちにその姿は沢山の人で見えなくなった。
「そう言えば綾瀬くんの用事って何だったんだろ」
結局私と話してるだけだったような。
「だからあんたが無事にあたしと合流できるか見届けるのが用事だったんでしょ」
「えっ」
「...やっぱ気付いてなかったか〜」
苦笑いする羽芽ちゃん。
「嘘だ......」
「嘘じゃないって
...また好きになった?」
その言葉で今日の綾瀬くんを思い出す。
友達とはぐれてまでスマホを拾ってくれた綾瀬くん。見た目は変わっていたのにすぐに私だと気付いてくれて、この髪も似合ってると言ってくれた綾瀬くん。一緒にいてくれただけでも嬉しかったのに最後まで優しかった綾瀬くん。
彼のことを考えれば考えるほど顔に熱が集まる。
多分私は、
「...うん」
また、彼のことが好きになってしまったんだ。
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