第3話 オタクな美少女
大人気声優のゆいにゃんが好きか、という質問に心底驚いた様子の楠木。自分がそんなもの好きなはずがないという驚きだろうか。
やっぱり俺の見当違いか。
「な、なんでそんな事きくんですか?」
楠木は首を傾げ弱々しく俺に質問する。一つ一つの仕草が全て女の子らしく胸の鼓動が早くなる。
おい待て、俺には日菜という愛する女性がいるじゃないか。堪えろ自分。
「最近俺のBluetoothイヤホンに流してないはずのゆいにゃんの曲が流れるんだよ」
「あ、それじゃあもしかして日菜ちゃんの曲聞いてたのって渋谷くんだったの⁉︎」
楠木は俺のiPhoneが楠木のイヤホンに接続していたまで認める発言をした後で、はっ⁉︎ やってしまった、と言わんばかりに口を両手で抑える楠木。確信犯だ。
まさか学校1の美少女である楠木がアニメオタクで声優好きだなんて誰が想像した? この事実を風磨に伝えたらどんな反応をするだろうか。
「はぁ……。もう隠しきれませんね。私、アニメが好きで、声優さんが大好きなんです。一人で声優さんライブとかも行っちゃうくらいで」
「ライブも行くのか⁉︎ いつもクラスの中心で陽キャグループにいるからそんなのには興味ないと思ってたよ」
楠木が1人で声優のライブに行くだって? 俺ですらまだ1人でライブに参戦したことはない。声優のライブに行くときはいつも風磨か楓と一緒だ。
「陽キャだなんてとんでもないです。むしろ私は元々地味で暗い女の子だったんです。何とか頑張って今の自分でいられますけど」
「そうか。それなら俺みたいな地味で根暗なやつと一緒にいるところを見られたら迷惑だろ。もう行くよ。それじゃあ」
そう伝えて楠木と別れる。こんなに可愛い女の子と話すのを手短に終えるのももったいないが。
駅から学校に向かう道を進もうとすると、服の袖を掴まれ歩みを止める。
振り向くと別れを告げたはずの楠木が俺の袖をつかんでいた。
「な、なんだ? 」
「あ、あの……」
言葉を止め俯いている楠木。身長差のおかげで見えるつむじになんとも言えない魅力を感じた。こう……ポンってしたくなるような感じだ。
「わ、私と……」
「ん? 」
「な、なんでもないです! というかなんで私のスマホが渋谷くんのイヤホンに繋がったんですかね? 」
「確かに、俺のイヤホンも楠木のイヤホンに繋がってたみたいだしな」
Bluetoothイヤホンは新しい機器と接続するときはペアリングという動作をしてからでないと接続されない。
それなのに俺と楠木のイヤホンが繫がったのは何故だ? 楠木のイヤホンをじっと見つめる。
ん? 楠木のイヤホン、どこかで見たことがあるような……
「あっ! 」
「どうしたんですか? 」
「そのイヤホン、俺のだ」
「な、なんですか、これは私のイヤホンですよ⁉︎ 」
訳もわからず困惑する楠木に、もしかしてと思い質問する。
「楠木、このイヤホン見たことないか? 」
「え? ……あ! それ私のイヤホン」
「うん。これは俺のイヤホンな」
さっき自分で否定しておきながら俺と全く同じ反応じゃないか。まあそういう反応になるのも分かるが。
「なんでそれ持ってるんですか? 」
「このイヤホン、中古屋で売ったんじゃないか? 」
「はい。売りました」
「その日は何も買わずに後日、新しいイヤホン買いに行ったんじゃないか?」
「そ、その通りです! なんで分かるんですか?超能力者ですか⁉︎」
「俺も同じだからだよ」
もう何が何だか理解不能といった様子の楠木。これは理解するのが難しいからなぁ。
「俺もイヤホン売ったんだよ。で、俺はその時新しいイヤホンを買った。それが楠木の売ったイヤホンだったってことだ。その後、俺が売ったイヤホンを買ったのが楠木って訳だ」
ああ! なるほど! と右の手をグーにして開いた左手をポンとたたく。
「そういうことですか。理解しました! 」
自分で言っていても信じられないような出来事だ。俺が売却したイヤホンを今は楠木が所持していて、俺が購入したイヤホンが元々楠木が所持していたイヤホンだなんて。
と言うか楠木が持っていたイヤホンを今俺が持っているってことは学校1の美少女が持っていたイヤホンを俺が持っているということか。
こんな話学校の誰かに知られたら羨ましがられて戦争が始まるかもしれない。このことは秘密にしておこう。
「変な感じだな。お互いのイヤホンをただ交換しただけじゃないか」
「そうなりますね」
「まあ問題も解決したし先に学校に行くよ」
学校に向かおうと一歩踏み出したとき、再び後ろから服の袖を掴まれた。
「あ、あの……」
今度はなんだ。あんまり関わると後で俺がいじめられるかもしれないからやめてほしいんだが……。
「私と……オタク友達になってください‼︎ 」
オタク友達⁉︎ 彼氏とかじゃなくて?
いや、まあ彼氏はありえないんだけど。
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