第103話 雪

 祐奈が倒れたという情報を聞いて気が気ではないが、電車に乗っている間はなにをすることも出来ない。

 普段なら10分程度で到着するはずの道のりだが、その2倍、3倍の時間を要している気がした。


 結果的に今日告白の返事をする事は出来なかったが今回ばかりは仕方がないだろう。


 告白の返事をするよりも早く祐奈が運ばれた病院に行って状況を確認したい。


 焦る俺は目的の駅に到着する前に誰よりも先にドアの前に立つ。

 目的地に到着し、ドアが開いた瞬間電車を飛び出した。


 クリスマスを楽しんでいる人混みをかき分けて前に進もうとするが、分厚い人の壁に阻まれて中々前に進む事が出来ない。

 俺が病院に到着するまでの間だけこの人混みが何処かに行ってくれないだろうか。


 何が聖夜だ。祐奈が倒れるなんて聖夜どころか地獄の1日じゃないか。こんな事ならこの先、クリスマスだからといって気分を浮つかせるのはやめよう。


 それでも今日が聖夜だというならせめて、祐奈が無事でいさせてくれ。


 人混みを通り抜けた俺はやっとの思いで駅の外に出た。


 駅の外に出た途端、パラパラと白雪が降り出した。天気予報では雪が降るとは一言も言っていない。

 これが大切な人と過ごすクリスマスならどれだけ良いか。ムードにやられてどんな告白でも成功しそうだ。


 とにかく、病院までは駅から走れば5分もしないうちに到着する。


 今の俺には雪なんて関係ない。走らなければ。


 楓と一緒にイルミネーションを見ている時は肌寒さを感じていたが、必死に人混みをかき分けてきたおれは肌寒さを全く感じていない。


 よし、病院まで全力ダッシュだ。


「あれ、祐くん?」


 ん? 何か今聞き覚えのある声に名前を呼ばれたような……。


「あ、やっぱり祐くんだ。どうしたんですか? こんなところで。楓ちゃんと一緒にいたんじゃないんですか? 」


 ま、待ってくれ。なんで祐奈がここに? 祐奈は今病院に運ばれているはずじゃ……。


「どうしたのか聞きたいのは俺の方だ。倒れて病院に運ばれてるんじゃなかったのか?」

「私が倒れて病院に⁉︎ 何の話ですか? 私はピンピンしてますよ‼︎ ほら、ここにいます」


 祐奈は両手を広げ自分が元気である事を証明しながら体を傾け「なんのこと?」と疑問符を浮かべている。


「いや、おれは楓から……」

「楓ちゃんがどうかしましたか?」

「あ、いや、何でもない。祐奈は何でこんなところに? クリスマスは家族と一緒に過ごしてるんじゃなかったのか?」

「いや、楓ちゃんに用があるから駅の出口で待っててくれって言われて来たんですけど……」


 ……楓が? 俺も楓に言われて祐奈が運ばれているはずの病院に向かうところだった。


 楓が俺と祐奈が会うように仕組んだってことか……。


 その瞬間、俺は楓がなにを考えているのか、全てを察したのだった。

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