第104話 イルミネーションへ

 俺は楓の策略によって病院に向かい、その途中に駅で祐奈と出会わされた。

 何故楓が俺と祐奈を無理矢理会わせたのか、俺は見当がついている。


「何はともあれ無事で良かったよ……」

「さっきからなにを言ってるんですか? 私は病気にもなって無いですしずっと健康体ですよ?」


 俺も最初は訳がわからなかったのだから、祐奈は俺よりも訳が分からないだろうな……。


「それより楓さんは? 何の用で呼ばれたのか全然分からないんですが……」

「楓なら来ないよ。ここに来るのは俺だけだ」


 祐奈は頭を抱え俺の発言に余計に混乱しているようだ。


 ただ、告白の返事を考えて暗くなっていた俺の気持ちは祐奈に会った瞬間不思議なほど一気に晴れた。


 楓と過ごしたクリスマスのが楽しくなかった訳では無い。寧ろ初めて過ごす女子とのクリスマス、興奮こそすれど楽しくないと思うわけがない。

 しかし、祐奈に会った瞬間俺の気持ちが晴れたのは事実。理屈では無いのだろう。


 よく考えたら楓が俺を祐奈に合わせたのは、本人の俺よりも先に俺の気持ちに気づいていたからなのかもしれない。

 決断力がなかった訳ではなく、最初から俺の心の中には楓がいなかったのかもしれない。

 だからといって俺の気持ちは治らない。祐奈が倒れたと嘘をつき、俺と祐奈を駅に向かわせた楓を俺は許せない。


「祐奈、ちょっとついてきてもらってもいいか?」

「はい。大丈夫ですけどどこに行くんですか?」

「ちょっとな」


 そして俺は祐奈と一緒に電車に乗った。


 俺の隣には祐奈が座っているが、今日はいつもの通学の時のようにBluetoothを繋ぐ訳では無い。


 通学の時は同じ車両に乗ってある程度の距離をとっているため裕奈と一緒に電車に乗るのは珍しい。


 窓の外を見れば普段とは違う雪の景色。さっきは鬱陶しく感じた雪も今はなぜか暖かく感じる。


 楓がまだイルミネーション会場にいるかどうかは分からないが、とにかく歩みを進めよう。


「まさかクリスマスに祐くんに会えるとは思ってませんでした。家族とのご飯を抜け出してきたのも楓さんに言われて駅に来たからなので」

「俺も祐奈に会えるなんて思ってなかったよ。さっきまでは楓と一緒にいた訳だしな」

「楓さん、どうしちゃったんでしょうか」


 楓がどうしたのかという質問に「どうしたんだろうな」とはぐらかしはしたが、楓が俺を祐奈に会わせたせた理由は分かっている。


 だからこそ楓に会いに行くのだ。


 ケジメをつけなければ俺はこの先に進めない。俺はようやく心を決めた。

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